第一章 それぞれの旅立ち
この世界の辺境に小さな村があった。
村の名はレグスの村という。
小さいが活気があり旅人にも優しい村だった。
しかしある日尋ねてきた旅人に関わったため村は存亡の危機に瀕していた。
その旅人とは旅の商人風であったがドラゴンに襲われ傷ついた身で村を訪れた。
その男は傷がいえるやいなや早々と村を後にしたがドラゴンの恨みを買ったその男を匿ったためその村もドラゴンの襲撃をうけていた。
村の若い男手はほとんど出稼ぎに出ており。
村に残っているのは老人に女こどもばかりであった。
いっそのこと村を捨てて逃げる案も出はしたが老人や幼いこども、足の不自由な者も多くいたため話し合いは困難を極めた。
村長の一人娘セ―ニャ(17歳)は自分を人身御供にと名乗りを上げたが、村長はもとより村の誰ひとりとして首を縦に振らなかった。
だがそれで諦めるセ―ニャではなかった。
村長の家にはとても大きな蔵があった。
その蔵にはいろいろな物が収められている。
その家に伝わる物はもちろんのこと、村の災いとなる物なども村長は好んで預かっていた。
蔵の鍵は厳重に保管されているので普段ならおいそれと入ることはかなわなかったが今回の騒ぎのためそれどころではなかった。
そのためセーニャは易々と入ることが出来た。
セーニャの目的はむろん村の危機を救うことの出来るものであったが闇雲ではない。
セーニャには心当たりがあった。
それはセーニャが幼い頃のことである。
ふらりとやってきた旅の男に殺されそうになったことがあった。
その男は一振りの剣を携え誰彼構わず切りつけていた。
その男は正気を失った様子であり幼い子といえど容赦さず切りかかってきた。
たまたま通りかがった若い女剣士に助けられたがその女剣士が凄腕でなければ死んでいたに違いない。
男は剣を奪われると正気を取り戻し去っていったがその剣は村で預かることになった。
当初村人達は女剣士にその剣の破壊を依頼したが「いつか必要になる時が来ます」と言い残して去っていった。
セーニャはその剣を蔵の中を探し回りついに見つけたが幼い頃思い描いていた持つ人の心を惑わし殺戮を行なわせるまがまがしい剣という印象はなくただの古びた剣としか映らなかった。
「そんな・・・」
セーニャは思わずその場に崩れ落ちた。
「確かに恐ろしい剣、平和な世の中なら二度と世に出してはならない剣!」
「しかし、それでも、今はそんな剣でも頼らなければならない時!」
「今この魔剣が無なければすべて終わってしまう!」
セーニャは震える手で剣を取り鞘を抜いた。
やはり、何の気配も感じない。
ただの剣、いや、手入れもされなくなって久しいだけに。
ただの剣以下であろうか。
「魔剣さん、私はどうなってもかまいません、どうぞお力を!」
セーニャの涙が頬を落ち剣に伝わった。
すると魔剣から声がした。
「娘、汝、何故に我を呼び覚ます?」
「ああ・・」
セーニャは思わず剣を抱きよせる。
セーニャは剣をだき体が傷つくのもかまわず剣に向かって話し始めた。
「魔剣さん、今この村はドラゴンの襲撃にあい危機に瀕しています!」
「どうぞお力をおかしください!」
「ふん、成る程、我を長い間、閉じ込めて置きながらそんなつまらんことか・・・」
「断る、我は人の血を長い間吸っておらぬ故錆びておる!」
「娘、是非にと申すなら我に切られるか?」
「さすれば我、力蘇らん!」
「それはかまいませぬが、それでは扱う者がなくなります!」
「構わん、娘死すとも我がその体をもらおう!」
「では、この体差し上げますゆえ必ず村をお救いください!」
セーニャは魔剣を一度引き離すと手首を軽く切った。
「こうすれば体の損傷は少なく血がなくなれば死にます」
手首からはどくどくと血が流れ出しセーニャの顔色は見る見るうちに白くなっていく。
魔剣はセーニャの手首から流れる血を受けて真っ赤に染まっている。
しかし魔剣は待望の血を吸い、そして肉体が手に入るというのにどこかつまらなそうだった。
「娘よ、何故、我を信ずる?」
「禍々しいこの身、約束など守ると思うてか?」
「溺れるものは藁にもすがります!」
「特に人間は弱い生き物ですから!」
もうセーニャにはしゃべる気力も僅かしか残されておらず最後のほうは聞き取りにくかった。
すると魔剣の様子が一変した。
「フッ、しようがねえなあ、茶番は終りだ。あんた、もう一度手首の同じとこを切りな!」
その声は今までのような硬い口調ではなく声質もずっと若く感じられた。
セーニャは既に意識が朦朧としかけていたが声は聞こえた。
だがしかし体に力が入らない。
だが「最後の藁だ、それさえ成せば後は何とかしてやろう」という魔剣の声を境に意識を失った。
そして娘が気がついたのは自分の家だった。
娘は生きていた。
セーニャはすかさず自分の手首を見るが傷跡などない。
そして傍らにはあの魔剣が置かれていた。
あのあと地震がおこり自分が居なくなっていることに気づくと父は自分を探していたらしい。
すると激しい光が蔵のほうから漏れていて蔵の前にこの剣を握った自分が倒れていたという。
セーニャは激しい貧血状態だったが命に別状は無かった。
しかしセーニャにはわけが解らなかった。
私は夢を見ていたの?
でも、傷はなくても剣はここにある。
すると心の中に語りかけるものがあった。
「俺だ、あんたが魔剣と呼んでいたものだ!」
「あのあと地震があってな、偶然そのショックで!」
「あんたは手首の同じところを切ったのさ!」
あ、あなたは? セーニャは口には出さなかったが
魔剣はその言葉を読みとり。二人(魔剣とセーニャ)はしばしの間、無言の会話を続けた。
「実は俺は魔剣ではない!」
「使い手によって聖剣にも魔剣にもなるのさ!」
「さっきまで今までの使い手の影響で魔剣の様な存在ではあったが!」
「あんたに触れられているうちに聖剣の様な存在と化した俺は切ることも出来ればその逆も出来る!」
「すなわち切れた手首をもう一度切ったからこそあんたは命を取り留めたのさ!」
「では聖剣様、是非お力を!」
かくして村を救おうとした娘セーニャは聖剣の力を借り村を守り抜いた。
だがしかし、他の多くの村では今もドラゴンの脅威にさらされている。
セーニャは他の村も救うべくドラゴンバスターズになるべく決意固く旅立った。
暗黒仮面の剣士アレッシュ(21歳)。
全身が鎧と仮面で覆われており異様な雰囲気を持つ。
ドラゴンの炎を全身に浴び全身大やけどで生死の境をさ迷ったため、ドラゴンを尋常ではないほど憎んでいる。
暗い暗い地獄の底、男はいつ燃え尽きるともしれぬ地獄の業火に焼かれていた。
男は猛火の中、身動きひとつ出来ずに己の体が焼かれていくのを留めることも出来ず、ただその熱と痛みを全身に走らすことしか出来なかった。
だがこれは過ぎ去りし出来事である。
現実ではその男はその日以来常にその悪夢に起こされ目を覚ます。
自分でも死ななかったのが不思議だが、ドラゴンに襲われ全身に大やけどを負いながらも生き残ったその男は己の意思とは別にドラゴンと戦うことを宿命付けられてしまった一人である。
だが全身を甲冑で覆ったその男の素性はそれ以上は定かではなかった。
そしてその男は姿を消した。
格闘家タイソー(26歳)。
最強の格闘家を目指す男タイソーは格闘家としての腕はかなりのもので数々の格闘大会で優勝をかっさらい、あちこちの道場で道場破りをするなどそれなりに名高い格闘家。
格闘家の基本である熊殺しや虎殺しも終えた今、ドラゴン殺しが最も興味ある事柄である。
最強の生物ドラゴン。
彼は格闘家として武器を使わずドラゴンと戦いたいと常々思っていた。
しかし、格闘家としての名声をほしいままにしている彼でさえその事を口にすると多くのものが彼をあざ笑わずにいなかった。
確かにばかげているかもしれない。
武器を持った公明な剣士でさえ次々と還らぬ者となっていると聞く。
そんなドラゴンを相手に・・・
だが彼は人であれなんであれ、強いものと戦いたいという想いがすさまじく強かった。
今までも動物であれ人間であれ強い相手にはかならず挑戦していった。
今までは負けたとしても九死に一生を得たが今回ばかりは今までとは比べ物にならない強敵である。
とはいえ彼の心は決まっていた。
そしてドラゴンを求めて旅に出た。
ドラゴン使いの娘マリーン(14歳)。
不思議な雰囲気を持ち不思議な力でドラゴンを操る。
魔法かどのような術かは定かではないが戦いになると何処とも無くドラゴンを呼び出し戦わせる。
ドラゴンのせいで今や国は荒れていたがドラゴンだけではない場合もあった。
盗賊のなかにはドラゴンの仕業に見せかけるため村を襲い、金品を強奪した後、村人を皆殺しにし、そして火を放つという凶悪な一団もいた。
とある村に一人の少女が通りかかったとき、まさにその直後であった。
少女の名はマリーン14歳。
高価な衣装を見に付けていることから王族のように見えたが従者も連れずただ一人で旅をしているかの様に見えた。
マリーンは驚きも逃げようともせず、ただその場に立ち尽くしていた。
そして怖がりもせずその真っ直ぐな瞳を盗賊の一団に投げかけていた。
盗賊の一味は少女に気づくと剣を構えマリーンを取り囲んだ。
そしてその中の一人が「お嬢ちゃん、見ちゃいけねえもんを見ちまったな」と言うと
一味の一人が切りかかってきた。
しかし、その瞬間、白いなにかが男をさえぎり、少女をさらって行った。
すると男たちは白いドラゴンの背に跨る少女の姿を一瞬だけ垣間見た。
そう、一瞬だけ、なぜなら次の瞬間には男たちはその白いドラゴンの吐く炎によって黒焦げになっていたからである。
この少女こそ数日前にドラゴンによって滅ぼされた(とされる)
リーンバルト王国の王族の生き残りで第二皇女のマリーンその人であった。
ドラゴンの名を借りた隣国の王族の策略によりリーンバルト三世、王妃、第一皇女、そしてその他の城に仕えるものは全て殺されてしまった。
そして一人だけ他の者に守られ一命を取り留めたマリーンであったが城門を硬く閉ざされ一階は既に戦火に巻かれ、城内からは脱出不可能と判断した敵は引き上げていった。
マリーンは身内はおろか城に仕えたものまでもが次々と死んでいく中、自分だけは復讐のために生き延びようと人と煙に追われながらも屋上まで逃げ延びていた。
だが屋上まで来ても火の勢いはまったく弱まらず、かといって魔法も使えず、空を飛べる道具も持たぬ自分が飛び降りて助かるはずも無い。
悔しい、結局生き延びることは出来ない・・・
そんな中、一匹の白いドラゴンがどこからともなく現れ少女の眼前に降り立った。
ハッとなるマリーン。
「そうよ、私だけはあんな奴らには殺させない、このドラゴンに殺されたほうがはるかにまし」そう呟くとマリーンは白いドラゴンに身を委ねるようにして気を失った。
その少女の顔は微笑んで見えた。
そして白いドラゴンはマリーンを背に乗せるといずこともなく飛び去った。
魔法使いの少女フローラ(19歳)。彼女は宮廷魔術士を目指す一人であった。
そして彼女に志しを共にする一人の仲間が居た。
同年代の親友でその名をフレイヤといった。
フレイヤは同年代の中でもメキメキと力を付けてゆき、リーンバルトという城の宮廷魔術士に選ばれた。
彼女はフローラに待っているから同じ城で働けるように修行を頑張ってと言い残しと去っていったが、それがフローラが見たフレイヤの最後の姿であった。
フローラはフレイヤのいた城が滅ぼされ、フレイヤが死んだことを知らされると修行中の身でありながらこつぜんと姿を消した。
フローラが姿を消すと同時に魔道協会の大魔術図書館にある地下の秘密書庫に保管されていた禁術とされている魔道書のうちの数冊がなくなっており、フローラは魔術協会から指名手配される身となった。
しかし消息は一向につかめなかった。