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70 アキラとエレナード2

「それじゃ、始めましょうか」


 そう告げたエレナードは、不意に練成魔法を行使し、地面から禍々しい槍を生成する。

 対するアキラも、冷静に何かを察した様子で腰に携えた剣を引き抜いた。


 つい先ほどまで互いの意思を確認していた二人は、何の躊躇ためらいもなく武器を構えて戦闘体勢をとる。

 それは、甚だ矛盾した行為だ。


 勇者は戦いを否定し、魔王は戦いを不益だと断じた。

 そんな二人が、それぞれの陣営を代表して対話していたにもかかわらず、勇者と魔王はそれが当然であるかのように武器を構えている。


 互いの距離は少し離れているが、注ぎ込まれた膨大な魔力によって生じたオーラは二人の間で磁石のように反発する。

 それはまるで、勇者と魔王という交わりざる互いの立場を表しているかのようでもあった。


「私は手加減できないわよ」


「問題ない。全力でこい」


 アキラの余裕ありげな態度が癪に障った様子のエレナードは、舌打ちをしてジリと両足を踏ん張る。


「大した自信ね……だけど、私だって、やるときゃやるんだからッ!」


 次の瞬間、勢いよく地面を蹴ったエレナードは低空を高速飛行してアキラに向けて一直線で突き進む。

 そして、一瞬のうちに両者の構えた剣と槍が交わり、凄まじい衝撃波が大地を揺らす。

 草木は倒れ、地面はめくりあがり、耳をつんざく轟音は水平線の先まで響き渡る。


 同時に、その光景を遠巻きに見ていた人類と魔物の両軍は、声を揃えて盛大な声援と歓声をあげた。

 彼らは熱狂している。いつ血で血を洗う戦いが始まってもおかしくない戦場という空間にいながら、目の前で始まった一騎打ちに興奮し、熱狂しているのだ。


 そんな観衆に演出された舞台の中心でつばぜり合いをするアキラとエレナードは、互いに最大まで強化された腕力を押し付けあいながら睨み合う。


「ッ……力は、互角ってところね!」


「だが、この程度じゃ物足りないだろ。もっと派手にこいよ」


 アキラの挑発ともとれる言葉を受け、キッと鋭く目を細めたエレナードは勢いよく槍を振り抜いて一旦距離をとる。


「そうね……ギャラリーを、満足させてあげましょッ!」


 すると、一気に距離を詰めたエレナードは槍で鋭い横薙ぎを二度三度と繰り出す。

 アキラは一連の斬撃を素直に剣で防ぎ、衝撃を正面から受け止める。

 その威力は地面をめくりあげてしまうほどで、アキラが攻撃を防ぐたびに激しい土煙が舞っては吹き飛ぶ光景が繰り返される。


「いい感じだ。魔力は温存したい。そのまま続けてくれ」


「余裕そうなのがッ! 癪に障るわねッ!」


 そう叫んだエレナードは一呼吸置いて距離を取り、渾身の突きを繰り出す。

 そして、舞い上がった土煙が晴れると共に二人の姿が露わになる。

 アキラはエレナードの突きを寸前のところで躱わしていた。


 だが、凄まじい勢いで放たれた突きによる風圧は、アキラの脇腹をわずかに切り裂いていた。

 赤い血しぶきが飛び散る中、エレナードは槍を突き立てたまま顔をしかめる。

 その様子は、どこか当惑しているようでもある。


「ッ!……わざと寸前で躱わしたの?」


「いや、俺は本気で回避した。これはお前の実力だ」


 そう告げたアキラが剣で槍を弾くと同時に、エレナードは再び距離を置いて槍を構えなおす。


「さっきから防戦一方だけど、そっちからもかかってきたらどう?」


「俺はもう、誰も傷つけない。傷つくのは俺だけでいい」


 そんな言葉に対し、エレナードはギリと歯を鳴らして目を細める。


「私、アンタみたいに自己犠牲に走るヤツは嫌いなの。誰かのために自分が傷つこうとするなんて、バカのすることよ」


「バカ、か……死んでいった者達を貶める気はないが、俺もそうやって自己犠牲に走る人達を叱ってやればよかったのかもな」


「叱っても無駄よ。バカは死ぬまでバカのままなんだから。私みたいなヤツのために死ぬなんて、ホントにバカのすることなんだから……」


 そう告げて俯くエレナードの表情は、口汚い言葉遣いとは裏腹に、深い後悔がうかがえる。

 それでも、すぐに真剣な表情を取り戻して手に持つ槍を力強く握り込んだ。


「私は、自己犠牲が尊いとは思わない。誰かが誰かのために死ぬ必要なんてないのよ。もっと賢いやり方はいくらでもあるわ」


「そうだな。俺は、お前に負けたお陰で賢くなれたようだ。感謝するよ」


「あら光栄ね。そして、アンタを生かしたからこそ、この状況が生まれた。狙ってやったわけじゃないけど、結果的にアンタを殺さなくて正解だったわ」


 すると、アキラはわずかに笑みを見せる。


「本当は殺せなかっただけなんじゃないか?」


 対して、エレナードは自嘲気味な笑みを浮かべて応じる。


「随分と舐められたものね……さて、無駄口はもうおしまいよ。そろそろフィナーレといきましょ」


「ああ。最後に派手な演出を一発かましてやろう」


 そんな会話を交したアキラとエレナードは、互いに武器を構えて腰を落とす。

 瞬時に場は静まりかえり、青々と晴れ渡る草原の下で勇者と魔王が対峙する。


 そして、二人の間に微かな風が吹き抜けた次の瞬間、同時に足を踏み込んだアキラとエレナードは凄まじい勢いで突進し、かつてない程の威力で剣と槍を交えた。

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