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68 アキラの意思4

 勇者一行の魔王城襲撃から数日後、エレナード率いるインダリア帝国は四大将軍三人の喪失を受け、弔いの儀の用意と組織の再編を進めていた。

 同時に、襲撃作戦を敢行した当のテグリス王国が大規模な侵攻作戦を計画しているという情報もエレナードの耳に入っていた。


 前回の会戦で手痛い損害を被ったはずのテグリス王国が短期間のうちに二度目の侵攻を試みようとしている意図は、エレナードにも理解できる。

 インダリア帝国の大幹部である四大将軍を喪失した今の状態を、テグリス王国は好機と見ているのだろう。

 正直なところ、その判断は正しいと認めざるを得なかった。


 エレナードはやむなく弔いの儀をなるべく簡略化し、敵の侵攻を迎え撃つ準備を進めるよう指示を出した。

 そんな時、玉座の間で防衛作戦の中身を練っていたエレナードの下に、どこか焦った様子のエニセイが唐突に駆け込んできた。


「エレナード様に申し上げます! わ、我が国内に再び勇者が現れたという報告が入りました!」


 不意に告げられたエニセイの言葉に驚いたエレナードは、寝耳に水とばかりに玉座から立ち上がって目を見開く。


「なんですって! テグリス王国の侵攻準備はまだ十分じゃなかったはずでしょ! まさか、また勇者が単身で乗り込んできたっていうの!?」


 数日前、魔王城で敗北を喫した勇者アキラは、完全に戦意を喪失していた。

 同時に、己が戦う理由に疑問を抱き、深い後悔に苛まれていた。

 

 そんなアキラと直接言葉を交したエレナードは、戦いが不毛であるという現実を分かち合ったつもりでいた。

 敵としてではなく、同じ心を持つ者としてアキラを信用したつもりでいた。


 だというのに、アキラは再びインダリア帝国の地に踏み入ってきた。

 その事実を前に、エレナードは裏切られたと感じるよりは、己の浅はかさを呪った。

 結局、人類と魔物は対立するしかないという現実を最悪の形で突き付けられた心地がした。


 四大将軍三人を失った今、アキラに対抗できる戦力は限られている。

 焦るエレナードは、すぐさま状況の確認を試みる。


「被害状況は!?」


 すると、エニセイは焦ると言うより、どこか当惑した様子で応じた。

 

「いえ、その、勇者が我が領内に侵入してきたのは事実なのですが、国境守備隊の陣地に乗り込んだ勇者は、戦闘行為を威嚇と防御にとどめ、エレナード様と交渉したいと喚いているようでして……」


 その言葉を受け、エレナードはいささか安心することができた。

 どうやらアキラは、戦うためにこの地へ踏み入ってきたわけではないらしい。


 だが、アキラの所属するテグリス王国が侵攻準備を進めている事実に変わり話ない。

 こちらに剣先を向けているような状況下で、テグリス王国戦力の要でもある勇者は一体何を交渉するつもりなのか。


 エレナードは、失意から立ち直り強引とも言える行動に出たアキラの意思に興味を抱く。

 とりあえず、会話をするだけなら大きな問題は起こらないだろう。

 そう判断し、すぐさまエニセイに指示を飛ばす。


「エニセイ。勇者アキラと共鳴水晶で通話できるように手配しなさい。とりあえず、話だけは聞いてみるわ」


 その言葉にエニセイは驚きの表情を見せたが、特に反論を述べることもなく、いそいそと部屋を飛び出していった。



 * * *



 それから数分後、エニセイは一際大きい共鳴水晶をエレナードの前に設置した。


 水晶の中には、真剣な表情を見せる勇者アキラと、その周囲を取り囲むようにして敵意の眼差しを向ける魔物達が群がっている。

 傍目から見ると随分シュールな光景だ。


 そんなアキラを前にして、エレナードはなるべく尊大な態度をとって声をかける。


「数日ぶりね勇者さん。私の領土に無断で立ち入るなんて、私に殺される覚悟ができたってことかしら?」


『強引な手を使ったことは謝る。俺はただ、君と交渉しに来ただけなんだ』


 開口一番に謝罪するアキラの態度を見たエレナードは、いささか安心しつつもそれを態度に表さず対話を続ける。


「交渉ねぇ……小耳に挟んだけど、アンタの国は我が国に向けて不当な武力行使の準備を進めているそうじゃない。そんな状況で、アンタは何を交渉しようって言うの?」


『それは国の意思だ。だが、俺の意思は違う。だから、俺はここに来たんだ』


「それじゃ、アンタの意思とやらを聞かせてもらおうかしら」

 

 エレナードの問いに対し、アキラは力強く意思のこもった声で応じる。


『俺は、戦いを止めたいんだ』


 その言葉を聞いた瞬間、エレナードはどこか心が揺れ動かされた気がした。

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