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58 魔王城屋上決戦4

 ラインとユフィの死を目の当たりにして立ち尽くすアキラの前に、トヴェルツァは静かに歩み寄る。


「もはや戦う気力もないか。しかし、これが貴様達の選んだ結果だ。争いという道を選び、殺し合い、そして貴様達は負けた。今さらそんなことに疑問を抱いているのか?」


 選んだ結果――その言葉は、一面の事実だ。

 きっかけは成り行きだったかもしれない。だが、魔物との戦いで多くの人が命を落としているという現実を知り、アキラは自らの意思で剣を握るようになった。


 今まではどんな困難が立ちはだかろうと、なんとかなると思っていた。

 頼りになる仲間達と一緒なら、人類に平和が訪れるその日まで戦い続けられると思った。

 それが、強大な力を持って転生した己の役目なのだとアキラは自分に言い聞かせていた。


 では、仮にアキラが戦うという道を選ばなければ、ラインとユフィは死なずに済んだのか。

 確かに、この作戦はアキラ無くして成立しないものだった。

 勇者アキラという存在がいなければ、実行されることはなかっただろう。


 それならば、やはりアキラが戦う道を選んだのは間違っていたのだろうか。

 アキラの存在によって、ラインとユフィは死ぬことになったのだろうか。


 そんなことを考えているうちに、静かに歩みを進めたトヴェルツァはアキラの間近に迫る。


「たとえ貴様が戦う意思を失っていたとしても、私は容赦しない。勇者は、魔王様とこの国に害を成す存在だ。そして、貴様達はドヴィナとアムールの仇でもある。我が同胞の報いと、インダリア帝国の繁栄のために死んでもらおう」


 そう告げたトヴェルツァは、片手に握る剣を緩慢に振り上げる。

 それでもアキラは、立ち尽くしたまま微動だにしなかった。


(俺のせいで、ラインとユフィは死んだのか? 俺は間違っていたのか?)


 間違い。はたして、そうなのだろうか。


 アキラが戦いに赴き、そして魔王討伐に乗り出したのは、それがデグリス王国、引いては人類の為になると思ったからだ。

 アキラが先の会戦で活躍しなければ、さらに多くの兵士が命を落とし、決定的な敗北を喫していたかもしれない。

 そして、アキラが魔王を討たねば、人類と魔物の戦いはこの先も続くことになるだろう。


 仮にアキラが戦う道を選ばず、結果的にラインとユフィこの場で命を落とさなかったとして、それは正しい道なのだろうか。


 いや、違う。

 選んだ道が正しいか正しくないか、間違っていたかどうかは、まだ決まっていない。

 アキラは自らの意思でこの道を選んだのだ。

 そして、どんなに悔いたところで、ラインとユフィが命を落とした事実に変わりはない。


 では、アキラはどうするべきなのか。

 答えは最初から決まっている。

 

 次の瞬間、トヴェルツァのかざした剣はアキラに向けて振り下ろされる。

 だが、その単調な剣撃はアキラの握る剣によって防がれた。


「そうだ。これが、俺の選んだ道なんだ……俺はまだ、負けてない」


 そう告げるアキラの眼差しは強い決意に燃え、滾るような輝きを放つ。

 

 この戦いに赴いた決断が正しかったかどうかはわからない。

 だが、少なくとも生き残ったアキラが魔王を討たねば、ラインとユフィの死は無駄になってしまう。


 アキラは手に握る剣に力を込め、己の前に立ちはだかるトヴェルツァを打ち倒さんとする。

 全ては、この戦いに命を賭した者達の死を無駄にしないために。


「それが貴様の選んだ答えか……ならばよかろう。私の全力をもって、貴様を退けるだけのことだ」


 そう告げた刹那、トヴェルツァは交わる剣を弾いて鋭い横薙ぎを繰り出す。

 対するアキラは、攻撃を剣で受けずにバックステップで回避する。

 その動きを見越したトヴェルツァは抜け目なく突きを繰り出したが、その空間にアキラの姿はない。


 アキラは咄嗟に風魔法を行使し、風圧で自身の体を素早く横に逸らしていたのだ。

 それはかくも冷静に行われた動作のようだが、その実は本能的に見いだされた技だ。


(剣技や立ち回りじゃ敵わない。俺の全力……持ちうる全ての力を出し切って対抗するしかない!)


 そんな決意は、アキラの動きに変化をもたらす。

 何も魔法は、攻撃を繰り出すためだけの技ではない。


 風魔法は肉体の動きを加速させ、土魔法は地面を蹴る足の動きをサポートする。

 剣には電撃を纏わせ、氷魔法で敵の足元を脅かす。


 そんな複合技で、二手三手と形を変えて奇襲を繰り出す。


 だが、それら魔法による工夫はトヴェルツァも行使することができる。

 隙を見せればアキラの目の前に炎が現れ、氷の矢と電撃の弾丸が降り注ぐ。

 剣による斬り合いは間合いを取った瞬間に魔法攻撃の応報となり、互いに魔法を避けるために再び距離を詰めていく。


 当初、その戦いは巧みさと冷静さを兼ね備えるトヴェルツァが優勢に立ちまわっているように見えた。

 しかし、魔法の行使タイミングはアキラが一歩抜きん出た工夫を凝らしており、トヴェルツァが奇襲を受ける場面も見受けられる。


 戦いの間、アキラはほぼ無心に近かった。

 仲間の死により己の使命を自覚したアキラは、本能の赴くままに次から次へと戦いの形を変えていく。


 時にはユフィが見せた防御魔法を応用した壁蹴りを使い、時にはラインの剣撃を真似て鋭い薙ぎを繰り出す。

 アキラの中には、間違いなく二人が()()()()()

 戦いの中で命を落とした二人の仲間が、アキラに力を与えている。

 

 そんな二人の死闘は、いよいよ魔力の消耗戦へと移行していた。

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