表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/76

53 強襲降下

 その後、四大将軍アムールをしりぞけたアキラとユフィは、空中戦を続ける本隊に合流し魔王城へ向けて前進を続けた。


 魔王城に近づけば近づくほど敵の抵抗は激しさを増したが、幸いなことに司令塔であるアムールを失った敵は勢いを失い、再び防御魔法を展開した襲撃隊は被害を最小限に抑えつつ前進することができた。

 そして、絶え間ない空中戦を繰り広げながら、襲撃隊はいよいよ目的地である魔王城上空に到達する。


 堅牢な城壁と無数の塔で構成された魔王城の重厚なシルエットを視線に捉えたラインは、迫る敵を振り払いつつ高々と声を上げる。


「テメェら! 魔王城は目前だ! 輸送隊は防御魔法を解除して各個に散開しろ! 手が空いたヤツは魔王城に一発ブチかましてやれ!」


 ラインの指示により、防御魔法を解除した輸送隊は密集態勢から一転して、蜘蛛の子を散らしたように分散する。

 事前の打ち合わせでは、魔王の所在を効率よく探るためにいくつかのペアを組みあわせた小隊を構成して魔王城に分散降下する手はずになっている。


 その前段階として、最初のご挨拶とばかりに魔女ウィッチ達は一斉に魔法を詠唱し、魔王城に向けて遠距離攻撃魔法を放つ態勢をとる。


「目標、魔王城! 爆炎魔法、着弾発火! 全員、放てッ!」


 司令塔である姉御肌の魔女ウィッチが告げた号令に合わせ、二百あまりの魔女ウィッチは一斉に爆炎魔法を放つ。

 次の瞬間、凄まじい轟音と共に魔王城は無数の爆炎に包まれ、巨大な城塞のシルエットが隠れてしまうほどの黒煙に覆われる。


 しかし、薄れる黒煙の中から再び姿を現した魔王城は、強烈な衝撃をものともせず無傷のままその場に鎮座していた。

 その様子を見たラインは、想定通りとは言え口惜しそうに舌打ちをする。


「クソっ、やっぱり防御魔法を張ってあるか……全員、攻撃止めだ! 魔力を無駄にするな! 各個に降下を開始しろ!」


 挨拶代わりの遠距離攻撃が無益だと判断した襲撃隊は、当初の予定通り魔王城に向けて分散しつつ直接降下を試みる。

 その上で、一番の要所となるのは最上階の屋上だ。


 基本的に籠城戦では天守となる最上階に司令官が居座るものだ。

 もちろん、襲撃の一報を受けた魔王が事前に退避している可能性も十分に考えられるが、それでも魔王城の中枢である天守を制圧できたとなれば、十分な心理的打撃を与えることができる。


 そこで、アキラやユフィ、ラインを始めとする主力は敵の多い少ないにかかわらず最上階に降下する予定になっていた。

 他の降下部隊は、実質的な陽動と魔王捜索隊のようなものだ。


 襲撃隊は事前に立てた作戦通り、一気に高度を下げて各々降下を試みる。

 魔王城の上空は今までとは比にならないほどの敵がひしめいており、降下を続ける輸送隊は激しい抵抗を受ける。状況はまさに大乱戦だ。

 そんな中、アキラとユフィ、それにラインと姉御肌の魔女ウィッチも速度を上げつつ魔王城最上階の屋上迫る。


 だが、彼らの向かう先には、見覚えのある敵――四大将軍トヴェルツァとドヴィナの姿があった。



 * * *



 最上階の屋上で待機していたトヴェルツァとドヴィナは、上空に迫る勇者一行を見上げつつ武器を手に取る。


「あらあらぁー? ここに来るのは勇者とそのオマケ達だけみたいねぇー。まあ、その方が都合がいいんだけど」


「そうだな。我々は勇者アキラの討伐に専念すべきだろう。部下達はここいいても足手まといだ。衛兵は周囲に降下した敵の迎撃に当たれ」


 トヴェルツァの指示により、屋上に集まっていた他の魔物達は城内へ引き返し、屋上はトヴェルツァとドヴィナの二人だけになる。


「それにしても、アナタと肩を並べて戦うのはこれが初めてねぇ。元勇者トベっちの実力を間近で見られるのは楽しみだわぁー」


「無駄口はそれくらいにしておけ。油断して勝てるほど勇者の相手は甘くないぞ。お前はそもそも、一度勇者に敗北しているだろ」


「わかってるわよ! 私達が負けたら、エレナちゃんの身に危険が及ぶかもしれないんだから油断なんてしてられないわ。リアードのような不幸は、もう絶対に起こさない……私にだって、それくらいの覚悟とプライドはあるんだから」


 リアードの名を聞いたトヴェルツァは、剣を握る手に力を入れる。


 かつてトヴェルツァは、エルベとリアードという二人の女性を失った。彼女達を守るために戦うことができなかった。


 だからこそ、トヴェルツァはゴブリンの老婆を救ったあの日から、この国を守るため、この地に住まう魔物達を守るために戦おうと決めた。

 それが、トヴェルツァの戦う理由でもある『義』だ。


 もちろん、今まさに魔王を討たんと現れた勇者アキラにも義はあるのだろう。

 人類の安寧と発展のために、正義感と決意を胸に剣を握っているのだろう。

 かつて勇者として魔王に挑んだトヴェルツァには、それがわかる。


 以前戦場で出会ったアキラは、人類のために戦うことに何の疑いも持たぬ純粋な目をしていた。

 そんなアキラと対峙したトヴェルツァは、まるでかつての自分と向き合わされるような心地になる。


 トヴェルツァにとって、アキラとの戦いは過去の因縁を絶ち切る戦いでもある。

 それを思えば、油断や手加減などできようはずもなかった。


 己の決意を再確認したトヴェルツァは、上空に迫る敵を一点に見つめ、片手に持ち替えた剣を大きく振りかぶる。


「私が勇者の相手をする。お前は他の邪魔者を迎え撃て」


「指示されるのは癪だけど、今日は四大将軍第二位の顔を立ててアナタに従ってあげるわ!」


 そう告げると同時に、ドヴィナの握っていた槍が分裂し、針の群れとなって宙にばら撒かれる。


「私の華麗なる攻撃に魅了されなさい……インダクション、シュートッ!」


 ドヴィナが呪文を言い放つと、針の群れは上空へ向かって一気に放たれる。

 そして、ドヴィナとタイミングを合わせてトヴェルツァも魔法攻撃を開始した。


「一撃で仕留める……エアスラッシュ!」


 トヴェルツァの放った風の塊は、勇者とユフィ目がけて一直線に突き進む。


 こうして、この戦いの雌雄を決する魔王城屋上の決戦が幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ