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51 空の死闘3

 相談を終えたアキラとユフィは、アムールの出方をうかがうかのようにじっとその場に佇む。

 対するアムールは静かに槍を構え、攻撃態勢を整えた。


「何か策があるかと思えば様子見か? では、こちらから仕掛けさせてもらう」


 そう告げたアムールがゆらりと翼をはためかせた刹那、不意にアキラが動きを見せた。


「エアスラッシュ!」


 素早くアキラが剣を振るうと、刃となった風の塊がアムールに迫る。

 アムールは瞬時に翼をたたみ、急降下でこれを回避する。


 そして、降下して得た速度を利用し、一気にアキラとユフィの下に迫った。


「次は我の手番といかせてもらおう!」


 すると、ユフィは瞬時に箒の向きを変え、アムールから逃げるように急加速する。

 ユフィとアキラが背を見せたことで、状況は再びアムールが二人を追う形となった。


「どうした! 怖気づいたか!? 逃がしはせんぞ!」


 アムールは二人を挑発するかのようにアイスショットを何発か放つ。

 対するユフィは小瓶を投げてアイスショットの迎撃を兼ねた弾幕を展開する。

 同時に、アキラは背後に迫るアムールに向けて再び剣を振るった。


「エアスラッシュ!」


「ハッハァ! 貴様らの攻撃など止まって見えるわ!」


 弾幕の隙間を縫うように放たれたエアスラッシュはアムールに掠りもせず、あさっての方角へと飛んでいく。

 だが、その行動自体がアキラとユフィの考えた作戦の布石だった。


 ユフィは箒の方向を変え、アムールに追い立てられた状況で降下へと移行する。

 当然ながら、アムールは速度を落とさず追撃を継続した。


「馬鹿の一つ覚えもここまでくると呆れてしまうな! これで終いだ!」


 そう告げたアムールは、アイスショットをばら撒くように展開する。アキラとユフィを覆うように放たれたその攻撃は、回避行動を困難にする目的がある。

 そして、二人の退路を絶ったアムールは、決めてとばかりに突撃を敢行した。


「これで避けれまい! 空に散るがいいッ!」


 周囲を氷の弾丸で覆われたユフィとアキラは、もはや降下を続ける他無い。

 しかも、速度を上げたアムールは槍を突き立てすぐ後ろまで迫っている。


 だが、この状況こそアキラとユフィが望んだものだった。


「ファイヤーボールッ!」


 アキラは、まるで苦し紛れの反撃のようにファヤーボールを放つ。


「ハッ! その程度の攻撃――むうっ!」


 すると、ファイヤーボールはアムールの正面で自爆するように炸裂し、激しい爆炎と黒煙がアムール視界を覆う。

 

(めくらましか。しかし、貴様らの策は既に見切っている)


 次の瞬間、黒煙に包まれたアムールの両脇に、凄まじい速度で何かが接近してくる。

 これこそが、アキラの目論んだ奇襲だ。

 アムールの両脇に迫っていたのは、エアスラッシュによって放たれた刃を持つ風の塊だった。

 

 エアスラッシュは、魔力を注ぐことで誘導が可能な攻撃だ。

 先ほどアムールに避けられ一旦遠くへ飛び去った風の塊は、いつの間にか反転してアムールの下に迫っていたのだ。


 だが、アムールは端からその策に気付いていた。


「これが秘策とは、粗末なものだ!」


 相手に気付かれている攻撃は、奇襲になり得ない。

 槍を突き立てたアムールは両手が塞がっているため、周囲に展開させた氷の塊を風の塊に衝突させて両者を打ち消す。

 攻撃が迫っていると把握できていれば対応は容易だ。


 後は、反撃の手を失ったアキラとユフィを串刺しにするだけである。

 エアスラッシュをいとも簡単に迎撃したアムールは、徐々に晴れゆく黒煙の中で苦し紛れにユフィが展開したであろう防御魔法の壁を捉える。


「死ぬがよいッ!」


 次の瞬間、視界を眩ませる黒煙を抜けたアムールは、突き立てた槍で防御魔法の壁を粉砕する。

 その先には、箒に跨るユフィとアキラの姿が――存在しなかった。


 それは、単純な思い込みによるトリックだ。

 普通、防御魔法は身を守るために展開するものだ。だからこそ、アムールは防御魔法を破った先に相手が存在するものだと思い込んでいた。

 だが、ユフィはその思い込みを利用し、あえて()()()の場所に防御魔法を展開していたのだ。


 その策にハマったアムールは、すかさず視線を脇に逸らす。

 すると、そこには今まさに攻撃魔法を放たんとするユフィの姿が映る。


「小癪な真似をッ!」


 ユフィの姿を確認したアムールは、降下を続けながら槍を切り返して反撃を試みようとする。

 寸前のところで対応は間に合ったかに思えた。


 だが、アムールは更に困惑することになる。

 なぜなら、ユフィの背中に相乗りしていたアキラの姿が見当たらなかったからだ。


 翼を持たないアキラは、空中で逃げ場を持たないはずだ。

 では、一体どこに。


 そんなことを考えている間にも、アムールと並行しながら降下するユフィは攻撃を繰り出そうとしている。

 まずは反撃を――翻弄された末に導き出されたその判断が、全てを決定付けた。


「はあああああああぁぁぁぁぁ!!!」


「なにッ!」


 なんと、姿を消していたアキラは、雄叫びをあげながら視界の下方から姿を現したのだ。

 その移動は、他でもない転移魔法によるものだ。


 アムールは高速で降下を続けている。

 対して、下方に出現したアキラは重力による自由落下をしているが、相対的にアムールが落下するアキラに追いつく形となってしまう。


 降下の勢いを止められないアムールは、ユフィに向けた槍を返す間もなく、瞬時にアキラと交錯する。

 その刹那、アキラが薙いだ一閃はアムールの右翼を捉えていた。


人類種ヒューマン風情があああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 右翼を失ったアムールは飛行がままならなくなり、きりもみ状態となって地上に向けて一直線に墜落していく。

 そのさ中、最後の反撃とばかりにアキラへ向けてアイスショットを放つ。


「くっ!」


 防御手段を持たないアキラは両腕を盾にして氷の弾丸を食らい、ぎりぎりの凌ぎを見せる。

 だが、そんなアキラの下にアムールが投擲した槍が迫った。


「勇者様っ!」


 急加速したユフィは、アキラの体をキャッチして離脱を試みる。

 一直線に進む槍は身を乗り出したユフィの体を掠めたが、傷はわずかな血しぶきを上げる程度で致命傷には至らなかった。


 その間にも、アムールは凄まじい勢いで地上へと吸い込まれていく。

 もはや、助かる術はないだろう。


 最後まで油断のならない相手だった。

 互いに傷を負ったアキラとユフィは、体を支え合いながら小雪舞う曇天の中で強敵アムールの最期をじっと眺める。


 そして、アムールが木々の隙間へと姿を消したところで、二人は視線を交して勝利の喜びを分かち合うように頷いた。

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