表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/76

49 空の死闘

 輸送隊を守っていた防御魔法は、一瞬にして粉砕された。

 防御魔法を行使していた魔女ウィッチ達は衝撃のあまり姿勢を崩し、瞬く間に輸送隊は編隊を乱す。

 

 そんな彼らを挑発するかのように堂々と翼をはためかせて行く手を遮ったのは、一際立派な甲冑を纏った一人の竜人族ドラゴニュート――アムールだ。


「さあさあ、身を守る壁はなくなったぞ人類種ヒューマン共よ。我は魔王四大将軍が一人、愉悦のアムールである。せいぜい無様にうろたえ、我を楽しませてくれたまえ」


 二つ名に相応しく不挑発的な笑みを浮かべるアムールを前に、防御魔法を予想よりも早く突破されたラインは慌ただしく指示を飛ばす。


「魔法攻撃は同士討ちの危険がある! 騎手ライダーは全員抜剣だ! トカゲ野郎を迎え撃て!」


「ふむ、サルの分際で我を地を這うリザード呼ばわりとは下賤な……まあよい。我に刃向う気概のある者は存分に挑んでくるがよい」


 ラインの指示により、輸送隊の魔女ウィッチに跨る兵士達は一斉に剣を抜いて戦闘態勢を取る。

 襲撃部隊の中核である兵士達を空中戦に巻き込むのは不本意な判断だが、防御魔法を突破された以上は戦闘もやむなしだ。


 しかし、こういった状況を想定していなかったわけではない。

 兵士達は、魔女ウィッチに相乗りした騎乗空戦の技術も事前に訓練を積んでいる。

 その成果を発揮するかのように、何組かの魔女ウィッチと兵士のペアは箒の上で息を合わせ果敢に突撃を敢行する。

 訓練通り、防御魔法を張った箒に速度を乗せ、すれ違いざまに兵士が斬り払うスタイルだ。その様子は、まるで空を飛ぶ騎士のようだ。


 だが、アムールはひらひらと舞い踊るかのような身のこなしで魔女と騎士ウィッチライダー達の攻撃をいともたやすく回避していく。


「どんな手で来るかと思えば、何とも稚拙な技だ。この程度の実力で我に挑もうとは、片腹痛いわ」


 そんなセリフと同時に、アムールは最後に攻撃を仕掛けてきたペアに狙いを定める。

 アムールが槍による一閃を振るうと、ペアを守る防御魔法は粉砕され、突き出た槍先が魔女ウィッチの肩口を深く捉える。

 負傷により飛行魔法を維持できなくなった魔女ウィッチは、相乗りする兵士共々悲鳴を上げながら地上へと墜落するのみだ。


 その様子を眺めたアムールは顎に手を当てて満足げな笑みを浮かべる。


「うーむ、雄と雌が協奏する悲鳴というのもまた至高だな。さて、お次は雄だけを殺して恐怖に打ち震える雌の顔でも――」


 そこまで言いかけた瞬間、即座に身構えたアムールは槍を振るって何もない空間に横薙ぎを放つ。

 すると、いつの間にかアムールの目の前に迫っていた風の塊は、甲高い衝撃音と共に空中へ四散した。


 その風魔法――エアスラッシュを放ったのは、誰であろうユフィの箒に相乗りするアキラだ。


「くそっ、気付かれたか」


 悔しがるアキラの脇で、ラインは驚きの声を上げる。


「バカっ! 接近戦で攻撃魔法は使うなって言っただろ! 味方に当たったらどうすんだ!」


 そんな二人をよそに、アムールは感心した様子でアキラに視線を向ける。


「少しは腕の立つ者がいるではないか。察するに、貴様が噂の勇者とやらかね」


「ああそうだ。俺がアキラだ」


 その言葉を聞いたラインは、呆れた様子で両手を広げる。


「おいおい! お前の目標は魔王一本だろ! 自分から正体を明かすやつがあるか! 魔力だって温存しなきゃいけねぇのに!」


「どうせアイツを倒さなきゃ前には進めないんだ。強敵が相手なら俺も戦うよ。ユフィもやれるよね?」


「はい! 勇者様のために全力を尽くします!」


 三人のやり取りを眺めていたアムールは高笑いを上げる。


「殊勝な心がけだ。しかし、勇者アキラの判断は正しと言えよう。雑兵では相手にならん。魔王エレナード様の御前に赴きたくば、我を押し通ってみせるがいい」


 ラインはたまらず頭を掻き毟って声を張り上げる。


「ええい、もうどうにでもなれ! 全員でアキラをサポートしろ! 一対一で勝負する義理はねぇ!」


 そんな言葉を皮きりに、魔女と騎士ウィッチライダーはアキラの周囲に集まり、護衛体制を構築する。

 その中心で、アキラはこっそりとユフィの耳元で相談を持ちかけた。


(遠距離攻撃じゃ埒が明かないから接近戦になると思うけど、アイツの素早さに対抗できそう?)


(機動力では敵いませんが、加速力は恐らく私が上です。一撃離脱に徹すれば、勝機はあると思います)


(機動は任せる。頼んだよ)


 そう告げたアキラは、ユフィの体に回した左手に力を込める。

 相乗りする箒の上で姿勢を安定させるには、ペアの二人が体を密着させる必要がある。

 普段なら気恥ずかしくなりそうなシチュエーションだが、強敵を前にした今はそんなことを考える余裕はない。

 むしろ、互いを信頼する絆がそこにはあった。


 アキラの温もりを背中で感じるユフィは、まるで自分を鼓舞するかのように箒を握りしめ、声を張り上げる。


「いきます! リフレクトシールドっ!」


 己とアキラを覆うように防御魔法を展開したユフィは、箒を一気に加速させてアムールに対し一直線に突進する。

 その動きに呼応し、周囲に集まる魔女と騎士ウィッチライダーも同時に突撃を開始した。

 

「来るか人類種ヒューマン! 空の支配者は我々だということをとくと思い知らせてやる!」


 そんな言葉と共に、空の死闘が幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ