48 大空戦
一気に突撃を開始した翼竜の編隊とそれを阻もうとする護衛の魔女隊が接敵したことで、いよいよ空戦の幕が切って落とされた。
「ファイヤーボール詠唱始め! 距離二百……放てッ!」
まず先手を打ったのは、ファイヤーボールを斉射した魔女隊だ。
射撃指揮者の指示により炸裂する距離を指定されたファイヤーボールは、翼竜達と交わる瞬間に合わせて一挙に炸裂する。
弾幕に巻き込まれた翼竜達は姿勢を崩し、そのうち何匹かが羽をやられて地上へと墜落していく。
だが、続々と押し寄せる翼竜の群れを押し止めるには不十分な威力だ。
弾幕を回避しつつ距離を詰めた翼竜の一部は輸送隊に向けて一気に突き進んでくる。
「近接戦闘用意! 護衛隊は防御魔法を展開!」
続く指示が飛ばされると、兵士を乗せた護衛隊は巨大な防御魔法の膜に包まれる。
これこそが、魔王城到達のために用意された策のひとつだ。
翼竜達は防御魔法に守られた輸送隊に手出しすることができず、仕方なく接近してきた直掩隊との空戦に移行する。
飛びかかる翼竜をひらりとかわした魔女達は、すれ違いざまに攻撃魔法を放って迎撃を試みる。
中には不意をつかれて食い付かれる者もいたが、状況は人類側の優勢だ。
状況を輸送隊の中心で見守るラインは、「よしよし」と満足げに頷く。
「訓練の成果が出てるな。この程度の敵なら余裕でしのげるぜ」
そんな楽観的にな言葉に対し、ラインを背中に乗せる姉御肌の魔女は語気強く応じる。
「バカっ。こんなの序の口に決まってるでしょ。本番はこれからよ」
彼女の放った戒めに応じ、アキラを背後に乗せて近くを飛んでいるユフィも真剣な表情で口を開く。
「恐らく、この翼竜達は敵の前哨部隊です。竜人族の姿も見当たりませんし、すぐに増援が来ると思います。油断しないでください」
「わかってるよ。まあしかし、輸送隊の俺達は言わば足手まといだ。しばらくは魔女達の奮闘を祈る他無いな」
そんな会話を交わしている間にも、襲撃隊は空戦を繰り広げながら快調なペースで前進を続ける。
防御魔法を展開した輸送隊は敵の妨害を受けないため、速度を落とさずに前進することができる。これもすべて作戦のうちだ。
しかし、敵もただで突破を許すつもりはないらしい。
しばらく前進を続けると、前方から敵の増援と思われる影が姿を現す。
綺麗な列を成し秩序ある編隊を維持したその部隊は、今までの翼竜達とは異なる雰囲気を帯びている。
「きやがったな。竜人族のお出ましだ」
そんなラインの言葉通り、翼竜に続いて襲撃隊の前に現れたのは、立派な装備を纏い翼をはためかせる竜人族の群れだった。
* * *
敵が領内に侵入したという情報を受けて魔王城を立ったアムール率いる空軍の主力は、ようやく戦場となっている空域に辿りつくことができた。
視界の先で繰り広げられる空戦の様子を目視したアムールの部下は、友軍からもたらされた情報をアムールに伝達する。
「アムール様。第一航空隊の情報によると、敵は降下兵を搭載した部隊に防御魔法を展開し、強行突破を目論んでいる模様です」
その言葉に、翼をはためかせるアムールは「ふむ」と冷静に相槌を討つ。
「無能な人類種の考えそうなことだ。的が大きいのは我らにとっても都合がいい。魔法の斉射でシールドを破壊してやれ。第一航空隊には敵から少し離れるよう伝える」
「仰せのままに」
アムールの指示が伝達されると、列を成した竜人族は一斉に魔法詠唱を始める。
ドラゴンやワイバーンと異なり、高い知能を持つ竜人族は接近戦も魔法もこなすことのできるマルチファイターだ。
「第一斉射用意! 放てッ!」
号令と同時に、竜人族は冷気を操り空中に作り出した氷の礫を一斉に放つ。
しかし、人類側は怯みながらも強固な防御魔法で全ての攻撃を弾き返し、前進を継続する。
部下は第二斉射を指示しようとしたが、その動作はアムールによって遮られる。
「まあ待て。あまり時間をかけてもこちらが消耗するだけだ。ここはひとつ、我がひと肌脱ぐとしよう」
そう告げたアムールは長大な槍を両手に構え、天に掲げる。
「アムール様が攻撃なされるぞ! 全員で強化魔法をかけろ!」
部下の飛ばした指示により、周囲に集まる竜人族は斉射を中止し、一斉に強化魔法をアムールに注ぐ。
すると、槍を掲げるアムールの体は薄暗い曇天の下で神々しく光を帯び始めた。
「崇高なる我が一族の技を受けてみよ……ソニック、アサルトッ!」
その刹那、アムールは凄まじいスピードで人類側が展開する防御魔法に迫る。
何人かの魔女はアムールの突進に気付いたが、あまりの速度になすすべなく目で追うことしかできない。
そして次の瞬間、凄まじい衝撃音と共にアムールの突き立てた矛先は、防御魔法を粉々に粉砕した。




