45 四大将軍アムール
ヴォルガ、トヴェルツァ、ドヴィナといった四大将軍達が魔王城にて各々の時を過ごす中、残る四大将軍であるアムールは城を離れ、今や空軍総司令部となった己の砦に久しく戻っていた。
魔王城から少し離れたその地は険しい山々に囲まれており、アムールの直轄領として空を飛べる魔物達の生活圏になっている。
その中心地にそびえる砦の最上階に鎮座するアムールは、濃緑の鱗が映える尻尾をゆらゆらと揺らし、どこか不機嫌な様子で部下の報告に耳を傾ける。
側近であるその部下も、アムールと同じ竜人族だ。
「アムール様。魔王エレナード様より、我が領内においても捕虜とした人類種を受け入れ、技術及び知識の供与を受けよとのご命令が下っておりますが」
事務的な部下の言葉に対し、アムールは大きなため息をついて応じる。
「馬鹿馬鹿しい。下賤な人類種共を我が領内に住まわすなど言語道断だ。移送されてきた捕虜達はドラゴンとワイバーンの餌にでもしてしまえ」
「し、しかし、魔王様から直々のご命令をそのような……」
「では聞くが、貴様は人類種共と仲良くこの地で暮らしたいと思うかね? あのような方策を認め、人類種共を魔物の地に住まわせてしまえば、いずれ人類種共は内部からこの国を侵略するだろう。奴らは、そういう害虫のような生き物だ」
アムールの強い口調に対し、部下は無言で応じる。
だが、否定するそぶりは見せなかった。
そんな部下を前にして、勢いのついたアムールはさらに大胆な発言を続ける。
「最近のエレナード様は、人類種の書物に毒されすぎている。いや、元より人類種のトヴェルツァを引き立てた先代魔王様からその気はあった。エルフの女を娶るなどという乱心を起こし、結果的に混血となったエレナード様は魔物としての純然さを失ったのだ」
アムールの物言いは、もはやエレナードに対する不敬だ。
だが、無言ながらも頷いてみせる部下の態度は、アムールの意見に肯定しているようでもある。
そもそも、先ほどアムールが述べた意見は、一部の魔物達に広がりつつあるエレナード批判の最たる例だった。
竜人族のような魔物のエリートを自称する者達は、人類種であるトヴェルツァの引き立てをきっかけに、先代魔王時代から不満を溜めていたのだ。
だが、いかに不満があろうと軽々しく魔王批判などできるものではない。
今代魔王のエレナードは歴代魔王に比べて寛容な統治を行っているが、数代前には目をつけた者を即時に粛清する恐怖政治を敷いていた魔王が国を統治していた時代もあった。
そんな畏怖から魔王批判はタブーという風潮は今なお強く残っており、堂々と魔王批判ができるのは四大将軍としてそれなりの権力を持つアムールくらいのものだ。
そんなアムールの愚痴を聞き流した部下は、なるべく会話を穏便にするために新たな話題を持ち出す。
「また、ご存じかと思いますが、近々テグリス王国の勇者共が魔王城に強襲を仕掛けるという情報が入っております。これを受け、エレナード様は魔王城上空の警護を強化せよとのことです」
「その話は聞いている。しかし、強大な力を持つ勇者アキラの侵入を防ぐのは、我々とて至難だろう。たとえ侵入を許してもトヴェルツァ辺りと相討ちなれば都合がいいが、ともすればエレナード様が崩御される可能性もある」
大胆なアムールの言葉に対し、部下は肝を冷やしながらも興味本位で話にのめり込む。
「ほ、崩御ですか……すると、次期魔王は誰になるのでしょうか。エレナード様に世継ぎはおりませんし……」
「四大将軍第一位のヴォルガが順当だろう。しかし、ヤツは魔物としての矜持こそあるが、頭が弱いからな。なぜあのような者が第一位なのか理解に苦しむ。トヴェルツァなど論外だ」
「となると、次期魔王を担えるのはアムール様をおいて他にありません。民の多くも、それを望んでいるものと思います」
「我もそう自負しているが、物事には機運というものがある。あまり妙な動きをして悪目立ちするのも愚策だろう。それに、エレナード様が軍事において優れた才覚を持っているのも事実だ。我が魔王の座についても、人類種共との戦争に勝てねば意味がない。我々は、インダリア帝国の未来を見据え、慎重に行動していく必要があるだろう」
そこまで言い終えたアムールは、不意に席を立ち上がり大空へと開かれた砦のバルコニーへと向かう。
『羽持ち』である竜人族にとって、バルコニーは玄関口も同然だ。
「どちらへお出かけに?」
「魔王城に戻る。私が不在の間に、エレナード様の周辺で妙な動きがあっても困るからな。エレナード様から指示があった上空の警戒は、命令通り増強しておくといい。それと、勇者一行が現れた際は、まず私に一報を入れるよう手配しておけ」
そんな言葉を最後に、アムールは背中に生やした立派な翼をはためかせ、大空へと飛び立っていった。




