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42 作戦会議

 その日アキラは、ラインに呼び出されて王城内に設けられた大会議室に赴いていた。

 ラインが魔王城強襲作戦を考案して色々と画策しているのはアキラも知っていたが、今日はその打合せということらしい。


 大会議室に辿り着いたアキラが扉を開け放つと、手広な室内には十数人の人間が集まっていた。


「おうアキラ。待ちわびたぜ。お前がいないと話が始まらないからな」


 最前列に座るラインがそう言い放つと、入室したアキラはその場に集う全員の注目を集める。

 ラインとユフィ以外の顔ぶれは、魔女ウィッチと剣士が半々の割合で占めており、その他に貴族らしい者が数名見受けられる。ほぼ全員が若者だが、ルーキーを卒業して脂の乗った者達なのだろう。


 そんな彼らの鋭い視線に射抜かれたアキラは、いささか緊張を感じつつユフィの隣に腰を下ろす。

 すると、ラインは場を取り仕切るように声を張り上げた。


「よし、おおかたのメンツは集まったな。個別に話はしたが、俺が少数精鋭による魔王城突入作戦を考案したことは全員知っていると思う。ここに集まった者は、作戦を実行する上で俺が必要だと感じたキーマンってわけだ。今日はとりあえず、俺の考えた作戦の草案をお披露目する。遠慮なく意見を言ってくれ」


 そう切り出したラインは、全員の顔を一瞥し軽く頷いてから話を始める。


「まず、俺が魔女ウィッチを多く集めたのは、前提として空からの魔王城突入を想定しているからだ。いくらなんでも魔物の領地を陸路で進むのは無謀だからな」


 そんな導入に対し、ユフィの友人でもある魔女ウィッチが発言を求める。


「それじゃ、私達は男を乗せて飛ばなきゃいけないってわけ?」


「ああそうだ。基本的に魔女ウィッチ一人と突入隊一人をペアにすることを想定している。脱出手段についても、魔女ウィッチの飛行か転移魔法を使う想定だ。ペアになった二人は、空でも地上でも恋人みたく常にひっついてる必要があるわけだな」


「でも、男の重たい尻を抱えてちゃ飛行中の私達は無防備になるわ。魔王城に近づけば間違いなく翼竜達が迎撃に上がってくるでしょ。男共は、空じゃ無能だし、いい的になるわ」


「もちろん、その点は承知してる。男女ペアを組んだ部隊の他に、護衛隊の魔女ウィッチが必要だろう。空中輸送と護衛隊の連携に関しては、何度か訓練をして形を仕上げていくつもりだ」


 続いて、兵士らしい若い男が挙手する。


「魔王城到達後の作戦はどうするんですか?」


「正直なところ行き当たりばったりだ。残念ながら魔王城の詳しい構造は把握できていない。分散降下してそれぞれ魔王を探し回ってもらうしかないな」


「ですが、作戦の決行日に魔王が居城を留守にしている可能性もあるんじゃないんですか?」


 すると、ラインはその質問を想定していたかのようにニヤリと口を歪める。


「実のところ、魔王が確実に城にいる日にアテはある。それは、先代魔王の命日だ。魔物共が、その日に何らかの行事を行っていることは確認できている。当然ながら、今代魔王のエレナードも参加するだろうし、魔物達の多くも行事に借り出されるだろう。そこが一番狙い目だ」


 それを聞いたアキラは、こっそりとユフィに話しかける。


(先代魔王の命日っていつ?)


(確か冬の終わり頃だったと思います)


 今は晩秋なので、次の命日に作戦を実行するなら準備期間は三カ月程度ということになる。無理はないがギリギリくらいの準備期間だろうか。


「それじゃあ、具体的な作戦の決行日は次の命日になるんですか?」


 兵士の問いに対し、ラインは頷いて応じる。


「一応、その日に間に合うよう準備を進めるつもりでいる。だが、作戦の実行には国王の認可が必要な上に、今から決行日を決めておくと情報が漏洩する可能性もある。基本的に決行日は未定という前提でいてくれ」


 ラインの話が一通り終わると、会議室に居合わせる者達は各々会話を交わし、作戦の内容を吟味する。

 披露された作戦内容は危険かつ不確定要素の強い挑戦的な中身だったが、話を聞いた皆の雰囲気はそれなりに前向きだ。

 むしろ魔王討伐作戦という大舞台に参加できることを名誉に感じているようでもある。


 そして、場が盛り上がってきたところでラインは作戦のポイントになる要素をもうひとつ上げる。


「まあ細かい話は色々とあるが、この作戦の肝になるのは他でもないアキラだ。桁外れの魔力を内包するアキラの力は、魔王や幹部達を相手にする上で必須になるだろう。つまるところ、俺たちゃオマケみたいなもんだ」


 再び注目を集めたアキラは、慌てて謙遜するような態度をとる。


「いやいや、俺なんて四大将軍相手に全然敵わなかったし、皆が思ってるほど戦力には……」


「おいおい、一発の魔法で大会戦の戦況を左右した男が何言ってんだ。タイマンに自信が無いなら、訓練するしかないだろ。心配しなくても、四大将軍最強の魔物らしいヴォルガは俺と対等くらいの実力だったぜ。そう考えると、余裕な気がしてくるだろ?」


 ラインの言う通り、アキラの実力で作戦の成否が左右されるなら、責任は重大だ。

 ヴォルガの話はさておき、先の会戦でアキラが四大将軍トヴェルツァに後手を踏んだのは事実だ。

 作戦実行までに、さらに実力をつけておく必要があるだろう。


 アキラが気を引き締めつつそんなことを考えていると、隣に座るユフィが不意に声を上げる。


「あの、ライン様。出過ぎた申し出とは思いますが、勇者様のペアは私に任せていただけませんでしょうか」


 その言葉に周囲がざわめく。

 作戦の肝であるアキラのペアは重役だ。それを自ら申し出れば、注目されて当然だ。


 もちろん、ユフィは国内随一と言われる抜きん出た実力を持っている。だが、先の言動は自信の裏付けがあるというより、他の思惑があるようなそぶりだった。


 そんなユフィの申し出に対し、しばし間を置いたラインはゆっくりと頷く。


「……そうだな。アキラはユフィに任せていいだろう。見知った仲なら連携もしやすいだろうしな。よろしく頼むぞ」


「はい」


 静かに、それでも力強く放たれたその返事には、真剣味がある。


 ユフィは何を思ってアキラのペアを申し出たのか。

 ユフィのきりと引き締まった横顔を眺めたアキラは、何とも言い表せない複雑な感情を抱いていた。

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