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29 死闘

 ラインと対峙したヴォルガは、一見すると緩慢な動作で威勢のいい一歩を踏み出す。


 その瞬間、ラインの跨っていた馬は瞬く間に首を失っていた。

 それは、戦斧バトルアックスの柄を短く握って繰り出された、目にも留らぬ横薙ぎだ。


 だが、刃の一閃が走るその空間に、ラインの姿はなかった。

 いつの間にか馬上から飛び上がっていたラインは、バスタードソードを振り上げてヴォルガの視界に影を落とす。


「うおぉらああぁぁッ!!!」


 ヴォルガは瞬時に戦斧バトルアックスの柄を返し、頭上に振り下ろされた剣撃を防ぐ。

 甲高い金属音と共に火花が飛び散り、ラインは剣を交えた反動を利用して距離を取りつつ地面に着地する。

 

 だが、ヴォルガはその僅かな隙も逃さなかった。

 戦斧バトルアックスの柄をくるりと回転させたヴォルガは、そのまま勢いよく地面に振り下ろす。

 ラインは即座に回避を行ったが、ヴォルガの狙いは斬撃による直接攻撃ではなかった。


「ふんぬぅッ!!!」


 なんと、戦斧バトルアックスが振り下ろされた大地は、まるで局所的な噴火を起こしたかのように弾け飛び、その破片が容赦なくラインを襲ったのだ。


 ラインは足を踏ん張り大地の散弾を受けとめたが、その勢いで五、六歩は後退させられる。

 そして、舞い上がった土煙が晴れるにつれて、体のいたる所から血を滴らせたラインの姿が浮かび上がった。


 ヴォルガは地面から引き抜いた戦斧バトルアックスを肩に担ぎあげ、わざとらしく余裕のある態度をとる。


「あまり楽勝でも興が冷めてしまうな……少し、いいことを教えてやろう。先代魔王様より授かった己が戦斧せんぷは、土属性の魔法付与エンチャントがなされている。先のように、刃先だけでなく大地全てが凶器となるのだ。これで少しは戦い方を考えられるだろう」


 ヴォルガは敵に塩を送るかのように、己の持つ武器の特性を明かす。

 だがそれは、手の内が明かされても勝利は揺るがないという、絶対的な自信の表れでもあった。


 そんな余裕を見せつけられたラインは、まるで対抗するかのように不敵な笑みで応じる。


「自分から種明かしをしてくれるたぁ都合がいいぜ。せいぜい、後悔しないようにしろよ……なッ!」


 そう言い放った刹那、地面を蹴ったラインは素早い身のこなしでヴォルガへと急接近する。

 真正面からではなく、少し軸をずらして脇から迫る機動だ。

 ヴォルガは凄まじい怪力を持つ巨漢だが、その分だけ素早さは劣る。だからこそ、ラインは機動力で優位を得る方針に出たのだ。


 だが、ヴォルガも己の弱点は重々承知している。

 斬撃を当てるのが難しい相手への対抗策は、しっかりと用意してあった。


「来るか人類種ヒューマン! 己が憤怒の一撃、とくと味わうがいい!」


 そんな言葉と共に雄叫びを上げたヴォルガは、戦斧バトルアックスを真横に構える。

 そして、渾身の力で地面をえぐるように振り抜いた。


「グラウンドオオオオォォォバーストオオオオオォォォォォッ!!!」


 その瞬間、凄まじい轟音と共に地面が割れるように粉砕する。

 えぐり取られた土の塊は無数の砲弾となり、ラインの行く手を阻む。まさに、点ではなく面を制圧する全体攻撃だ。


 すると、ラインは迫りくる土の砲弾を前にして瞬時に立ち止まり、同じく真横に剣を構えて一気に振り抜いた。

 

「るおおぉぉらああああぁぁぁぁ!!!」


 その行動を見たヴォルガは、グラウンドバーストの第二撃を準備しながら勝利を確信する。

 なぜなら、ラインの行動は防御に過ぎないからだ。

 バスタードソードの横薙ぎで土砲弾を防いだところで、それは反撃になりえない。


 だが、そんなヴォルガの思惑は瞬時に油断だと悟らされる。

 ラインの弾いた土砲弾は、砕けることなく形を維持したままヴォルガの下に急接近していたのだ。


 弾き返すのは間に合わない。そう判断したヴォルガは、全身に力を込めて咄嗟に足を踏ん張る。

 そして、凄まじい勢いで迫る土砲弾を鎧の胸甲板で受け止めた。


「むううぅぅッ!!!」


 金属製の鎧に命中した土砲弾は凄まじい破裂音を立てて弾け飛ぶ。

 貫通するまでには至らなかったが、その威力はさすがのヴォルガも一歩後退してしまうほどだ。


 思わぬ方法で反撃を成功させたラインは、意趣返しのようにバスタードソードを担いで余裕の態度を見せる。


「言い忘れてたが、俺の相棒バスタードソードにも風属性の魔法付与エンチャントがされてンだわ。今のような芸当はお手のものよ。これでおあいこってとこか?」


 対するヴォルガは、へこんだ鎧に残る土を手で払い落とし、ダメージの無さをアピールする。


「むふぅ。いささか油断が過ぎたのは認めよう。小細工が効かぬとあらば、直接その頭をかち割ってやる他ないようだな」


 そう告げたヴォルガは、左手で背中に携えていた大剣を引き抜く。

 その剣は、普通の人間では扱えないほどの大きさだが、巨漢のヴォルガが握るとたちまちショートソードのように見えてしまう。


 そして、戦斧バトルアックスと大剣の二刀流に構えたヴォルガは、腰を低く落として戦闘態勢を取る。完全に接近戦に備えた構えだ。


「おっ、いいねぇ。やっぱり剣を交えてこそ男ってもんだ……って、アンタオスだよな? 魔物に性別ってあるのか?」


「その減らず口……今すぐ黙らせてくれるわッ!!!」


 大地を揺らしながら突進を始めたヴォルガは、長いリーチを生かして中距離から戦斧バトルアックスを横に振るう。

 対するラインは初撃を回避して前進し、懐に入る算段だ。


 だが、その行動は戦斧バトルアックスと交差する形で振るわれた大剣で的確に防がれた。

 剣と剣が二度三度交わり、その間にも奇襲のように戦斧バトルアックスが振るわれる。力技だけでなく、ヴォルガは剣技にも長けているようだ。

 それでも、巧みに攻撃をいなすラインの技も見事だ。素早さに長けている分、軽やかな身のこなしで回避と防御を使い分けている。

 

 そして、埒が明かないと感じたヴォルガはたまらず戦斧バトルアックスを地面に打ち付け、再び土魔法を応用したつぶての炸裂弾を放とうとする。

 

「ふんぬぅッ!!!」


 それこそ、ラインの狙っていた一瞬の好機だった。

 縦に振るわれた戦斧バトルアックスは、凄まじい衝撃波と共に地面を破裂させる。


 その刹那、ラインの体は宙を舞っていた。

 なんと、ラインは破裂の勢いを利用して飛び上がり、そのままヴォルガが振り下ろした戦斧バトルアックスの柄に着地したのだ。


「むぅッ!?」


「頭がお留守だぜッ!!!」


 さすがのヴォルガも、その行動は予測していなかった。

 タイミング的に、左手の大剣による防御は間に合わない。


 そして、戦斧バトルアックスの柄を一気に駆け上がったラインは、そのままヴォルガの頭にバスタードソードを振り下ろした。

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