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25 キャットファイト

 一気に降下したドヴィナは、槍を突き立てユフィに襲いかかる。


「リフレクトシールドっ!」


 対するユフィは防御魔法を唱え、大きな光の壁のようなものを展開させる。

 すると、ドヴィナの槍は光の壁に阻まれ、激しい金属音を奏でながら勢いよく弾かれた。


 いったん距離をとったドヴィナは、余裕を維持しながらも不満げな表情を見せる。


「面倒な魔法ねぇー。守るだけじゃ勝負にならないわよぉー?」


 そんな挑発に対し、ユフィは不敵な笑みで応じた。

 

「守るだけなら、そうですね……だけど、私はこんなこともできるんですよっ!」


 そう告げたユフィは、懐から小瓶のようなものを複数取り出し、ドヴィナに向かって投げつける。

 すると、光の壁をすり抜け空中で破裂した小瓶は、小さな火球の群れとなって一挙にドヴィナへと襲いかかった。

 

 ドヴィナはすかさず地面を蹴り、周囲に生えた木々を壁にして火球をやり過ごそうとする。

 木に命中した火球は爆炎をあげ、立派な幹を次々と粉砕していく。

 そして、最後に残った一発が、障害物の無い空間でドヴィナへと迫った。


 ドヴィナはたまらず己の槍で火球を切り払う。

 すると、目の前で炸裂した爆炎に巻き込まれたドヴィナは、小さな悲鳴を上げて後方へ吹き飛ばされた。


 これを好機と見たユフィは、すかさず防御魔法を解除し、ダメ押しの一撃を放った。


「ライトニング、ボォールッ!」


 魔法を詠唱したユフィが杖を振るうと、巨大な電気の塊らしきものが空中に出現する。まるで砲弾のように放たれた電気の塊は、煙に包まれたドヴィナの下へ迫る。

 そして、着弾した弾は雷鳴のような轟音と閃光を放ち、ドヴィナの放つ甲高い悲鳴と共に大地一面を一瞬にして黒焦げにした。


 土煙と黒煙が立ち上る中、ユフィの隣で膝をつくアキラは朦朧としながらも感嘆の声を漏らす。


「す、凄い……これが、ユフィの本気なんだ」


 魔法の連発でいささか呼吸を乱したユフィは、ちらりとアキラに目配せし、自慢げに微笑む。


「これでも、訓練だけはいっぱいしてますから」


 そんな会話を交わした刹那、アキラは背後に何者かの気配を感じ、瞬時に身を翻す。

 すると、勢いよく槍を突き立てたドヴィナがいつの間にかその場に姿を現していた。


「危ないッ!」


 アキラは咄嗟に剣を振るい、交わった剣と槍は甲高い金属音を奏でる。

 だが、その動作はほんの一瞬だけ遅れをとった。


「きゃぁっ!」


 痛々しい悲鳴と共に、白いローブを赤く染める鮮血がほとばしる。

 アキラの剣によって軌道を逸らした槍は、ユフィの肩をかすめていたのだ。


 アキラはすぐさま剣を返して反撃を試みるが、逃げに転じたドヴィナは距離をとって悠々と空を舞う。


「いやぁーん、あとちょっとだったのにぃー。女同士の真剣勝負なんだから男の子は邪魔しちゃダメよ……っと!」


 そんな言葉を吐いたドヴィナは、膝を折るユフィに向けて槍を投擲する。

 アキラはよろめく体ですかさずユフィの前に躍り出たが、槍が届く前に背後から声が放たれた。


「リフレクト、シールドっ!」


 投擲された槍は、再び現れた光の壁によって阻まれる。

 咄嗟に魔法を行使したのは、血を滴らせる手で杖を振ったユフィだ。


 防御魔法で身を守ったユフィは、懐から取り出した小瓶を投げつけ、先ほどと同じ攻撃を試みる。


 だが、宙を舞った小瓶は魔法に変化する前に、ドヴィナが投擲した針のようなもので砕かれていった。

 巧みな技で攻撃を阻止したドヴィナは、空中で足を組み一息ついたようなポーズを見せつける。

 

「魔法を同時行使するために、小瓶に発動術式と魔力を込めてるのねぇ。最初はビックリしたけど、仕組みがわかればなんてことないわね。まあ、やられたフリをするには丁度よかったけど」


 ユフィの攻撃方法を看破したドヴィナは、再び己の尻尾を引き抜いて新たな槍を生成する。

 対して、反撃の手を封じられたユフィは魔力消耗による疲労と痛みに顔を歪ませ、焦りを見せた。


「さぁーて、これで本当に守るだけになったわね。せっかくだから、その防御魔法がどれくらいもつか試してア・ゲ・ル」


 そう告げたドヴィナは、火球によって倒れた大木に向かって片手をかざす。

 すると、横たわっていた大木はまるで念力をかけられたかのように浮きあがり、ドヴィナの思うままに動き始めた。


「重いものを防御魔法で防ぐのは疲れるわよぉー。せぇーのっ!」


 ドヴィナに操られた大木は、勢いよくユフィの展開する光の壁に衝突する。

 しかも、その衝突は一回に留まらず、まるで太鼓を叩くように何度も何度も打ちつけられた。


「ほらほらぁ! ちゃんとっ、守らないとっ、大事な勇者様とっ、一緒にっ、死んじゃうわよぉ!」


「っ……ああぁっ!」


 防御魔法で大木の殴打を受け止めるユフィは、体に負荷がかかり悲痛な声をあげる。

 その間にも、傷ついた肩からは血が滴り続けた。


 その光景を傍らで見ていたアキラは、たまらず声を上げる。


「もう十分だ! 魔法の解除と同時に逃げ出そう!」


「ダメっ、です……それじゃあ、やられて……だからっ……」


 ユフィは、続く言葉を囁くような声でアキラに伝える。

 その光景を傍目から眺めるドヴィナは、狂ったように大木を打ちつけ高笑いを上げた。


「キャハハっ! 何なにぃ? もしかして愛の告白ぅー? いいわねぇ、健気ねぇ! そのまま二人でぇ……死んじゃえっ!!!」


 勝利を確信したドヴィナは、いったん後方に下げた大木を一気に加速させ、最大威力の一撃を放つ。

 すると、ユフィとアキラを守っていた光の壁は、まるでガラスを破ったかのように砕け散った。


 だが、防御魔法を貫かれたユフィは、瞬時に次の魔法を唱えていた。


「サンダアアァァ、スパアアアァァァクッ!!!」

 

 大地に轟く大声と共に、防御魔法を貫いた大木は凄まじい閃光に包まれる。

 その瞬間、大木は内部から破裂するかのように爆音を轟かせ、四方八方に弾け飛んだ。

 まさに、ユフィの放った渾身の一撃だ。


 だが、その魔法は大木での攻撃を防いだにすぎず、ドヴィナは無傷のままだ。

 木片と黒煙が立ちこめる中、ドヴィナは呆れたようにため息をつく。


「もぉー、まだそんな力が残ってたのぉー? でも、守るだけじゃぁ――」

 

 そこまで言いかけたところで、ドヴィナは瞬時に異変に気付く。

 黒煙が晴れゆく中、先ほど大木が弾け飛んだ空間には、よろめくユフィの姿しか見当たらない。ユフィと一緒にいたはずのアキラが、姿を消していたのだ。


 それは些細な問題のようだが、ドヴィナは咄嗟に周囲を見渡す。


(魔法で隙を作って勇者を逃がした? あの体じゃそんなに遠くには行ってないはず。周囲にも気配を感じない)


 そんな思考を巡らせていると、ドヴィナの視界に影が落ちる。

 その瞬間、空を見上げたドヴィナは二人の仕掛けた罠の正体に気付いた。


(転移魔法っ!)


 ドヴィナの推察通り、ユフィは渾身の電撃魔法を放つ前に、転移魔法でアキラをドヴィナの頭上に転移させたのだ。


「はあああああああぁぁぁぁぁ!!!」


 重力によって自由落下したアキラは、勇ましい怒号と共にドヴィナの背中へ剣を振るう。

 その時既に、ドヴィナは回避も防御も間に合う状況ではなかった。


「ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 アキラの渾身の一撃により、ドヴィナの色白な背中は鮮血に染まる。

 致命傷を負ったドヴィナは、奇声のような悲鳴を上げて無残にも地面へと墜落する他ない。

 だが、その体は突如現れた人影によって受けとめられた。


「ドヴィナ様っ!」


 そんな言葉と共にドヴィナの体を空中で抱えたのは、女淫魔サキュバスらしき魔物だ。

 そして、激しく地面に衝突したアキラが体を起こした頃には、ドヴィナを抱えた女淫魔サキュバスは既に空高く舞っていた。


 満身創痍のアキラとユフィが互いの体を支えあう中、上空からドヴィナの狂ったような声が轟く。


「勇者と女あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 殺す殺す殺すッ! 家族もッ、恋人もッ、仲間もッ、残らず殺してやるッ! 腕を切って足を切って耳と鼻を削いで目をえぐって皮を剥いで殺してやるッ! 一生分の苦しみを味わわせながら殺してやるからなあああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 そんな言葉と共に、仲間に抱えられたドヴィナはその場から離れていく。

 アキラとユフィは、苦戦を強いられながら、なんとか四大将軍ドヴィナに勝つことができた。


 だが、最後にドヴィナが見せた執念は、アキラとユフィにいずれまた襲い来るだろうという予見を抱かせる。

 肩を支えあった二人は、自然と互いの体を支える腕に力を込め、これからも厳しい戦いが続くであろうことを覚悟していた。

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