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20 宿敵

「なかなか面白い戦い方だ」


 そんな言葉を放ったのは、舞い上がる土煙の奥から姿を現したトヴェルツァだった。


 青光りする鎧はいささか黒ずんでいるが、ファイヤーボールによるダメージはそこまで入っているように見えない。

 恐らく、アキラと同じく咄嗟に身を守ったのだろう。


(クソっ、これでもダメか)


 アキラは諦めず、次の策を練る。

 だが、その間にトヴェルツァへと飛びかかる人影があった。


「てめぇの相手はこの俺だあああああぁぁぁぁッ!!!」


 そう告げてトヴェルツァに斬りかかったのは、いつの間にか下馬していたラインだ。

 トヴェルツァは咄嗟にラインの斬撃を剣で弾き、バックステップで距離を取る。


 すると、今度はアキラの背後からよく通る甲高い声が響く。


「ライトニングボール!」


 騎馬で駆けつけたユフィの放った電気の塊らしき弾は、アキラの脇を通り抜け凄まじい速度でトヴェルツァに迫る。


 すかさず危険を察知したトヴェルツァは、おもむろに剣を放り投げる。

 すると、電気の弾は宙を舞った剣に命中し、激しい閃光と共に打ち消された。

 その危機回避能力には目を見張るばかりだ。


 だが、結果的にトヴェルツァは武器を手放した。

 ピンチから一転して、最大のチャンス到来だ。


 ラインもそう感じたのか、剣を構えつつ不敵な笑みを浮かべる。


「大事な剣を手放しちまっていいのか? 俺は丸腰の相手でも容赦しないぜ」


 そんな言葉にユフィも続く。


「命が惜しくば、おとなしく投降しなさい!」


 戦いに夢中になっていたアキラは、二人の存在をすっかり忘れていた。

 だが、二人が駆けつけてくれたお陰で状況は好転した。頼もしい仲間達とは、まさにこのことだ。


 アキラはそんな二人に感謝の意を込め目配せをし、剣を構えてトヴェルツァに迫る。


「さあどうする。降参するなら今のうちだぞ」


 堂々と直立したままのトヴェルツァは、顔に張り付いたような鋭い表情を崩さない。

 虚勢ではなく、未だ余裕があるような雰囲気だ。


 だが、そんなトヴェルツァの放った一言は、意外なものだった。


「承知した。貴君らに降参しよう。私は人類種ヒューマンだ。貴君らも、剣を収めた人間を斬り捨てる趣味はなかろう」


 そう告げたトヴェルツァは、両手を上げて降参のポーズを取る。


 なんともあっけない結末だ。

 しかし、彼が本当に人類種ヒューマンなら、何か事情があって魔王軍に加担していたのかもしれない。

 そう思ったアキラは、剣を下ろしてトヴェルツァの下に近づいていく。


 すると、アキラに視線を向け続けるトヴェルツァは、不意にこんな言葉を放った。


「最後にひとつ、好敵手である君の名を聞かせてはもらえないか。私の名はトヴェルツァだ」


「俺はアキラ……北上アキラです」


「北上、アキラ……やはりそうか。懐かしい響きだ」


 やはり、それに懐かしいとはどういう意味だろうか。

 そんなことを考えつつアキラがトヴェルツァの下に迫ると、不意に怒号のような声が轟く。


「トヴェルツァサマアアアアアアァァァァァァ!!!」


 そんな叫びと共に脇から突っ込んできたのは、リザードに跨ったゴブリン・ライダーだ。

 突如現れた敵に驚いたアキラ、ライン、ユフィの三人は、声の放たれた方向に目を向けて、トヴェルツァから視線を外してしまう。


 その刹那、耳をつんざく破裂音が轟き、三人の視界は閃光と白煙に包まれた。


「目くらましだ!」


 ラインの叫び声によって状況を理解したアキラは、咄嗟にトヴェルツァのいた方向へ視線を戻す。

 すると、舞い上がる白煙の中で、トヴェルツァは突っ込んできたゴブリン・ライダーのリザードに飛び乗っていた。


「逃がすかっ!」


 アキラはすぐさま剣を構え、逃げ行くリザードに向けてエアスラッシュを放とうとする。

 だが、その方向には混乱の渦中にある将軍ドナウと親衛隊が密集していた。


(クソッ! 外したら味方に当たる!)


 そんな躊躇ためらいが仇となった。

 ドナウの下に突っ込んだトヴェルツァは、何かを投擲するかのような動作をする。

 次の瞬間、親衛隊に囲まれたドナウは悲鳴のような叫び声を上げた。

 よくよく目を凝らすと、鎧に覆われていないドナウの肩口に短剣のようなものが突き刺さっている。


 やられた。トヴェルツァは、最初から投降する気などなかったのだ。

 三人はまんまと誑かされ、結果的に最優先で守るべき総大将のドナウが狙われてしまった。


 アキラは白煙に閉ざされた視界の中で、己の甘さを悔いる。

 すると、どこからともなく聞き覚えのある声が耳に届いた。


「我は魔王四大将軍が一人、復讐のトヴェルツァ! 北上アキラよ! 貴様とは、いずれ決着をつけよう!」


 その言葉を最後に、トヴェルツァを乗せたリザードの足音は遠のいていく。


 魔王四大将軍トヴェルツァ――まさに強敵だった。

 彼の言葉通り、いずれまた剣を交える日が来るのだろうか。

 それが運命だとすれば、アキラの考えることはひとつだ。


(次は負けない)


 そんな決意を抱いたアキラは、すぐさま意識を切り替えて周囲で暴れ回るゴブリン・ライダー達に向けて駆けていった。



 * * *



 いったん戦場を脱したトヴェルツァは、部下のゴブリンが操るリザードの騎上で共鳴水晶を取り出し、即座に味方へ指示を飛ばす。


「敵の指揮官らしき男を手負いにさせた。我が騎兵隊は、これより東方へ転進し、敵右翼の背後を叩く。本隊には斬り裂いた戦線を維持するよう伝えろ」


 命令を終えると、相乗りするゴブリンはちらりとトヴェルツァへ目配せをして声をかけてくる。


「トヴェルツァサマ、ケガ、シテマス」


 そんな言葉によって、トヴェルツァはアキラに負わされた火傷のことを思い出す。


「この程度、何てことはない。魔力は使いきってしまったが、私も前線に残る。周囲に騎兵を集め、隊を立て直せ」


 指示を受けたゴブリンは、片手を上げて味方に集合を促す。

 そのさ中、トヴェルツァはふとアキラのことを思い出していた。


(北上アキラ……魔力さえ残っていれば容易く討ち払えただろうが、これもまた運命か。我が道を阻む者が転生者とは、皮肉なものだ)


 そう心の中で呟いたトヴェルツァは、どこか遠くを見るように目を細めていた。

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