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19 対峙

 怒号や悲鳴が乱れ飛ぶ森の戦場で、アキラとトヴェルツァは静かに視線を交わす。

 そして、先手を打ったのはアキラだった。


「エアスラッシュ!」


 素早く剣を薙いだアキラは、先と同じく風と斬撃を組み合わせた遠距離魔法を放つ。

 狙いはトヴェルツァ本体ではなく、その身を支えるリザードだ。

 

 馬やリザードはいったん走り出せば高速での移動が可能だが、助走に若干のラグがある。そんな騎馬の特徴を捉えていたアキラは、まだ走り出していないリザードに狙いをつければ迎撃や回避が困難だと踏んだのだ。


 すると、トヴェルツァはおもむろに騎乗で立ち上がり、そのままジャンプをして器用に鞍の上に立つ。

 そして、アキラの放った風の刃がリザードを無残に切り刻んだその刹那、トヴェルツァは躊躇ためらいなく己のリザードを捨てて宙を舞った。


 甲冑を纏っていながら、その身のこなしは軽やかだ。

 そんな感心をしている間もなく、華麗に着地したトヴェルツァは全速力でアキラの下へと突っ込んでくる。


(速っ!)


 アキラはすぐさま二度目のエアスラッシュを放とうとしたが、直感的に避けられると感じた。

 無為な攻撃は余計な隙を生む。そう判断し、すぐさま剣を正面に構えてトヴェルツァを迎え撃つ態勢をとる。


 突進を続けるトヴェルツァは、剣を斜め下段に構えている。

 単純に考えれば、最初の一撃は剣を下から振り上げる斬撃だ。

 避けてカウンターを決めるという対応も考えられるが、トヴェルツァの素早さを考えれば、リスクのある選択だ。

 ならば、最初の一撃は素直に受け止めるしかない。


 瞬時に判断を下したアキラは、トヴェルツァが間近に迫ったところで刃と刃がぶつかり合うよう剣を振るう。

 だが、期待していたような金属音と衝撃は生じなかった。


 アキラの目の前で急停止したトヴェルツァは、互いの剣先が届かない位置で剣を下から振り上げたのだ。


(ブラフか!)


 下段から斬り上げようとするトヴェルツァの構えは、言わば()()だ。

 まんまと誘いに乗ってしまったアキラは、剣をぶつけることができず前のめりになって空振りをしてしまう。

 その隙を見逃さないトヴェルツァは、最後の一歩を踏み込み、振り上げた剣を素早く返して本命の斬撃を繰り出した。

 今のアキラに、それを防ぐ手立てはない。


(それならっ!)


 窮地に陥ったアキラは、咄嗟に発想を逆転させる。

 瞬時に姿勢を低くしたアキラは、渾身の力で地面を蹴り、あえてトヴェルツァの体に向かって体当たりを行う。

 振り上げた勢いを利用するトヴェルツァの斬撃は、かなり大振りだ。ならば、懐に隙が生じるだろうという発想だ。

 

 だが、そんな不意撃ちにもトヴェルツァは瞬時に対応する。

 体当たりを行ったアキラの胴体には、いつの間にかトヴェルツァの膝がめり込んでいた。


「うぐぇっ!」


 そのまま勢いよく蹴り抜かれたアキラは、後方へと勢いよく吹き飛ばされる。

 それでも、隙を見せまいと瞬時に起き上がって体勢を立て直した。


 距離を置いた二人は再び視線を交わす。

 アキラは蹴りを食らった痛みで顔を歪めていたが、トヴェルツァの方は汗一つ流さず涼しげな表情だ。

 

 二人の間には、圧倒的な実力差がある。

 体力や腕力の問題ではない。戦いの場数で差がついているのだ。

 一連のやりとりで、アキラはそれをはっきりと自覚させられた。


 そもそも、アキラにとってこの戦いは初陣だ。転生の儀によって肉体が強化され、剣技を身につけたとしても、実戦的な経験は皆無に等しい。

 戦い慣れしている者と矛を交えれば、分が悪くなるのは当然だ。


 そんなアキラは、目の前の強敵トヴェルツァに勝つビジョンを見失う。

 いかに想像力を働かせてみても、最後には己が斬り伏せられる光景が脳裡のうりに浮かぶ。


 それでも、アキラは絶望しなかった。それどころか、不思議と高揚すら感じていた。


(負けたら死ぬかもしれないのに、こんな時に何でわくわくしてんだよ)


 実のところ、普段は温厚なアキラも意外に負けず嫌いなのだ。

 むしろ、スポーツでもゲームでも、敵わないような強敵に全力で挑むことを昔から好んでいた。

 相手が強ければ強いほど、自分の底力が出せるからという理由だ。


 だからこそ、この絶体絶命な状況でアキラは不敵に微笑んで見せる。


(どうせ一回死んでるんだ。ここで死んだら、それも運命だ)


 ヤケクソに近い覚悟を決めたアキラは、軽く深呼吸をして更に意識を集中させる。

 その間にも、追撃を目論むトヴェルツァは全速で迫っていた。


(正攻法で勝てないなら、泥臭く抗うまでだ!)


 そう心の中で叫んだアキラは、咄嗟の思いつきで魔法を詠唱する。

 そして、目の前に迫ったトヴェルツァが再び剣を振るおうとしたその刹那、先ほど何度も目の当たりにした攻撃魔法を放った。


「ファイヤーボール!」


 先ほど己が使っていた魔法を真似されたトヴェルツァは、勝利を確信したように嘲るような笑みを見せる。

 恐らく、ファイヤーボールなど簡単に避けられる自信があるのだろう。

 同時に、その笑みはトヴェルツァがアキラに対して初めて見せた、人間らしい反応でもあった。


 だが、そんな笑みは瞬時に驚愕へと変化する。

 なぜなら、アキラは目の前に出現させた火球をトヴェルツァに向けては放たず、唐突に地面へぶつけたからだ。


 その行動はトヴェルツァも予想外だったらしく、たまらず驚きの声を上げる。


「なにっ!」


 その瞬間、地面に衝突したファイヤーボールは二人を巻き込んで激しい爆炎を上げる。

 まさに、捨て身の攻撃だ。


 もちろんアキラは、トヴェルツァと心中する気で攻撃を放ったわけではない。

 事前に両腕で身を守り、しっかりと防御態勢をとっていた。

 それでもかなりのダメージを受けたが、剣を振りかぶっていたトヴェルツァよりは軽傷で済むだろうという算段があってのことだ。


 爆風から持ち直したアキラは、ヒリヒリと焼けるような痛みに耐えつつ、体勢を立て直して正面を見据える。

 すると、凛としながらもどこか冷たい音色を持つ声が耳に届いた。


「なかなか面白い戦い方だ」


 そんな言葉を放ったのは、舞い上がる土煙の奥から堂々と姿を現したトヴェルツァだった。

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