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苦悶

中島淳は、その明晰な頭脳で東大に現役合格し、同大学を卒業後は誰もが知っている一流企業に就職した。しかし、中島は自分に対する自信が強く、平社員に甘んずるつもりはなかった。また、会社の上司がハラスメントの塊のような人物で、中島に対しては出身大学を妬んで嫌味をさんざん言ってきた。中島はこのような俗物の下で働く気にはなれず、あっという間に退職してしまった。


彼は自宅に引きこもると、あることを始めた。それはライトノベル、略してラノベの執筆である。彼は子供の頃から読書とアニメが大好きで、現実世界の人間よりも本と二次元キャラを友とするような男であった。彼は自分が今まで読んだ本、今まで見たアニメをベースにして、何かラノベを書けないかと考え、やがて書こうと決意した。アニメ化されるようなラノベを書いて一発当てたい、そういう夢を抱いたのである。


しかし、ラノベ、もとい小説を書くことは、中島自身の想像を遥かに超えて難しかった。ある時は、キャラ設定や世界観は思い付いても、どういうストーリーを展開させようか、全く思いつかなかった。またある時は、せっかく格好いい台詞を思いついても、それをどういうシチュエーションで誰に言わせようか、全く思いつかなかった。一つの小説を書くには、キャラ、世界観、ストーリーなどの材料が百以上、いや千以上は必要で、一つ思いついただけでは全く足りない。中島はその事に気づいたのだ。


中島の生活も段々厳しくなっていった。大学を卒業すると同時に親から独立した彼は、上司と反りが合わずに会社を辞めてしまった情けない自分の姿を親に見せる訳にはいかなかった。また、生活費を稼ぐためにバイトをしようかとも思ったが、前の会社にいたときのトラウマがそれを許さなかった。そんなわけで、中島は収入ゼロの状態でラノベ執筆活動を続けていた。顔もやせこけ、頬骨も浮かび上がり、目だけはギラギラとしていた。そこには、かつて将来の希望にあふれていた青年の姿はなかった。


数ヶ月後、中島は自分の文才のなさに絶望し、生活苦に対して白旗を上げ、再就職活動をすることになった。彼は自らトラウマを振り切って、かつて自分が退職した企業に再就職した。しかし、中島の同期・後輩たちは、中島の引きこもり生活の間に、遥か高い地位に出世していた。かつて自分がバカにしていた連中の命令を受けて働かねばならないことは、中島のプライドに小さからざる傷をつけた。彼のメンタルは徐々にすり減っていき、夜になっても眠れないほどになっていった。そしてある日の深夜、中島はいてもたってもいられなくなり、パジャマ姿で家の外へ飛び出した。これ以降、中島は永遠に無断欠勤を続けた。会社の同僚は心配になり、中島の自宅を訪問したところ、そこはもぬけの殻になっていた。やがて遠方に住む中島の両親は会社から連絡を受け、警察に捜索願を提出した。これにより、中島は行方不明者として警察による捜索の対象となった。

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