果てしないインターネットの海
後日善行は「ニャンコロ・タウン」に、映子と二人で遊びに行った。
「終戦記念フェア」は連日の猛暑にもかかわらず、大盛況の様子だ。
『鳴呼・こうして男達は散った・人間魚雷・回天』
と、大きな垂れ幕がかかっている。
しかし「擬似体験システム」は、第一段階と第二段階の芝居については、おおむね同じ流れだったのだが、第三段階の、電脳シュミレーションは無くなっていた。
ただの書き割りだけになった回天の中で、戦記ビデオを見ながら、特攻隊の英霊を偲ぶ。
というものに変えられていたのだ。
映子が言う。
「あれから三日後に防衛省の人が来たの。そして、ドリーム社から、電脳シュミレーションシステムを買い取ったんですって。強制買い上げのようなものだから、ボーナスは出ないって言われたの。もお、ガッカリ。私の作った感情高揚パルス発信機についても、これからは国家機密に類する扱いになるからって。絶対他言しないって誓約書を書かされたのよ。──もお、頭きちゃう」
ところで善行は、ダンボールの箱に入った、プリメインアンプのような、あの装置を手に持ってる。
そうだ。本日、映子と善行は「ニャンコロ・タウン」に出かける前に、ドリーム社に立ち寄り、この「電脳」を貰ってきたのだ。
「不思議なのよ、電脳の事だけど。防衛省の研究員が起動させたんだけど、うんともすんともいわなかったのよ。壊れてる筈ないんだけどなあ。結局、廃棄処分にするくらいならって、私が貰う事にしたの」
「これ、生きてるんだろ?」
「うん。絶対、死んでる筈ないわ」
「ふーん。じゃ、この中にまだ『居る』って事だ。……きっと、じっとしてるんだ」
電脳を入れたダンボール箱は、拍子抜けするほど軽かった。
昔のトランジスタ時代の、いやIC時代のプリメインアンプだって、この3倍の重量はあったろう。
子供の頃、父親が「5級スーパー」という、ラジオの製作キットを作っていたのを覚えている。
完成させてスイッチを入れ、短波の北京放送を受信して、躍り上がっていた。
あれなんか、まだ「真空管」を使っていたのだ。
そういえば、鉄腕アトムのお腹の中の部品も、真空管であった。
当時のアメリカやソ連の人工衛星も、初期の物は、真空管が使われていたのだろう。
真空管時代に生まれた善行は、今、インターネットの時代を生きている。
ネットの海はどんどん果てしなく広がって行くだろう。
当然、深さだって増して行く。
だから、何が起こっても不思議じゃない気がした。
「ネットの海から生まれたアフロディテかあ」
「なあに? それ」
「手塚治虫の火の鳥の、ムーピーゲームのようでもある。或いは、諸星大二郎の石中美人か」
「嫌ねえ、オジさんったら。一人でニヤニヤしちゃって」
「ああ、電脳美人のA子ちゃん。また会いたいもんだな」
「もお。訳わっかんなーい」
「思い出横丁のカフェに戻って、一杯飲もか?」
「団長さんの、エンドレスのお芝居見ながら? それ、いいかも」
と映子が言った。
「超電導美那子」のCMです。
「超電導美那子Y」では、登場人物の平均年齢を下げるべく使命を帯びて、中沢映子ちゃん登場!
『国立電マ工業大学』に通う聡明な美形の映子ちゃんと、何故に善行は付き合っているのか?
中沢映子ちゃんは「超電導美那子Y6」に登場します。