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【書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
本編

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31.青い琥珀


 初めて見るモンスターに、目を奪われた。見たことのない美しい鳥。その翼は、赤と青の炎がきらめいていた。甘美な鳴き声が頭中に響きわたる。

 

- みんな忘れて。愛をあげよう。許してあげるよ、ここへおいで -


 滑らかな歌声が頭の中に充満する。沸き上がってくる渇望。何が足りないんだろう。何が欲しいんだろう。分からないけれど、何かが欠けているのは分かる。満たされてない。足りてない。もっと欲しくて、餓えている心。

 あの鳥の元へ向かえばすべて満たされるのではないかと思う。


 鳥に向かって、一歩足を踏み出す。きっとその先は天国だ。


 胸から何かが盛り上がって、喉の奥につかえた。邪魔な物。こんなものを失くしてしまえば、楽になれるのではないかという甘美な誘惑。


 苦しい。


 手放してしまいたい意識。そうしてはならない騎士のプライド。何かが僕を引き留める。葛藤がせめぎ合って、頭と心を苦しめる。早く楽になりたいのに。


 ベルン。大切な言葉が声にならない。


 視線の先には、ベルンがいた。

 たった一人だけ、鳥に立ち向かう。

 何時だって綺麗だと思っていた氷の魔法。

 

 あの鳥は魔物なのか? だったら、立ち上がらなければ。戦わなければ。


 理性ではそう思っても動けない。不本意な感覚が体を支配する。


 ベルン。名前を呼べない。届かない。ベルン!


 その時ベルンが口笛を吹いた。すると観客席から、ワンピース姿の美しい女たちが下りて来た。ベルンの指示で剣を構え、美しい鳥に対峙する。


 どうして、動ける?

 ベルンとこの女たちだけどうして動けるんだ?


 鳥の歌声が鳴り響く頭の中で、考えようとしても考えられない。


 朦朧とする意識の中で、ベルンと目が合った。

 苦しそうに僕を見て、謝った。


 理由も分からずに、マントの中に隠される。

 士官学校の黒いマントが、僕らをこの世に二人っきりにする。


 秘密の暗闇。ベルンの冷たい唇が触れた。


 鳥のように啄ばむだけの優しいキス。不馴れで、不器用で、子供みたいな。そんな接吻。


 目の前がキラキラと光る。胸の中の熱いものがってくる。

 好きだ。大好きだ。

 手に入れられなくても、満たされなくても。許されなくても、それでもいい。


 それでもいいんだ。それでも好きなんだ。


「好きだったよ」


 ベルンは泣き出しそうに言って、僕は意味が分からずに動揺する。

 どうして、過去形なのか。

 謝ったのは、このことなのか。

 聞きたいことはたくさんあっても、喉がつかえて声が出ない。


 ベルンは騎士の顔つきになり、僕の魔法を欲しがった。

 僕はあらん限りの力でそれに答える。


 君の欲しいものは全部あげる。



「後を頼む」


 ベルンはそれだけ言って。僕を背にして立った。


 そしてあの、美しいと思った鳥の前に立ちはだかる。ベルンの後ろから見る鳥は、もう美しくなかった。

 おぞましく醜い、大きな怪鳥。初めて見るモンスター。


 僕の剣でとどめを刺して、ベルンは消えた。



 僕の元には、喉から転がり出た青い琥珀ベルンシュタインだけが残された。

 これが僕の中でつかえていたもの。

 魔物に奪われそうになったもの。


 持っているだけで苦しくて切なくて、手放してしまいたいのに、きらきらと眩しく光る大切な宝物。

 僕の青い琥珀ベルンシュタイン


 僕は、彼の守ったこの国を守りきるために、立ち上がって声をあげた。


 僕らは魔物を倒して国を守る。


 そして僕らは、彼を失った。





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