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【書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
本編

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26/40

25.鏡の離宮 1


 ザントの一件で、私はマレーネ姫の警護によく呼ばれるようになった。メイド姿はほとんどないが、騎士姿でもお声がかかる。

 姫に抱きつかれても抱き返さなかった事が、分をわきまえた距離感と評価され、侍女から推薦されているようだった。

 光栄なことだと思う。

 しかしお声がかかるたびに思うのだ。姫様のためにも、女騎士団が必要ではないかと。




「ねぇ! マレーネの婚約者になるって本当!!」


 朝からシュテルが煩い。ここは士官学校の学生寮、朝の食堂である。


 シュテルの問題発言に、みんなの視線が一斉に集まった。クラウトも顔を上げてこちらを見ている。

 私を女だと知っているフェルゼンですら、私をガン見している。


「そんなことないよ」

「あの視察で侍女がベルンならって推薦したらしい」

「え? それはまずい……」

「まずいって、ベルン。人の妹、誑かしてそれはないでしょ! すっごい仲いいって聞いた。マレーネもベルンの話ばかりするし、結婚式上げたんだって嬉しそうに言ってた!」


 シュテルが怒り心頭で、ガンガン嚙みついてくる。


 周りは好奇心丸出しで、耳を大きくしてこちらを伺っていた。

 私は大きくため息を吐き出した。


「結婚式なんか上げてないよ。小さな子がブーケをくれただけだって。それに国王様が何と言おうと、父が許さないと思うし」

「どういうこと? 王家との婚姻が不服なの?」

「不服ではなくて。アイスベルクは王家と婚姻を結ばないという家訓があるからだよ」

「……え?」


 シュテルが驚いて私を見つめた。特にはっきりとした公的な取り決めがあるわけではないけれど、アイスベルク家の中では決まっていることだ。昔からそれが良いと納得している。

 ハッキリと説明して、みんなの誤解を解いてしまいたい。


「アイスベルクはこの国で唯一私的な軍を持っている」

「ああ、騎馬隊か」


 シュテルの言葉にうなずく。


「だから、あまり権力に関わらない。軍事力だけで十分だろ? 外戚にでもなって、反旗を疑われるのも嫌だし、権力をもって担ぎ上げられるのも困るから。国内で軍を二分にするなんておぞましい限りじゃないか。うちは領地さえ保証されていればそれ以上のものは望まない。危ない橋は渡らないんだ」

「危ない橋……」


 シュテルが呆然とする。

 フェルゼンがそれを聞いて、楽し気に笑った。


「王家もアイスベルクの前じゃ形無しだな。みんなが欲しがる王家の力すら、『危ない橋』呼ばわりだ」


 笑い声が広がる。それに伴って、もったいないという声も広がる。確かにマレーネ姫はみんなの憧れで、可愛らしい。だけど、それだけだ。


「マレーネ姫は可愛いし、とっても魅力的だけど、私は結婚することはない」

「……王家とは結婚しない……」


 シュテルが噛みしめるように呟いた。


「兄上も姉上もね」


 なーんだ、なんて声が広がって、みんなの関心が他所へ向く。私はホッとした。

 変な噂は困るのだ。


 フェルゼンは機嫌良さそうに朝食を食べだした。

 シュテルはなんだか難しい顔をしている。まだ疑っているのだろうか?

 

「それに、マレーネ姫は私のことを男として好きではないと思うよ」

「……そんなことわからないだろ」

「女装の私が気に入ったみたいだから。お姉さまと呼ばれたし、私も妹みたいには思ってる」


 安心させるためにそう言えば、シュテルは眉の皺を深くした。一層機嫌が悪くなる。

 

「なんか、ヤダな」


 それを見てフェルゼンが笑った。


「お兄ちゃん、嫉妬かよ?」

「違うよ!」

「シュテルも女装すれば? お姉さまって呼んでもらえるかもよ?」


 私が茶化す。


「ベルンまで! 僕はシスコンじゃないからな!」

「はいはい。わかったから早く食べよう」


 そう言えばシュテルは渋々とパンを口に運んだ。


「僕の方がベルンを好きなのに」


 堂々と告げられる言葉にドキリと胸が鳴った。

 あの告白の後から、シュテルはどこでもかまわず私を好きだと公言するようになった。周りのみんなはそれを見て、いつものことだと笑っている。


「……やっぱりマレーネだけズルい」

「またそんなこと」


 拗ねるシュテルが可笑しくて笑ってしまう。


「ベルンと旅行とかズルい」

「公務でしょ?」

「僕の公務だとベルン付かないじゃないか!」

「当たり前」

「そうだ! 夏休みに旅行へ行こう! ベルン!」

「俺も一緒だよな?」


 フェルゼンが間髪入れずに突っ込んだ。

 シュテルが嫌そうな顔をする。


「失敗した、フェルゼンがいないところで誘えば良かった」

「どちらにしても断る。警護とかメンドクサイ」


 私はアッサリと断る。マレーネ姫についていったのは仕事だ。あんなふうに警護の騎士を引き連れてなんて遊べない。

 シュテルがあからさまにムッとする。


「そんなこと言わないでさ。卒業したら夏休みなんて一緒にとれなくなるんだよ?」

「ええ……やだよ」

「ベルン! お願い!」

「えー……やだ」

「だったら、アイスベルクに泊めてよ。僕、行ったことがないし、あそこならお忍びで行けでしょ」

「絶対ヤダ!! うちの領地は遊ぶようなところ何にもないし、もっと面倒」

「フェルゼンは狩に行くんだろ?」

「フェルゼンは王子様じゃないし、お忍びでもないし。ヴルカーンおじさまなら厩でも寝るだろうし」

「ベ~ル~ン~!」


 シュテルがしつこく食い下がらる。

 だって、旅行だなんて何かあってボロを出したら困る。アイスベルクを歩き回れば、子供たちから私が女だとばれてしまうかもしれない。

 絶対に無理だ。


「だったら、離宮に行けばいい」


 フェルゼンの提案に、シュテルが顔を輝かせた。


「鏡の離宮か!」


 シュテルが答えた。


「確かにあそこならお忍びでなくても行ける」

「鏡の離宮?」

「ベルンがいるなら渡れるだろ?」

「確かに」


 私は鏡の離宮を見たのは一度だけだ。エルフェンお兄様が、初めて離宮に氷を張るとき、岸から見学をしたきりで、湖を渡ったことはない。

 お兄様が氷を張り、湖を先導していく様子は美しく、とても憧れた。

 それを私がやっても良いのだろうか。


「いいのかな?」

「うん、信用してる、落とさないでね」


 シュテルがいたずらっぽく笑った。





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