表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/40

24.マレーネ姫の視察旅行 4


 晩餐会の明かりを見ながら、庭で一息つく。変態と話して疲れてしまった。

 暗がりで樹木をぬけて涼しい風が通る。不安で胸が凍えそうだ。こんなときに、フェルゼンの暖かさが恋しくなる。


 ザントがバラしてしまったら、もうフェルゼンの暖かさにも甘えられない。迷惑をかけられない。フェルゼンは知らなかったことにして、私だけ裏切り者だと断罪されるべきなのだ。

 王都との交流を全て断ち切って、アイスベルクに帰る。そういうことになっている。


 寂しいな。


 ブルリと身震いした。夜の庭でのスカートは、思いのほか冷える。


「ベルン先輩?」


 聞きなれたら声に振りかえれば、クラウトがいた。騎士団の制服だ。晩餐会には参加しなかったのだろうか。


「クラウト、君は警護から外して貰えば良かったのに」

「いえ、私がこちらを希望したのです」

「せっかく家族と王女との晩餐なのに仕事熱心だね。君の家は王家と親交が深いと聞いているよ」

「……恥ずかしいことですが、父や兄は王家の方々と親密な話ができます。でも、私は無理なので疎外感を感じてしまって……。少し寂しく思うんです。情けないことです」


 遠くを見ながら話すクラウトが、いつもより弱々しく見えた。


「ああ、わかる気がするな。私もそうだよ」

「先輩がですか?」


 どんなに仲が良くても、幼馴染みでも、やっぱり男の気持ちはわからない。女の子を好きになる気持ちだとか、逆に女子に対する反感だとか、理屈は分かっても共感は出来ない。


「うん、どうしようもないけどね。ちょっと寂しいよね」

「意外です。悩みなんてないと思っていたから」

「そんなことないよ。弱いしカッコ悪いんだ。……今日も助けてくれてありがとう」


 クラウトは目を大きく見開いて、息を飲んだ。夜目にもわかるほど、顔が赤い。


「いえ、私が誰にも触れられたくないと思っただけです」


 月の光が木々の間から降ってくる。ザワザワと風が鳴る。


 クラウトは顔をあげて、私をじっと見た。


「あの瞬間、咄嗟に殿下を探していましたよね」

「!!」


 気が付かれていた。


「悔しいと思いました。近くにいる私じゃなくて、他の人を呼ぶことが悔しかった」


 息を飲んだ。緑色の瞳に月の明かりが反射してキラキラと光っている。美しい、だけど。


「ベルン先輩が好きです。人に言える意味ではなくて」


 真剣な目が怖くて、視線を反らす。


「ゴメン」

「……分かってました。私は先輩に相応しくない」

「そんなことないけど、私は誰とも付き合わないんだ。君のせいじゃないよ」

「誰とも? 女性ともですか?」

「うん。誰ともだ」


 男のままでは、嘘をついたままでは、誰をも愛する資格がない。


「それが、先輩の寂しさなんですね」

「……きっと、そうだね」


 独りで生きていく。

 それでいいと思ってた。でも、どうしてなんだろう。なんだか最近はうまく考えられない。寂しいと思ってしまう。


「寂しい時に、先輩も同じだと思い出してもいいですか? 一人じゃないって思ってもいいですか?」


 クラウトは微笑んだ。月の明かりが、彼の顔に影を作る。悲しい。


「……私も君を思い出すよ」


 きっと私は思い出すだろう。同じ寂しさを抱えた人。


「ありがとうございます」


 クラウトは丁寧に頭を下げてから、私に背を向けた。




 結局ザントは誰にも話さなかった。

 兄上に相談したら、『あれでも有能だし、気に入ったやつは裏切らないよ』と笑った。

 気に入られているのか甚だ疑問だが、少なくともしばらくは心配しなくていいのかと思えばホッとした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ