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【書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
本編

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23.マレーネ姫の視察旅行 3


 マレーネ姫のたっての願いで、魔道士ザントと面会することになった。ザントはヴルツェル侯爵家の牢屋に、魔法封じの法具を付けられ閉じ込められていた。

 牢越しに対峙する私の背に、マレーネ姫がくっついて様子をうかがっている。


「ひぃぃぃっ、マレーネたん 無理、むりぃ。ごめんなさい、眩しい。生きててすいません」


 雄たけびを上げて、ザントがマレーネ姫から後ずさり、壁に張り付く。

 意味不明である。

 キモイ。


 私の背中越しに、マレーネ姫が話しかける。


「あの、ザントさま」

「いや無理、名前知ってるとか、無理、死ねるぅぅ」

「姫様話になりません、行きましょう」


 私は振りかえって、姫の肩を掴み帰るように促す。


「お姉さま、少しお待ちになって」

「お姉さまとか……いや待って、むりむり、尊み秀吉」


 グズグズと泣きながら拝み出すから頭が痛い。


「それですわ! ザント様!」


 マレーネ姫が声を上げた。

 その声に、私と変態が驚いた。


「ザント様、貴方のお言葉で、わたくし新しい世界を知りましたの! 私たちお友達になれると思うんです!」

「お、お友達?」


 ザントが不思議そうに首を傾けた。元がイケメンらしいので、変態の癖に無駄に可愛い。


「ええ、先ほどは祝福してくださったのですよね? わ、わたくしとおねえさまを……」

「そのとおりです! ボクは別に危害を与えるつもりなどなく、というか、そもそもボクが警戒対象だとも知らなかったんですけどね、いやなんでそうなった? だってボク直接マレーネたんとか無理すぎるのに何で笑えるとか思ってて」


 いきなり饒舌になるザント。怖い。


「ま、警護に当たってた訳なんですよ? それだけなんですよ? でも、目の前であんなにメイドさんとマレーネたんが素晴らしいから、我慢できずに祝福をと。だって、結婚してたでしょあれ。実質結婚してたよね?」


 まったく意味の分からない。


「ですよね! 結婚してましたよね!」

 

 マレーネ姫が興奮して同意する。

 なんだそりゃ意味わからん。結婚はしていません。そもそも女同士です。


「してたしてた、マジしてた!」

「だから私、ザントさまと詳しくお話したいと思いましたの」

「や、それは無理、百合に乱入するモブ男とか地雷すぎる無理」


 ザントが両手を振って断る。

 マレーネ姫が、私にギュッとしがみついた。


「お姉さま、一緒にお願いしてください」


 子リスのような瞳でおねだりされて、私は視線を泳がした。普通のことなら協力してあげたい。でも、この変態と友達とか、情操教育上よくない、絶対。


「それはいけません。マレーネ姫」

「はぁぁぁぁぁ! お叱りになるお姉さまメイドぉぉぉぉ」

「変態、黙れ!!」

 

 思わず怒鳴ってしまう。


「うう、地雷だけど、地雷だけど、マレーネたんのお願いを断れるかいや無理でしょ……でも、ボク、マレーネたんとお話とかハードル高すぎる」

「では、交換日記では?」


 マレーネ姫が食い下がる。


「こ、交換日記……」


 そう呟いてザントは真っ赤な顔をして倒れた。キャパオーバーだったらしい。マレーネ姫はなかなかの殺傷能力の持ち主だった。つおい。






 その後取り調べの結果、ザントはマレーネ姫に危害を加えられないと判断された。手紙は自身が婚約者候補に上がったことに感情が振り切れて、思わず出してしまったもので、そんなに不審に思われているとは考えてもいなかったらしい。なんでだ?

 今回の騒ぎも、『姫とメイドの仲良さに結婚祝いのフラワーシャワー』という意味のわからないことを供述しており、マレーネ姫が不問にするとのことで、かたがついた。良いのか?

 どちらにせよ、姫を信仰しすぎて、近寄ることはおろか、話さえできないくらいなのだから、危害など加えられないだろうと判断された。


 私は姫に頼まれて、交換日記をザントへ渡しに来た。犯人が拘束されて安心した姫様たちは、晩餐会の最中だ。

 ザントは私を見ると、先ほどとは打って変わった冷静な物腰で笑いかけた。


「やあ、メイドさん」

「まるで別人みたいですね。さっきのは何かの策略でしたか?」

「マレーネたんがいない、単体メイドさんには興味ないんで」


 ああ、そうですか。いっそ気持ちがいい。


「それにいつもあれだと仕事にならないでしょう」


 ごもっとも。

 私はため息を吐き出した。


「マレーネ姫から日記帳を預かってきました」

「はっ、はは」


 ひきつり笑いしながら、なんか泣いてる。キモイ。


「手紙のように、私室へ届けて欲しいとのことでした」

「はぁぁぁぁ、マレーネたん、女神……」


 私もそう思う。こんな変態にどんだけ心広いんだ。


「今回は大目に見ます。しかし、姫の優しさに付け込んで、困らせるようなことだけは、くれぐれもなさらないでください」


 キッパリと言えば、ザントは不敵に笑った。


「メイドさん、おんにゃのこでしょ?」

「何を当たり前のことを」

「いや、ベルンシュタインちゃん」


 ピリリ、空気が凍る。頭のなかに反響する血液の音。バクバクと煩い。


「ああ、今回の詳細は魔道士殿もご存じですか」

「うん、だからね、心配で見てた訳なんだけと。ほら、不埒ふらちな騎士がマレーネたんに懸想けそうでもしたら困るからね」


 お前が言うな!


「ではご承知でしょう。私は騎士です」

「それにしては、所作しょさが自然すぎて心が女の子なのかな? それなら美味しいな許すって思ってたんだけど、でも君、女の子だよね?」

「違います」

「違わないよ。素足を触って確信した」


 ゾワゾワとした感触を思いだし、身震いしそうになる。グッと拳を握りしめて堪えた。


「別に脅そうとか、そう言うんじゃないから、警戒しないでよ」

「……」

「なに、アイスベルクの謀略なの?」

「違う! そんなんじゃない!」


 体が凍りつく。バレてしまった。バレたらこんな風に誤解される。だから、バレてはいけなかったのに。

 

 息が出来ない。苦しい。グルグルと視界が回る。


 終わったな。もう、王都には戻れない。すべてを捨てて、逃げるしかないのか。フェルゼンにはもう二度と会えない。手紙さえ送れない。


 シュテルは裏切ったと思うだろうな。


 そんなふうに誤解されるのだけは悲しかった。


「そんな悲愴な顔しないでよ。王家に仇なすつもりがなければ、ボクには関係ないし」

「そんなつもりない!」

「まあ、見てればわかるけどね。マレーネたんをあんなに大切にしてるんだから」

「……」

「ねえ、取引しよう、君は黙っていて欲しいんだろ?」

「脅しなどに屈するものかっ!」

「脅しじゃないよ、どっちかっていうとお願い?」


 私は黙ってザントを睨む。ザントはそれを見て不敵に笑った。


「マレーネたんともっと絡んでぇ!!!」

「は?」

「いや、心の叫びが、そうではなく、仲良くしてくださいお願いします」

「別に貴方に言われるまでもなく、姫が許してくれるなら私はそうしたいと思ってる」

「あばばばば、マジ尊い」

「貴方がどんな目で私たちを見ているか知りませんが、私にしてみれば、姫様は妹のような方ですから」

「は、はは、は、拝むわ」


 ザントが私に向かって五体投地した。意味がわからなさすぎる。引く。


「いや、も、ほんと、いいです、ご馳走さまです、ありがとうございます、誰にも言いませんし、なんなら協力しますから、ワタクシメを下僕にしてください」

「いや、キモイし、姫様の前でそれはやめて」

「ひ、はは、ボクは自分がマレーネたんに絡むとか、マジで地雷だから! 手紙は発作だったから。見てるだけでいい。壁でいい。空気なんて吸われるかもしれないものになるのは烏滸おこがましい」

「交換日記は書いてください」

「お、おぅっふ」


 なんだかわからないが、とりあえず大丈夫なのだろうか?

 本当に言葉通りなのか不安でしかたがないけれど、これ以上問いつめたところで、安心できるわけではないので、牢屋を後にした。

 ザントはお兄様と同じ歳だったはずだから、後で相談してから考えよう。そう心に決めた。





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