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プロローグ 太陽の騎士と宵闇の騎士


 ここは、レーゲンボーゲン王国。


 王宮近くにあるコロッセオで、新しい年と社交シーズンの幕開けを告げる剣舞が披露されていた。

 剣舞を踊るのは、王国で名高い二人の騎士。

 二人はともに士官学校の学生だ。士官学校の学生たちは士官候補生として騎士の称号を賜るのがこの国の常なのだ。



 燃えるような赤い髪は、太陽の騎士と称されるフェルゼン・フォン・ヴルカーン。

 日差しを跳ね返す艶やかな褐色の肌に、エキゾチックな彫りの深い顔立ち。瞳は太陽のように赤々と輝いている。

 190センチはあろうかと思える長身に、筋肉質な身体。これぞ、騎士の中の騎士と誉めそやされる男だ。



 対する凍てつくような青い髪は、宵闇よいやみの騎士と称されるベルンシュタイン・フォン・アイスベルク。

 月を思い出させるような白い肌に、涼やかなかんばせ。深海の海のような瞳は、穏やかな光を湛えていた。

 男としては少し小柄ではあるが、かといって騎士として頼りないというほどではない。中性的ではあるが、身のこなしといい振る舞いといい、この国の騎士として恥じない男であった。





 二人は古式に則った儀式用の装束に身を包み、コロッセオの中心で華麗な演武を繰り広げていた。

 剣が光を帯びて輝く。フェルゼンの掲げる剣は、魔法の力で炎を纏っている。対するベルンシュタインの剣は、同じく魔法の力で氷を纏っていた。

 風を切る音。翻るマントから躍り出る手足。絡み合う視線と、阿吽の呼吸で繰り出される絶妙な鍔迫つばぜり合い。

 炎の剣が氷の剣を打つ。氷が欠けて雪のように舞い散る。

 返す刀で、氷の刃が炎を切る。蒸気が沸き上がっては消える。

 かち合う剣捌きと、華麗な魔法のやり取り。

 その美しさに、観客は魅了された―――。








「「フローエス ノイエス ヤール!!」」

 二人が声をそろえて、古い祝詞のりとで新年を言祝ことほげば、同じ言葉を復唱する歓声が闘技場に鳴り響いた。

 

 クルクルと剣を回し、向かい合う二人は鞘に剣を納める。不思議なことに、鞘に吸い込まれていく先から、炎も氷も消えていた。


 観客席は赤や青の扇で沸き立っている。

 どうもご令嬢たちが、自身の応援する騎士の色に合わせて用意したらしい。

 中には二人ともという意味で、紫の扇を用意している者もいた。



「やっぱり、太陽の騎士様は雄々しくていらっしゃる」


 ため息交じりの感嘆が漏れる。


「あら、宵闇の騎士様は優雅でいらっしゃいますわ」

「なんといってもお二人が並び立つからこそ、美しいのです」

「確かにそれは言えますわね」

「太陽の騎士様の力強さが宵闇の騎士様の繊細さを引き立て」

「宵闇さまの儚さが、太陽さまの激しさを際立たせる……」


 ご令嬢たちのため息がコロッセオに満ちた。




 だが、観客席の誰も知らないのだ。



 宵闇の騎士こと、ベルンシュタイン・フォン・アイスベルクが、実は侯爵令嬢だということを。





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