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「初陣」


始まりました。第一話です。


ドラゴン、かわいいよドラゴン!


考えてみてください。あの巨体で、鼻先こそばしたら甘えた声だすとか最高じゃろ?


え? だったら野良ドラゴンに餌でも持ってってみろって?


……。


断固、拒否する!!!


(そんなこんなで始まりますよ~)




 まぶたが重い。……どこだ? ここ。

 周りが暗いからよく分からんが、この感覚には覚えがある。

 ――そう、電車でキツキツの座席にかろうじて座れている状況に似ているのだ。


 違いといえば、座席が石のように硬いことと、……汗臭いことだった。

 つうか、めっちゃ汗臭いじゃねえか。何だここ。分かるかな。――そう、運動部の部室の匂いだよ。


 ああ、くそ。たまんねえ。こんな所にいられるか。

 俺は全く今の状況を把握できていなかったが、もう限界だったので、いやもはや限界突破してしまったので、少し離れた所にある、薄っすら明かりが差し込む出口へと向かうべく立ち上がる。


 だが、その時俺ははたと気づく。

 お、重くて動けん……。

 なにこれ、なんでこんなに重たいんだ。

 俺は暗い中、自身の身体に触れて確かめた。

 ああ、胸元がまるで硬い金属のようで、冷たく気持ちいい……。

 て、金属!? 動揺した俺は、おそるおそる他の自分の身体を触って確かめる。

 はい。まんま鎧でした。腰辺りには柄っぽいのがあるから、剣も下げてるっぽいっす。

 なんだこれ。何かの冗談? ……そうか、分かったぞ。多分俺は映画のエキストラかなんかで、今スタンバイ中とかそんな感じなんだ。

 そうでなくては説明がつかない。なんで、近代兵器ばりばりの現代でわざわざ鎧を着用する意味があるんだよ。中世じゃあるまいし――。



 ヴォォオオオオオオオ!!!!!



 益体のない思考を轟音が遮った。

 思わず耳を塞ぎながら、俺は震えた。


 やばい、これはヤバイ!!!


 本能がガンガンに警鐘を鳴らしている。

 なにこれ。一体何が起こってるっていうんだ!

 とにかく、ここに居てはまずい。逃げなければ。


 俺は自身の衝動に突き動かされるように、力いっぱい立ち上がった。

 するとどうだろうか。周りに静かに座っていた人影達も同時に立ち上がったではないか。

 よし! さすがにみんなも逃げるんだな……。

 一人震える孤独から、ようやく解放されるかと安堵した。



 が、



 「よし! みんな行くぞ!!!」

 「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」


 先の轟音に負けない勢いで叫ぶ男達。

 は、何? 何なの???

 そして一斉に出口の方へと歩き始める。

 俺は人の波に抗うことが出来ず、少しふらつきながらも何とか歩いた。

 それでも、待ちに待った出口。

 少なくともこれでわけのわからない事態からは開放されるはず。


 そう信じ、くぐって俺が最初に見たものは……。

 迫りくる巨大な業火だった。

 堪らず身体が硬直する。

 こんなの嘘だと誤魔化そうとするが、煽られるようにぶつかってくる熱気がこれが現実だと突きつけてくる。


 こんな火炎浴びたら死ぬでしょ……。

 いやいやいやいや、マジで死ぬから! 死にたくない死にたくない死にたく――。

 俺は全身全霊で走りだした。

 そして、――こけた。見事にずっこけた。

 目の前の下り坂を鎧の重さもあってゴロゴロと下っていく。


「わあああぁぁぁ!!!」


 もうわけがわからず、叫ぶことしか出来ない俺。

 ようやく動きが止まって、泥だらけの体を起こす。

 転がってきた方を見上げて、俺は愕然とした。


「なんだよ、これ……」


 月夜に照らされた石造りの外壁が、真っ黒に染まっていたのである。

 まるで異質なそれが、炎で焦がされたものだということを理解するのには少し時間を要した。

 そして何より、俺の視線を釘付けにしたのは、俺が出てきたであろう扉辺りに転がる黒い物体だった。


「あれは、人じゃないのか……」


 真っ黒な炭と化した死体。それは紛れもなく先程まで動いていたもので、自分も逃げるのが少しでも遅れれば、同じようになっていたのかもしれない。

 俺はこみ上げる吐き気に耐えられずうずくまった。嗚咽を漏らすが胃液だけが逆流してきて喉を焼く。

 はあはあと呆然とする俺は見上げた先に信じられないものを見た。


 ――竜だ!

 赤黒い鱗に覆われた巨体、大きな翼、長い尻尾にトカゲを何重にも凶暴化させたような頭部。

 紛れもなく、ゲームなどでしか見たことがない、軽く人を凌駕する怪物がそこにはいた。

 そこに、まるで蟻のように小さな人影が、大きな群となって突進していく。

 怒号で包まれながら突進していく彼らに、俺はかすかな希望をいだいた。

 あんなにも勇猛果敢に攻め立てているのだ。きっと彼らには竜に勝てる策があるのだ。

 俺は震える自身の身体を抱きしめながら、その瞬間を夢見て待った。いつあの巨体が崩れ落ちるのかと胸躍った。


 だが、次に俺の目に飛び込んできたのは、全く予想外で、予想通りの光景だった。

 竜が翼を、脚を、尻尾を動かしただけで、幾百という人が何も出来ずに吹き飛ばされていくのだ。

 まるでゴミのように数多の命が散っていく。ここはまさに戦場だった。

 怒号が悲鳴に変わりながらも、それでも竜へと向かう足と止めない人々を俺はどうすることも出来ずにただ見つめ続けた。

 恐怖が心を蝕み、冷静な思考を奪っていく。

 そして俺は一つの結論に行き着いた。


 ――これは、夢だ。


 そんな目が覚めたら竜がいて、みんな戦ってて、なんてあるはずないじゃないか。

「はは。なにマジになってるんだ、俺。たかが夢じゃないか」

 乾いた笑いが不相応に辺りに響く。

 なんだ、簡単じゃないか。これが夢なら、答えは一つ。

 ひとしきり笑い終えた俺はまっすぐに竜を睨みつけた。


「ラスボスを倒せば、冒険は終わる」


 俺は腰の剣を抜き放ち、一気に駆け出した。

 目指すは竜。今なお周囲に群がる人間を薙ぎ払っている、あの憎き赤トカゲだ。


「おおおおおおおおおおお!!!」


 周囲に負けないように怒号を張り上げながら俺は突進した。




 段々と近づくにつれ竜が大きさを増していく。巻き上がる砂埃に耐えながら見上げた巨体は、なぜこの世に存在できているのか不思議なほど別格な存在なのだということを嫌でも認識させられた。

 竜の足元は、まさに地獄だった。吹き飛ばされる者はまだ運がいい。踏み潰される者、尻尾で叩き潰される者、ブレスで焼かれる者。幾多の阿鼻叫喚に包まれてもなお、竜へと突き進む人々の狂気。

 ぐちゃぐちゃな混沌の中、もはや俺は何をしようとしているのかさえ、ぼんやりとしか認識できないようになっていた。


 俺を動かしているのは、ただ今の状態から開放されたいという渇望に他ならなかった。

 何度も吹き飛ばされそうになりながら、何とか竜の足元へと辿り着いた時には、鎧にヒビが入り、土にまみれ、額からは血を流して、まさに満身創痍の状態だった。


 だが、これで終わる。そうでなければ、どうすればいいというのか。


「はあああ! きえろおおおおお!!!」


 俺は叫びながら、渾身の力で巨大な竜の足を突き刺した!


 がっきぃぃん!

 甲高い音が鳴り響く。柄を握りしめていた手がじーんと痺れている。

 そして俺は自身が剣を見て震えた。

 なぜなら、鋭い刃はその半ばで綺麗に折れていたからだ。

 竜の突き刺した箇所を見ても傷一つ付いていなかった。


 終わった。もう、駄目だ。

 竜の巨大な脚がゆったりと持ち上がり、俺の真上で大きな影を作った。

 俺はその光景をぼんやりと見ていた。周りを見る。そこには未だ竜に挑みかかる人以上の屍が転がっていた。しかも、完全に原型を留めているものなどなく、どれもが無残な死に様を晒していた。

 もう次の瞬間には、彼らの仲間入りすることになるのだ。


「……ふざけるな」


 心が折れかけていた自身に湧き上がってきたのは、ただこの理不尽に対する憤りだった。

 なぜ俺は竜と戦って、殺されなければならないのか。

 いつの間にか強く握りしめていた剣の柄がギリリと鳴った。

 俺は理不尽を見上げた。そして自分自身を潰そうとする現実を睨みつけた。


「ふざけるなあああああ!!!」


 次の瞬間、竜はその巨大な脚を一気に振り下ろした。

 もう駄目かというその時、誰かに突き飛ばされるような感覚。

 鼓膜を波立たせるような轟音が脳内に突き抜ける。

 凄まじい衝撃波が、俺をまるで紙切れのように吹き飛ばした。




「つぅ~」

 頭を押さえながら身を起こす。やばい、頭がガンガンする。

 ふらつく思考の中、腰辺りに何かがしがみついている感触があった。

 見ると、同じく泥だらけの若い男が、俺に身を預けるようにして咳き込んでいる。


 この人が突き飛ばしてくれたおかげで、俺は助かったんだな。

 お礼を言わなければとした時、突然男は激しく咳き込むと、顔を横に向けた。口を覆った手の隙間から、おびただしい量の血が漏れ出し、地面を赤く染めた。

「お、おい。大丈夫か、おっさん!」

 男は咳が治まると、かすれる声で言った。

「ああ、よかった。いきていたんだな」

 そう言うやいなや、再び咳き込んでしまう男。

 彼の様子から俺は悟った。ああ、この人はもう長くないと。


 俺はどうして自分を助けたのかと男に尋ねた。自分でもびっくりするぐらいのかすれた声だった。

 男は少し逡巡した後に言った。

「あんたは、昔の俺を見ているようだったからな」

 どうして、そこまでして戦うんだ。逃げればいいだろ。

「? なぜ逃げられるんだ。竜の向かっている先には、妻や娘がいる。戦わねばならない」

 ごぷりと男は再び口から血を流す。

 段々と彼の顔から生気が失われていく。

 俺はお礼も言うことも忘れ、目の前で失われゆく命から目を逸した。

 震えを抑えきれない俺の胸ぐらを、男がグッと掴んだ。もう死ぬとは思えない、すごい力だった。

 彼と視線が合う。失われていく光で俺を見ながら、彼の口が動いた。声はもう聞こえなかったが、不思議と男の言葉が分かった。


 か ぞ く を た の む。


 そう言い終えるやいなや、どうっと音を立てて崩れ落ちた。

 もうピクリとも動かなくなったそれを見て、彼は死んだのだと悟った。

 せめて安らかに眠れるようにと願い、そっとまぶたを閉じてやった。


 ふとその時、大きな影が、俺や周囲を黒く染めた。

 竜だ。そいつはまるでゴミを見るかのようにあざ笑いながら、俺達を見下している。

 口からは既に隙間から溢れ出ている真紅の炎。もう焼き尽くす準備は出来ているらしい。


 俺は地面に転がっている石を手に持つと、ギュッと握りしめた。

 これは俺の夢だ。俺が作り出した世界だ。ふざけたことばかりやってんじゃねえ。

 ありふれた石が徐々に金色の光を放ち始める。


 ――死ね。明確な殺意を伴った炎が、俺に向かってほとばしる。

 俺は竜を睨みつけ、石を限界まで握りしめて振りかぶった。

「トカゲ風情が俺を見下してんじゃねぇえええ!!!」

 思いっきり石を竜に向けて投げつけた。石は眩しいほどに金色の輝きを放ちながら、竜の頭部を目指して直進する。それはもはや石ではなく、さながら弾丸の様であった。

 金色の弾丸は、竜の炎の中に突入する。そして、一瞬にして竜の火口に到達したそれは、堅き頭蓋を斜め上方に一気に貫いた。空へと消え行く金色の軌跡。


 そこはまるで、時間が停止した世界のようだった。火傷しそうなほど燃えたぎっていた竜も、ピタリとその動きを止めている。吐き出された火炎もその勢いをなくし、俺の髪先を舐めると音もなく消え去った。


 先に動いたのは竜だった。揺らいだように動いたそれは、力なく奇怪な音を立てながら、地面にひれ伏した。頭頂部から血の雨降らせたそれは、辺りを真っ赤に染めた。

 血にまみれながら、俺は戦い終わった反動から押し寄せる疲れで倒れそうになるのを何とか耐えた。

 一歩、一歩とゆっくりだが前に進む。

 頼まれてしまったからな。仕方ない。倒れるのは、それからにしよう。

 俺は振り返らずに歩く。そこで散っていった、数多の命に目を背けながら歩く。


 俺は救世主でも、ましてや慈悲深い神でもない。

 赤く湿った泥に足と取られそうになりながら、必死に大地を踏みしめる。

 それでも俺は、ここにいる。ならば出来るだけの役目を果たそう。

 俺はいつの間にか丘の上に立っていた。眼下に広がるのは広大な世界。灰色と赤で染まっていた世界が、一気に色づくのを感じながら、俺の胸は高鳴った。


「さあて、いっちょ世界を救ってみますか!」


 眩しい満月を見つめながら、俺は拳を天に突き上げたのだった。





いかがでしたか? いやあ、いきなり重かったですね。きっといい筋トレになりましたよ、主人公君(ゲス顔)


まあ、ドシドシ戦ってりゃ、レベルアップも速かろうということで、最近流行りの異世界無双ものに近づくのではなかろうか(適当)


ま、どっちにしても主人公君がこれからも美味しいご飯を食べられることを、私は心から祈っていますね……。 は!? いえいえ、他意などございませんとも。間違っても新しい食材を育てなきゃ(使命感)、とか思ってませんから!?


それでは、皆様。またお会いしましょう! 良きドラゴンライフのあらんことを……。


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