康太さんのアドバイス
「うわっ、真希。グーはやめろ、グーは!!」
慌てたような康太さんの声に、その状況を悟る。
ああ、うん、真希ちゃんが康太さんの部屋にいるのね。そしてふざけてる康太さんを見て、グーパンチした、と。えーっと、真希ちゃーん。ほどほどに、ね~。
「いててて。ああ、はいはい、もうふざけません。ちゃっちゃと用事を済ませます。ということで、由真ちゃん、今、スライムの森にいるんだよね? そしたらオルサの村まで戻れる? そこで待ち合わせしようか。ゲートの前でいいかな」
「はい。それでいいですよ」
「じゃあ今から行くね~」
スライムの森からオルサの村へと戻ると、目の前にピンク色の髪の毛をツインテールにして黒いメイド服を着た美少女がいた。頭の上のところに名前を表す文字が浮いている。……間違いなく、康太さんのキャラだ。
「えーっと……康太さん?」
「だからぁ。ルナルナだって……うわっ。真希、やめろ!定規は叩くためのものじゃないだろ!」
「真希ちゃーん。受験生の頭は叩いちゃダメだよ~」
「ほ、ほら。由真ちゃんもそう言ってるだろ? おいっ、ちょっと待て! なんで定規と分度器持ってるんだよ。増えてるじゃないか!」
相変わらず仲良しだなぁ。仕方ない。兄妹のじゃれあいが終わるまで、他の事してよーっと。
私はゲートの前で一人漫才をやってるとしか思えない康太さんを見捨てて、村長のクエを終わらせてしまうことにする。
役場まで行くと、昨日と同じように村長さんはたくさんの書類に囲まれていた。
「おお、一ノ瀬由真じゃないか。頼んでいた薬草を持ってきてくれたのかい?」
村長さんに話しかけられると同時に、文字が表れる。
『村長に薬草を渡しますか?
はい いいえ 』
はい、を選ぶとステータスバーのところから、薬草が村長の手元に飛んで行った。なるほど、これで渡したことになるんだ。
「おお。助かったよ。持病の腰痛が傷んでなぁ。薬草がないと仕事ができなくなるところだった。お礼にこれをあげよう」
村長さんが何かぷよぷよしたものをくれた。よく見ると、スライムのゼリーと書いてある。
あれ?これって誰か欲しいって言ってなかったっけ?
あ、そーだ。道具屋さんだ。
村長さんはついでに経験値もくれたらしく、LVが2に上がった。
ほーほー。頼まれたことをやっても、LVって上がるんだね。モンスターを倒さないとLV上げられないのかと思ってた。
とりあえずスライムのゼリーが欲しいという道具屋さんのところへ行ってみよう。そう思って役場から出ると、真希ちゃんとのじゃれあいを終えた康太さんが私を見つけて手を振った。
あんな風に手を振ったりできるんだ……どうやってるんだろ?
ゲームの中なのに、まるで本当に動いてるように見えるのって、凄く不思議。最近のVRは手足にもセンサーをつけてリアリティーを追及してるらしいから、きっともっと本物みたいに思えるんだろうなぁ。それこそ、自分が物語の主人公になりきれるんだろうなぁ。
そんなゲームをいつかプレイしてみたいような気もするけど、とりあえずは『Another Gate Online』を遊びつくしてからにしよう。これが面白かったら、自分で最新VR器を買って、最新VRゲームをやってもいいしね。
近寄ってきた康太さんに、私はどうやって手を振る動作をしたのかを聞いてみた。すると、設定画面にモーションと言葉をリンクさせる、というのがあって、それをONにすると言葉を発するとそれに対応した動作をするらしい。
最初は「よろしくお願いします」と言ったら「お辞儀」する、というようなデフォルトの動作だけでもいいけど、自分でもカスタマイズできるからやってみるといいよ、とのことだった。
康太さんに何かおもしろいモーションを入れてるか聞いたら、課金で買ったモーションがあるというので見せてもらった。
「いぇ~い! 奇跡の魔法美少女ルナルナ☆ミちゃん参上だよぉ~」
そう言いながら魔法のステッキみたいなのを出して、くるんと回った。ちなみに右足を少しまげて左足の膝の裏につけている。
へ……へえ。こんなのがあるんだ。
「『Another Gate Online』は無料だけど、課金アイテムは豊富なんだよね。まあ無課金でも楽しめるから大丈夫だけど」
他にも経験値を2倍にする課金アイテムとかアイテムボックスの数を増やすなんていうのもあるらしい。ただアイテムボックスの数を増やすクエストもあって、それはこのオルサの村で受けられるから、やった方がいいよとアドバイスを受けた。
そして康太さんから大量のコインとアイテムを譲ってもらった。復帰する予定はないのかな、こんなにもらっちゃっていいのかな、と思ったけど、受験でゲームする時間はないし、受験の後はうちの兄もやってるゲームに復帰する予定だから気にしないでね、と言われた。
「ありがとうございました。真希ちゃんにもよろしく」
「うん。伝えておくよ~。じゃあね~。おやすみ」
「はーい。おやすみなさーい」
目の前で康太さんがログアウトする。祈るような姿勢になって、その周りに金色の輪が現れて、その輪が円柱のように康太さんの姿を覆った後、光の輪が消えて、ピンクのツインテールのメイドさんの姿も消えていた。
こんな風にログアウトってするんだね。ほ~。
私も明日学校だし、今日はここでログアウトしようかな。いきなり凄いお金持ちになったし、明日は何をしようかなぁ。楽しみ~。
あっ。そういえば道具屋さんに行くんだった、と思い出したのは、ログアウトした後だった。