村人装備
装備ってどこで見るんだろう。
あ、ここか。ステータスバー。えーっと、ここをポチっとして、装備を表示っと。
すると空中に半透明なミニチュアの私が浮かぶ。左側に説明があって、何を装備しているのか書いてある。
右手武器・村人のシャベル
左手武器・装備不可
頭装備・村人の帽子
上半身・村人のブラウス
下半身・村人のスカート
靴・村人の靴
アクセサリー・なし
鏡がないから分からないけど、このミニチュア由真さんを見る限り、麦わら帽子っぽいのをかぶってて、白いブラウスに黒いスカートに黒いバレエシューズというのが、村人装備なんだね。地味だー。
でも待って! この村人のシャベルって武器はなんなの!? っていうか、シャベルっていつから武器になったの!?
武器をポチっとして詳しい説明を見る。
村人のシャベル(ユニーク武器)
戦闘時以外はスコップになる。叩いてもよし、杖の代わりにしてもよし、もちろん穴も掘れる優れ物。
……全然優れ物じゃなさそうなんだけど。これで戦うの?っていうか、戦えるの!?
はっ。村人は冒険者じゃないんだから、戦わないで畑を耕せってことかなぁ。うーん。早いとこ、自分に合った職業を見つけて転職しなくちゃだ。
とりあえずスライムがいきなり襲ってこないことを祈ろう。
持ち物は体力ポーション10個と魔力ポーション10個だった。まあ、最初はこんなものだよね。
装備と持ち物の確認をしたので、村役場を出て門に向かう。するとさっきは光ってなかったゲートが光っていた。上を見ると、スライムの森、って書いてある。ここをくぐればいいのか。
VRゲームだから移動はそのまま目線の先に自動で進む。歩く、とか、ゆっくり歩く、とか、走る、って言ってもいいみたい。とりあえず何も言わないでいると、目線の先に歩いていく。扉なんかがある時は自動で開くから便利だ。村なのに、ハイテク~、なんちゃって。
ちなみに立ち止まる時は、止まる、って言うか、一度下を見ればいい。そして再び進む時は、歩く、って言うか、空を見る。止まったまま地面を見る時は、地面を調べる、って言うんだったかな。
色々と言葉で指示しなくちゃいけないのが結構大変だね。今のVRは手とか足にもセンサーつけてて、自分の動作が反映されるって話だけど、確かにそんなゲームが出てきたら、こうやって一々指示しなきゃいけないゲームは、面倒でやりたくなくなっちゃうかもしれないね。
ゲートの中に入ると、また流星群のお出迎えだ。うん。やっぱり綺麗だね。
見とれているうちに、じわじわと風景が変わっていく。緑色が広がって、私はいつのまにか森の中にいた。
おお。凄い。一瞬で森の中だ。いいねぇ。実際にマイナスイオンは出てないだろうけど、気分はヒーリングスポット満喫中だ。
立ち止まってあたりを見回してるだけでも楽しい。
ああ、綺麗だなぁ。こんな風に自然を見るなんて、何年ぶりだろう……
ここ数年は兄が引きこもってるから旅行なんてとんでもないし、その前はグアムとかシンガポールだったっけ。別にうちが凄く裕福だったから、ってわけじゃない。母がママ友に見栄を張りたくて選んだ旅行だ。とりあえず海外だったらどこでも良かったんじゃないかな。海外に旅行に行きました、って言いたかっただけみたいだし。
こんな風に、ゆっくり過ごすことなんて、今までなかったなぁ。
その場で立ち止まってると、もしかしたら後からゲートをくぐった人にぶつかっちゃうかもと思って、少し先に進む。細い道を行くと、目の前に小さな湖が見えた。
「うわぁ……綺麗……」
澄んだ水の中には小さな魚がたくさん泳いでいた。さわさわと葉擦れの音が聞こえる。湖面がきらきらと光を反射して、まるで夢のように綺麗な光景だった。
うわか。これだけでも癒されるよ……VR、凄いな。
ひとまず座って、ぼーっと水面を見つめる。すると視線の端に何か見えた。
ぽよよん。ぽよよん。
青くて丸い、小さな塊。……スライムだ。
色は薄い青で、なんていうかかき氷のブルーハワイをかきまぜないで食べた後の底に残る液体みたいな色をしている。柔らかいゼリーみたいな体は、指でつついたらすぐに破裂しちゃいそうだ。
じーっと見てると、スライムの数がだんだん増えてきた。
ぽよよん、ぷよよん。
10匹くらいのスライムが目の前でふるふると揺れている。
……やばい。カワイイ。
スライムが襲ってこないのをいいことに、スライムの観察を続ける。スライムはぽよんと弾んで前に進むんだけど、弾む前に一瞬小さくなるのを発見した。
やばい。カワイイ。
これさ、かわいすぎじゃないかな。こんなにかわいいのに、倒したりできないよ。世の中の人たちはLV上げにスライム倒しちゃダメだよ。反対に保護しないとだ。いっそ世界遺産に登録だ!
私はタイムアウトギリギリまでスライムを眺めて癒された。
村長さんに頼まれた薬草を取るのを忘れたのに気がついたのはログアウトした後だったけど、スライムがかわいいから仕方ないね。
うん。仕方ない、仕方ない。