シマさん、クランの説明をする
「テイマーって、LV100から転職できるジョブなんだけど、魔物を仲間にするっていってもその子みたいに会話はできないんだよね。だから、そのスライムは凄く特別なスライムだと思う」
「ボク、特別? 特別? 由真の特別?」
シマさんの発言を聞いたぷっちょんが、嬉しさのあまりピンク色メインになって膝の上でぴょんぴょん跳ねた。思わず頭を撫でると、跳ねるぷっちょんに合わせて手の平が動いた。
「うん。私の特別で大好きなスライムだよ。他にはいないんだって」
「由真もボクの特別だよ! 武器を持ってる人間はボクたちの仲間を見ると、すぐに殺しちゃうんだ。でも由真だけはそんなことしなかった。ボクにルコの実もいっぱいくれた。だからね、ボク、ババさまに由真と一緒にいたいってお願いしたの!」
「ババさま?」
「うん! ババさま!」
「それ、誰?
「えーっと。ババさまはババさまだよ」
ごめん。意味が分からない。シマさんなら知ってるかなと思って聞いてみたけど、シマさんもスライムのババさまのことは知らなかった。
「そのババさまってスライムさんは、この森にいるの?」
「そーだよ。森の奥にいるの。でも人間は入れないとこだよ。ボクたちもババさまに入っていいよ、って言われないと入れないの」
「特殊エリアかもしれないな」
ぷっちょんの説明を聞いたシマさんがそう呟いた。
「特殊エリアって何ですか?」
「ストーリー上必ず倒さないといけないボスと戦う時は、こういったフィールドの先にボスがいる場所へ転移して戦うんだ。ボスを倒すクエストを持ってないと行けないことがほとんどだから、その場所を特殊エリアって呼んでるね。ババさまと呼ばれるスライムも、おそらく特殊なクエストを持ってないと行いけないところに存在してるんだと思う」
「そういえば、ボスを倒さないと先に進めない時もあるって言ってましたっけ」
「うん。ネタバレになっちゃうから詳しくは言わないけど。ただそのボスを倒すとクエスト報酬装備ももらえるんで、序盤は結構いいと思うよ」
ほーほー。そしたら村人装備じゃなくて、シマさんの着てるキンキラ装備みたいなのをもらえるのかな。歴史の教科書に出てた天草四郎みたいに首元にフリルがヒラヒラついてて、白地に金と紫の刺繍がしてある衣装は、いかにも高LV装備です、って感じだった。
私がシマさんの装備をジロジロと観察していることに気がついたのか、それについて説明してくれた。
「僕が着てるのは、ボスとは関係なく力試しで行くダンジョンの物だね。それに強化魔石をつけてるんだ」
ストーリー上、絶対に行かないといけないボスは一回だけしか戦えないけど、力試しで行く方のボスは何度でもチャレンジできて、そのボスが落とした装備を集めることで強くなるらしい。
ただボスを倒しても必ず装備を落とすわけじゃなくて、さらに希望の職のものが出るわけでもないので、装備を集めるのは結構大変なんだとか。
しかも装備には強化魔石を入れる穴がランダムで開いていて、10個が最高値になる。やっぱりどうせ装備するなら一番いいのを装備したいと思うのが当たり前なので、10穴装備と呼ばれるものが出るまで、延々とダンジョンのボスを倒しまくるんだとか。
その装備にボスが落としたり、ガチャって呼ばれるお金出してやるくじみたいなので出た強化魔石を入れていくことで、更に強くなるんだそうだ。
中には強い強化魔石が欲しくて、毎月100万くらいの課金をする人もいるらしい。
毎月100万って凄いよね。お金持ちにとってははした金なのかな。
また、落ちた装備がローブだった場合、僧侶とか魔法使いとかテイマーとかの複数の職の人が装備できるので、パーティーの中でも誰がもらうかで揉めたりすることがあるらしい。
その場合は全員でダイスを振って、一番大きい数字の人がもらえるんだとか。基本的にボスが落とした装備は譲渡不可だから、剣士とかローブ装備が必要じゃない人はダイスを放棄すればいい。
他にもいろいろなローカルルールを教えてもらった。そういうのを知らないと地雷と呼ばれてネットで晒されたりもするらしい。
「えー。たかがゲームなのに、なんでそんなに必死なの!?」
「ほんとにそうだよね。でもちょっとだけ気を付ければいいことだし、それでお互いに気持ちよくゲームできるなら、守ったほうがいいからね。そういうのはクランに入ると教えてもらえるんだけど……」
「クラン?」
「なんていうかな。えーっと同じサークルに入るみたいな感じかなぁ。たとえば生産系とか戦闘とか、そういうのが好きな人たちが集まって、情報交換したりするんだ」
「シマさんもそのクランっていうのに入ってるの?」
「うん。僕が入ってるとこは攻城戦メインだね」
攻城戦っていうのは、クラン同士で戦って相手のクラン所有の城を落とす遊びらしい。お城の数は全部で七つしかなくて、月に一度、そのお城の所有権をかけて戦う。お城を持っていると毎週お金がもらえて、そこでしか買えないポーションも手に入って、かなりお得なんだとか。
それを聞いてちょっと意外に思った。こうして話してても、シマさんって草食系っぽい男子なのに、そういう戦争みたいなのが好きなんだ。
でも話をよく聞いてみると、初期から一緒に遊んでる友達と作ったクランがいつのまにか攻城戦メインのクランになっちゃっただけらしい。本人はもっとまったり遊びたいらしいけど、月に一度の攻城戦には絶対参加しろと言われてるらしく、それが重荷になって、引退しようかとまで悩んでいたらしい。
なんていうか、ほんと。たかがゲームでそこまで悩んじゃうシマさんって、きっと真面目な人なんだろうなぁ。




