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期末試験終了

「は~。やっと期末終わったぁ」


 期末テストが全部終わって机につっぷしていると、隣で真希ちゃんがくすくすと笑った。


「お互い、おつかれ~。この後どうする? ドルチェでも行く?」

「いいね。こう、がんばった脳味噌に甘いものを与えてあげたい気分」


 ドルチェは駅前にあるカフェで、フルーツを使ったパフェがおいしいんで、よく真希ちゃんと食べに行っている。この季節だとイチゴのパフェかなぁ。そろそろクリスマスパフェも出てるかもしれない。


 カバンを取って、真希ちゃんと一緒に駅前まで行く。その間に話すのは当然、期末試験の話……ではなくて、今年のクリスマスをどうするかってことだった。だって今から試験の話をしても遅いもんね。もう賽は投げられたのだ。


「もうさ、毎年思うんだけど、クリスマスって本当にめんどくさいよね」


 校門を出て歩きながらの真希ちゃんの言葉に、深く頷く。


「だね。そろそろメッセとかうざくなってこない?」

「なるね」


 は~と真希ちゃんが大きなため息をついた。


 決まった彼氏のいない私たちにとって、クリスマスっていうのは凄くめんどくさいイベントだ。それまでは普通に友達してた男の子たちも、何かを期待するような態度になってくるからだ。

 まあさ、客観的に見て、私たちって結構かわいいほうだと思うしね。だからクリスマス前は告白される回数がとっても多くなるのだ。


 でもさ、好きでもない人と付き合いたいと思わないんだよね。

 そこが多分、私たちが周りの子たちとちょっと分かり合えない部分なんだと思う。

 周りの子はみんな、とりあえず付き合ってみればいいじゃん、って言う。でもさ、そうやって気軽に付き合うのは簡単だけど、いざ合わなくて別れるってなったら、付き合う時の何倍も大変な思いして別れることになるじゃない? それ考えたら、どうしても気軽に返事ができない。


 お高く止まってる、とか、色々選べる人はいいよね、とか、言われるけど、付き合ってもいいなと思える人がいないんだもん、仕方ないよ。


 まあ、今は真希ちゃんと遊んでた方が楽しいしね。それにぷっちょんもいるし。


「真希ちゃん、今年のクリスマスはどうする? うちの親の超気合入ったチキン食べてから、オールでカラオケする?」


 自慢じゃないが、うちの母のクリスマスのチキンは本当に凄い。本格的に詰め物をした七面鳥が出てくるのだ。しかもアメリカナイズされた味じゃなくて、日本人好みの味付けになってる。うまみ成分たっぷりで、噛むとジューシーな七面鳥は、お店屋さんで食べるのよりもおいしいと思う。


 お兄ちゃんが部屋から出てこなくて、お父さんも毎年仕事で帰ってくるのは遅くて、どこのモデルハウスかっていうくらい洗練されたリビングでチカチカと瞬くクリスマスツリーが寒々しい様子じゃなければ、本当に文句のつけどころもないほど完璧なクリスマスだよね。


 ここ数年は真希ちゃんがお母さんの料理目当てで来てくれるからいいけど、その前はほんと、おいしいもの食べててもおいしいって感じなかったもんねぇ。


 なんていうか、あの人、お兄ちゃんに執着しないで、料理教室の先生でもやったほうがいいんじゃないのかな。年取っててもそれなりに綺麗だし、他に目を向けたほうが幸せになれると思うんだけどな。


「あー。由真。ほんっとごめん!」


 母の事をぼーっと考えていたら、立ち止まった真希ちゃんが両手を顔の前で合わせて頭を下げた。サラリとした黒髪が頬にかかる。


 これは、もしや―――


「真希ちゃん、いつの間にか彼氏できたの!? え、誰? 私の知ってる人!? 私に挨拶の一つもないような礼儀知らずの男になんか、うちの大切な真希ちゃんはやれません!」

「ちょ、由真、あんたいつから私の母親になったのよ」

「母親になった覚えはないけど、真希ちゃんの彼氏チェックはするよ! そんで、私の真希ちゃんの心を奪った幸運な男はなんていう名前なのさ!」

「いや、だから誤解だってば」

「何が誤解なのよ。クリスマスの用事があるって言ったら、彼氏とデートしかないじゃん」

「それよりももっと大事なことだよ」

「え。だってクリスマスコンサートとかはないんでしょ? 日本に来るの、来年だよね?」


 真希ちゃんの大好きなアーティストは日本びいきで、毎年桜の季節にお花見コンサートと称して来日している。クリスマスに来日する予定はなかったはずだ。


「それがね、今年はウェブコンサートをやるらしいの。初のVRで」

「VRで? 凄いじゃん」

「でしょー? しかもさ、ファンクラブの会員なら全員見れるっていうんだから、さすがだと思わない?」

「うんうん。さすがさすが」

「もう、さいっこーのクリスマスプレゼントだよ~」


 真希ちゃんの目がハートになっている。まあ気持ちは分かるよ、VRの技術って凄いもんね。ゲームであれだけ感動するんだから、コンサートとかだったら、もう目の前で歌ってる感じになるんじゃないかな。


 ってことは、今年は一人であの七面鳥を食べるのかぁ……


 一ノ瀬由真。今年はぼっちのクリスマスが決定したようです。

 


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