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大ネズミ

 炭焼き場は、なんだか竹のような植物が生えている林の中にあった。竹みたいに中が空洞じゃないっぽいのは、その辺に転がっている竹もどきの木の中身がみっしりつまっていることからも明らかだ。


 そして食べ物が全然ない炭焼き場になんで大ネズミが発生したのかっていう疑問も解決した。やつら、竹もどきを一生懸命かじっていた。

 もしかして主食なんだろうか。肉食っぽいのにね。あれかな、パンダみたいに本来は肉食だけど、竹もどきが好きすぎて食べれるような体になったとか。


 まあ大ネズミの考察はどうでもいいや。別の考察をしよう。


 そう。私は今回、試してみたいことがあるのだ。


 『Another Gate Online』は最近の全体感VRのように両手足にセンサーをつけて遊ぶタイプのゲームじゃないけど、それでもそれに近い感じで遊べるように、両手にはめる、指なしタイプの手袋のような専用のセンサーが発売されている。それを使うと右手でマウス操作をする必要がないので、かなり楽に操作ができるらしい。


 さすが過疎ゲームと言うべきか、定価の90%OFFになっていたそれを通販で見つけて、私はついついマウスをポチッとクリックして購入してしまったのだ。


 それをはめてゲームをプレイしていると、まるでオーケトラの指揮をしているように見える為、その手袋にはコンダクターという名前がついていた。


 っていうか、コンダクターって名前はかっこいいけど、誰もいない部屋でVRのゴーグルをはめて指なし手袋をわきわきと動かす姿って、多分、はたから見たら笑えるよね……


 おたく、っていう三文字が脳裏をよぎる。


 ふ、ふんっ。おたくで何が悪いの。ぷっちょんと遊ぶためなら、おたくでも何でもなってやるわよ!


 よし。気を取り直して、とりあえずコンダクターの操作をしてみよう。


 といっても操作は簡単だ。両手の指にそれぞれ動作を設定しておけばいいのだ。


 マウスのクリックは右手をグーにする。スライドはそのまま手を払う感じで。


 他には右手の人差し指を曲げたら歩く。右手の中指を曲げたら止まる。右手の薬指を曲げたら走る。右手の親指を曲げたら右に回る。右手の小指を曲げたら左に回る。

 そして左の指には戦闘系の操作を設定しておく。叩く、斬る、などだ。


 魔法はかっこいいから「ファイア」とか叫んで発動させるようにしてある。だってそのほうが雰囲気が出るしね。


 シャベルで斬る、なんて動作ができるんだろうかと思ったけど、シャベルを持ってると剣スキルも使えるみたいなんで、多分、使えるはず。魔法も使えるみたいだから試してみよう。


「じゃあ、ぷっちょん。手前の大ネズミから倒していくけど、準備はいい?」

「いいよ! ボクもがんばるね!」


 ぷっちょんはぽよーんと高く飛んで、やる気を表していた。

 戦闘前だけど、ほんとかわいいなー。


「えいっ」


 コンダクターを操作して、斬る、を選ぶ。

 すると持っていたシャベルがうにょ~んとスコップになって、そのまま横にスライドして大ネズミを真っ二つにした。


「おお~。斬れた」


 斬られた大ネズミは光に包まれ、そして消えた。


「残念。何も出なかったね」

「ざんねーん。次は出るかな」

「どんどんいこー」


 どうやら大ネズミも余裕で倒せるらしい。調子に乗ってサクサクと倒していく。なかなかスミは出ないけど、それでもこれはこれで楽しいかもしれない。


「由真ー。次はボクも倒してみたい!」

「いいけど……大丈夫?」


 やる気満々のぷっちょんが体当たりする前に私が倒しちゃうので、ちょっと不満そうだ。


「だいじょーぶ! ボク、今のでまた少し大きくなったもん!」


 よく見るとちょっと大きくなってる……のかな? どうなんだろ。本人がそう言ってるから、何匹か大ネズミを倒してるうちにLVが上がってまた大きくなったってことなのかな。


 自分のLVが上がった時はポーンって音がして表示が出るから分かるんだけど、ぷっちょんのLVが上がってもイマイチ分からないのよね。あ、そうだ。今度から自己申告してもらえばいいのかも。


「そっかぁ。じゃあ、ぷっちょんが大きくなったらすぐ私に教えてくれる?」

「うん。いいよ! じゃあボクも大ネズミやっつけるね!」


 そう言ってぷっちょんは虹色の体をぽよーんと大ネズミにぶつけて……


「あ、はじき返された」


 そのままぽよんと跳ね返った。ころんころんと転がるぷっちょんを見る大ネズミは、キシャーと威嚇の声を上げている。


 うわわわわ。危ないじゃん、これ。


 私は慌てて大ネズミを叩く。それで倒せたのか、大ネズミは光に包まれて消えた。そして大ネズミが消えた後に、黒い塊が残されていた。


「あ、スミが出た」


 結構出るのに時間がかかったなぁと思いながらスミを拾ってアイテムボックスに収納した。そして転がったまま青っぽい色になっちゃっているぷっちょんの元へと向かう。


「ぷっちょん、大丈夫?」


 スライムの森に帰ってないから、そんなにダメージを受けてないと思うんだけどなぁと思いながら、青っぽくなったぷっちょんの横にしゃがむ。


「ボク……ボク……ボクが倒したかったのにぃ……」

「でもぷっちょんのおかげでスミが出たよ」

「……ボクのおかげ?」

「うん。ほら。スミが出たよ」


 しまったスミをもう一度アイテムボックスから出してぷっちょんに見せる。するとぷっちょんの体の色がキラキラとした虹色に戻った。


「ほんとだ! ボク、ちょっとは由真の役にたった?」

「うん。もちろんだよ!」

「わーい、わーい」


 ぽよんぽよんと弾んで、ぷっちょんが私の周りを跳ねる。

 やばい。かわいすぎるよ……


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