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スライム大好き倶楽部

 仲間になったぷっちょんは、私と一緒にゲートをくぐれるようになった。ちなみに名前の表示が緑になっている。他のスライムたちの名前は白で表示されていたから、ぷっちょんだけが特別なスライムになったってことかもしれない。


 ゲートをくぐって村に戻る。ぷっちょんは私の後ろをぽよよんぽよよんと跳ねてついてくるけど、村人がそれに注目することはなかった。


 うーん。レアスライム見るっていうかゲットしたし、次は何をしようかなぁ。


 康太さんメモによると、次のお勧めクエはLVを上げてこの先の町に行かないと受けられないらしい。次の町に行けるのはLV10からだから、とりあえずLV上げをしないといけない。


 う~ん。戦闘かぁ。まだ一回もやったことないね、そういえば。


 でももうお使いクエストは全部やってしまっていて、残っているのは戦闘系のクエストばっかりだったような気がする。とりあえず村役場に行ってどんなクエストがあるか見てみよう。


 ぷっちょんを連れて村役場に行くと、相変わらず村長さんがたくさんの書類に囲まれていた。こんな小さな村で、なんでこんなに書類仕事があるんだろう。謎だ。


「村長さーん。こんにちは」


 言葉とエモーションを連動させているので、こんにちは、と言うと同時にお辞儀していた。書類にサインしていた村長さんが顔を上げてにっこりと笑った。


「おや、由真じゃないか」


 お。ニックネームを設定したおかげで、フルネームで呼ばれなくなった。


「今日はどうしたんだね」

「えーっと。何かお手伝いすることがないかなと思ってきました」

「そうかそうか。村人が困っていることをその掲示板に載せているから、手伝えるようならお願いしていいかな」

「はーい」


 壁にある掲示板を見ると、村人のリックさんが畑に出る虫を退治して欲しいって書いている。

 うーん。虫かぁ。どんな虫かなぁ。黒くて小さいヤツなら無理だけど、他に依頼もないし、とりあえず話を聞くだけでも聞いてみようかなぁ。


 掲示板の前で悩んでいると、村長さんが「おや」と声を上げた。


「由真は虹色スライムをペットにしているのかい?」


 村長さんは椅子から立ち上がってぷっちょんの前にしゃがみこんだ。その目は好奇心に満ちている。


「そうなんです。今日仲間になってくれました」

「そうかそうか。虹色スライムはなかなか気難しくてね、普通はこんなに懐いてくれないものだけど、由真はとても気に入られたんだねぇ。うんうん、とても素晴らしい事だ。それにしても、スライムはかわいいだろう? 私もね、一匹飼っているんだよ。こうして見ているだけでも仕事の疲れが取れるよねぇ」

「確かに癒されますね~」

「仲良くなるとたまにスライムのゼリーもくれるしね。冒険者の中にはこんなにかわいいスライムを殺してゼリーを奪う者もいるが、本当にとんでもないことだよ」


 ……すみません。私もスライムのゼリーってスライムを倒してもらうものだと思ってました。でもそれ、邪道だったんですね。そういえば、掲示板の依頼でもスライムを倒してっていうのはなかった気がする。

 この世界ではスライムってペット枠なのかな。ゲーム的には、一番弱いモンスターって扱いだけど。


「あ、もしかしてそれで、冒険者には家を貸さないんですか?」

「そうだよ。それにスライムたちも怯えるからね。あんまり家の外に出ようとしないんだ。冒険者がこの村にくるまでは、ペットのスライムたちも村の中で元気に遊んでいたんだがねぇ」

「冒険者って、前はいなかったんですか?」

「そうだねぇ。10年くらい前から急に見るようになったねぇ」


 それって『Another Gate Online』のサービスが始まってから、ってことかな。

 ほーほー。設定が細かいね。


「由真もこの虹色スライムを連れて歩く時は冒険者に気を付けたほうがいいぞ。あいつらはいきなりスライムに斬りかかってくるからな」


 うーん。村の中では斬りかかるとか無理な気がするけどなぁ。それに仲間になったスライムは緑色で名前が表示されてるから、村の外でも倒したりできないんじゃないかな。

 村長さんとか村の人の名前は水色なんだけど、そういうNPCにも攻撃とかは一切できないようになっている。だから仲間になったスライムにも攻撃できないと思う。


「村長さんが飼ってるスライムって、今ここにいますか?」

「奥の部屋にいるがどうかしたかね」

「ちょっと連れてきてもらえますか?」


 頼むと、すぐに村長さんは青いスライムを手に抱えて連れてきた。ぷっちょんより一回り小さいスライムは、ぷよぷよと揺れている。村長さんがスライムを降ろすと、ぽよよんとぷっちょんの元に跳ねていった。ぷっちょんも嬉しそうにぷるぷるしている。


 私はその青いスライムをじっと見つめた。名前は薄い水色で『村長のスライム』という表示になっている。これが森の中のスライムなら、敵を表示する黄色い三角の矢印が出て攻撃できるようになるのだが、村長のスライムには何も表示が出ていなくて、村長さんたちと変わりがない。


 これなら村の中で遊ばせても、冒険者っていうかプレイヤーに攻撃されることはないんじゃないかな。


 それを村長さんに教えてあげると、とっても喜ばれた。


「由真! これでいつでもスライムをかわいがれるぞ! ありがとうありがとう」


 村長さんが思いっきり握手をしてきた。……うん。抱き着かれなかっただけ、良しとしよう。


「君の功績に感謝して、これをあげよう」


 村長さんが何か青いカードのようなものをくれた。調べると『スライム大好き倶楽部の会員証』と書いてある。


「これは冒険者が持っている冒険者登録カードと変わらない機能があるカードだ。これで冒険者にならずとも、冒険者ギルドでクエストを受けることができるし、スライム大好き倶楽部の提携店での買い物は割引が効くぞ」

「へ~。こんなのがあるんですか。ありがとうございます」


 ってことは、これがなかったら、ずっとただの村人で、冒険者ギルドでもクエストを受けられなかったってことかな。うわぁ。危なかったー!

 でも後で知ったけど、次の町に行くには、冒険者登録カードかこのスライム大好き倶楽部の会員証がないとダメだったらしい。

 それはそうだよね。最初の村からずっと出れないゲームとか、誰がやるの、って感じだもんね。


 これで次の町には行けるようになったみたいだけど、とりあえずLV上げしないとだね。村長さんにリックさんの家の場所を聞いて、虫退治に行くぞー!




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