ぷっちょん
キョロキョロと辺りを見回すけど、プレイヤーもNPCも見当たらない。すると視界の端にぴょんぴょん跳ねている虹色スライムが見えた。
「ボクだよ! 一ノ瀬由真。ボクが喋ってるんだよ!」
下を見ると、ぷっちょんが一生懸命跳ねている。かわいい。
「ぷっちょん、喋れるの?」
意外だ。スライムって喋れるんだ。っていうか、意思の疎通ができるんだ。
「うん。だってボクは一ノ瀬由真の仲間になったからね!喋れなかったら困るでしょ」
そういうものかな、と思ったけど、とりあえず頷いておいた。かわいいから、何でもいいや。
しゃがんでつんつんするエモーションをすると、それに合わせてぷっちょんがプルンと揺れる。うう。現実で触りたいな、これ。
「そうだね。私もぷっちょんと喋れて嬉しい」
えへへ、と笑うと、ぷっちょんの色がピンクが多めの虹色に変わった。
「おお。ピンクになってる」
「うん。ボクはね、虹色スライムだから嬉しいとピンクになるの」
「へ~。じゃあ悲しいと青くなるとか?」
「そー!その通り。一ノ瀬由真は、よく分かってるね!」
ぴょんぴょん飛ぶピンクが多めの虹色スライム。体の色で喜怒哀楽が分かるのって、いいかもしれない。まあ、体の色を見なくても、その声の調子で嬉しいんだな、って分かるけど。
ほんとVRって凄いね。
「あのね、あのね。ボクの仲間も一ノ瀬由真と同じ村にいるんだよ。知ってた?」
「オルサの村に?」
「うん。えーっと、村で一番偉い人のとこに行くんだって言ってたよ」
それって、村長さんのことかな。
あれ、そういえば、村長さんからスライムのゼリーを薬草のお礼にもらわなかったっけ? え? もしかしてあれって、村長さんに騙されて村に連れていかれたスライムの成れの果て!? え? 村長さんっていい人っぽかったけど、実は腹黒!?
私があわあわしてると、ぷっちょんがプルンと体を震わせた。
「どうしたの、一ノ瀬由真」
「いや、その、ね。村長さんにスライムのゼリーっていうのをもらったんだけど、それってもしかして……」
「うわぁ、もうそんなに仲良くなってるんだね!」
「え?」
「あのね。ボクたちスライムはね、仲良くしてくれた人にはお礼においしいゼリーをあげるんだよ。えっとね、こうやってね、こうやるの」
えいえい、と体をプルプルさせたぷっちょんは、んー!と声を出すと、ていっと体から何かを出した。
え、これって、うん〇……?
じゃなくて、これがスライムのゼリーでした。えー、おいしいとか言われても、ちょっと食べるのに勇気いるよね。うん〇じゃなくても、スライムの体の一部だよ!
「おいしいから一ノ瀬由真にあげるよ、食べて!」
「あ、ありがとう。でも今、お腹いっぱいだから後で食べるね」
VRだから、食べるエモーションするだけで実際に食べてるわけじゃないって分かってるんだけど……分かってるけど、抵抗があるよね。
ていうか、もしかしてスライムのゼリーってこの世界の珍味扱いだったりして。ありえるなぁ。
「そう? 一ノ瀬由真にはいーっぱいルコの実をもらったから、ゼリーが欲しかったらいつでも言ってね!」
「分かった。ありがとう」
とりあえずお礼を言って、もらったゼリーをアイテムボックスの中に入れておく。虹色のゼリーがぷるるんとしていた。
「ところでさ、ぷっちょん」
「なあに、一ノ瀬由真」
「その……一ノ瀬由真、ってフルネームで言うのって、どうにかならないかな」
さっきから、一ノ瀬由真、一ノ瀬由真、って連呼されると、なんていうか、フルネームで呼ばないでーって言いたくなっちゃうのよね。だって普通、こんなにフルネームで呼ばれることってないもんね。出席取る時くらいだよ。
「どうにかって?」
「えーっと、苗字はなしで、名前だけで呼ぶとか」
「みょうじ、ってなに?」
あー。スライムに苗字って言っても分からないかぁ。どう説明したらいいんだろう。
「えーっと、由真、ってだけ呼ぶのとかできないかな」
「それってニックネームで呼べばいいってこと?」
「あ、そうそう」
ニックネームじゃなくて名前なんだけど、それでもフルネームよりはいいよね。
「えっとね、ニックネームの設定がしたかったら、設定画面でできるよ」
おお、なんだか色々教えてもらえるのかな。これならわざわざルルリアさん呼ばなくても、ぷっちょんが分からないことを教えてくれそうな予感。
ぷっちょんの説明にそっって操作すると、ニックネームの設定ができた。ここでNPCに呼ばれる呼び方をいつでも変えられるらしい。
えーっと、じゃあ普通に由真、でいいかな。それで設定して、っと。
「じゃあ、これからは由真って呼ぶね」
そう言うと、ぷっちょんはぽよんぽよんと何度も跳ねた。虹色の体が赤にピンクに黄色に青に。万華鏡のように様々な色に変わる。
やばい。かわいすぎるでしょー!




