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The GORK オカルト探偵目川純は助手の女装高校生リョウが気になってしかたがない。  作者: Ann Noraaile ノラエイリ・アン
「終焉、あるいは再生への道筋」
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The GORK  41: 「あの素晴しい愛をもう一度」

  41: 「あの素晴しい愛をもう一度」


 俺とリョウの二人は、博物館脇の植え込み前のベンチと車いすにそれぞれ腰を下ろして、煌々と輝く満月を見上げていた。

 ベンチは盛り土の上に設えてあって、リョウがその頭を俺の肩に預けて寄り掛かるには、丁度いい高さだった。

「こうして二人で月を見るなんて久しぶりだな、、。」

「えっ?所長と一緒に月を見た事なんてあったっけ?」

 俺は怒ったようなふりをして隣のリョウに視線を走らせる。

 リョウは俺の頭に巻き付けた腕の先の指で、監禁生活の間にすっかり伸びた俺の髪を弄ったまま、月から目を離そうとしない。

 リョウの切れ長の下瞼の縁に、銀の水が溢れつつあり、それを見つけた俺は思わず目をそらせた。


「・・リョウ、、ずっとこうしていたい。」

 ・・初めて言えた。

「それは僕も一緒だよ。」

 博物館の中では、一連の修羅場が終わった後に駆けつけてきた蛇喰ファミリーが、その後始末で走り回っている筈だった。

「それにしても巨乳だな。」

「僕は微乳で悪かったな。」

 蛇食ファミリーの一人が、肩に掛けてくれた上着の合わせ部分を引き寄せて、リョウは悪戯ぽく笑った。

「それ、脱げないのか?」

「脱いで欲しいの?巨乳は好みだろ?」

「・・いや、これでも心配して言ってるんだ。」

「着るとき凄くきつかったから、、。沢父谷ってすげぇグラマーだと思ってたけど、腰なんかはきっちりくびれててさ。」

「俺たち、凄く気持ち悪い会話してないか?それ、言っちゃ悪いが死人の皮だぜ。」

「全然、だって所長も、もうすぐこうなる予定だったんだよ。」

「だな、、。俺の剥製、もし手に入ったら手元に置いてくれるか、リョウ?」

「さあ、だって所長、格好悪いんだもん。」

 月は黙って光り輝いているままだ。

 俺は煙猿が、鼻歌で歌っていた「ミスター・ムーンライト」のメロディを思い出していた。


「悪い、お待たせしたなお二人さん。もうすぐここを離れられそうだ。」

 優雅な足取りで近づいてきた大男が二人に声を掛けてきた。

 博物館横の常夜灯と月の光に照らされた大男の顔を見てリョウは一瞬、息を飲んだようだった。

「お兄さんの具合はどうなんですか?」

 リョウから蛇食と剛人の関係を聞いていた俺が、その男・蛇喰探幽に気遣いの声を掛けた。

 剛人は一番に助け出され、車で運び去られている筈だ。

「まあ弟としての長年の付き合いから言えば大丈夫、、もう少し遅かったら出血多量で、って言う奴だったかな。」

 不敵とも言える笑みを見せて、蛇食が答えた。

「ムラヤマっていう裏十流の買い取りで動き回っていた代議士が今日の真っ昼間に殺された。煙猿に関する事ならどんな情報でも俺に伝えろと兄貴に脅しを入れられてたもんでね。・・連絡を入れてから半日でこんな状況になってた、、、。いつもこうなんだ、兄貴は、、。」

 言外に対応のしようがなかったのだと言う蛇食探幽だが、その言葉の端々には、兄に対する思慕の念が見て取れた。


「目川さん、あんたを守るのも、救い出すのも、本来、私の役目なんだが、、済まなかった。改めて詫びを入れさせてもらう。」

 蛇喰が頭を深々と下げた。

「今回の件で、今後一切の迷惑があなた方に罹らないことを誓うよ。」

 蛇食の視線が俺とリョウに等分に注がれる。

「じゃあな、私はここで失礼する。これから色々と雑用があるものでね。君たちを迎えに車を回すように言ってある。もう暫くの辛抱だ。」

 背を向けて立ち去りかけた蛇食が、思い出したように振り向いて言った。

「ああリョウ君、、そう、リョウ君だったね。これから我々が所長さんを送り届ける先は病院だ。君も疲れているだろうが、一緒に行って付き添ってやってくれるかね。それに君のその格好もなんとかするように病院に言っておいた。すべて任せて大丈夫だ。」

「それに目川さん。その病院にはあんた好みの綺麗な先生もいる。目の保養になるぜ。」


 蛇喰探幽の最後の言葉に、俺は何かを感じたが、その正体は分からなかった。

 とにかく、今は、こんなにボロボロの身体なのに俺は満ち足りていた。

 これで十分だ、他の感情はいらない。

「・・全て俺に任せろって感じ、なんだか剛人さんとそっくり、、。」

 クスッと笑いながらリョウが呟く。

「お前、さっき蛇食さんの顔を見てびっくりしてたろう。」

「最初会った時には気がつかなかったんだけど、蛇食さんて僕の知り合いに目元がそっくりなんだ。」

「そっくりって、あの剛人さんとやらの兄弟なんだから当たり前だろう?」

「そうじゃなくて息子の方だよ。」

「・・それって、どういう意味?」

「いいから、いいから。やっぱり親子っていいなってことだよ。ほら、車が来たよ。」

 リョウの顔に、満面の微笑みが戻っていた。



                 完







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