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The GORK オカルト探偵目川純は助手の女装高校生リョウが気になってしかたがない。  作者: Ann Noraaile ノラエイリ・アン
「沢父谷姫子の失踪」
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The GORK  4:  俺たちは天使だ、ったっけ?

        4: 俺たちは天使だ、ったっけ?


「で、本気なのか?」

 所長は目を丸くしながら言った。

 どこの世界に、自分に依頼が来た事を驚くような探偵がいるだろうか、、でもいるのだ、それが僕のアルバイト先の所長である目川純という男だった。

「料金はウチのCランクでいいだろう?僕のバイト料からさっぴいてくれればいい。」

「しかしそれなら、、」

「それなら、そのバイト料持って他の探偵事務所に行けばいいって顔してるね。」

「あっ、ああ、、なんせ俺はオカルト専門だからな、、。普通の失踪事件は扱わんのよ。それに警察に失踪届を出せば」

 警察に、、、僕も姫子の保護者代わりである老夫婦にそう言った。

 けれど「姫子は、そんな子じゃない」と頑固を絵に書いたような痩せた爺さんは首を振った。

 じゃ尚更、警察に、と言いかけて僕は口をつぐんだ。

 ひょっとしたら老人は姫子の事を誰にもつつき回されたくなかったのかも知れない。

 老夫婦によると、姫子は思いやりのある天使のような孫だと言うのだ。


「世間じゃ、姫子のことをどう言っとるのか知れんが。」

 顔を真っ赤にして怒鳴るように喋るのは、真実をねじ曲げてでも、己の孫に夢を見ていたい老人の心の露われだったのだろうか。

 そんなのを見た限り、僕としては沢父谷の件を警察に相談しておしまいにする訳にはいかなかった。

 それに僕には、この所長に依頼を頼むもう一つの理由があった。

 それは姫子に貰ったDVDに一瞬だけ映し出されたあの人影だった、、、。

 うちの所長は、こういう人間に鼻が効く。

「失踪届を出せば、警察が総力をあげて彼女を捜し出してくれたりする?冗談はよしてよ。」


 僕はショルダーバックから姫子のDVDを取り出して、所長が足を投げ出しているデスクの上に置いた。

 アームチェアディテクティブを気取って、買い付けたという肘掛け椅子は、今や所長のリクライニングチェアに成り下がっている。

 それなりに、すらりとした所長の体つきも、こんなだらしない格好では元も子もない。

「所長は、こういう裏DVDのこと詳しいでしょ。」

「まあ少なくとも不自由な人じゃないな、、。」

 所長はちらりとデスクの上のDVDに視線を落とした。

 所長のH形アンテナに、何かが受信されたみたいだ。

「姫子は、そのDVDに出てる。」

 所長の憂いを秘めた垂れ加減の眉がぴくりとつり上がる。

 同時に切れ長の目に、少しだけ理性の明かりの火が灯った。

「失踪と関係があると思ってるのか?」

「・・・・判らない、、ただ気になるんだよ。」

 いつもにやけていて、どことなく情けなさそうな所長の顔が、少しだけハンサムに見えた。

 僕は、この顔が嫌いじゃない。




「素人集団に毛が生えた程度の制作プロダクションなんだよ。名前がグロイストってんだから笑わせるよな。なんせ裏なんだからなんでもありだ。でもそれにしちゃ、なかなかいい絵を撮るんだねえ、これが。問題は、こいつらに食い込んでる煙猿って奴さ。グロイストは売れ筋になるはずなんだが、煙猿のおかげでこっちはプッシュしようがない。」

 歓楽街の片隅の煤けたレンタルショップの親父にしては、奇妙な迫力を身に纏った中年男がカウンターの向こうで、もぐもぐと口を動かしている。

 勿論、大手のレンタルショップでも経営が難しいこの時代に、こんな個人経営の半分アダルトショップまがいの個人レンタルが生き残っているには、それなりの理由がある。

 親父の手に、何本か残った内の1本の指が、目川から預かったDVDを取り出すためにイジェクトボタンにかかっていた。


「煙猿?エンエン、」

 目川純は、この中年男とお互いの恥ずかしい部分を知り尽くした昵懇の中だ。

 要するにエロ友達という事だが。

 そして俺は、その目川純に転生している。

 いや精密には、前の俺の身体は朽ちていない筈だから、転生じゃなく転移だと思うが、最近、色々な記憶があやふやになっていて、そこら辺の拘りが薄れかけてる。

 だが言っておくが、転生前の俺も「目川純」だ。

 この話はややこしいから、ここでは置いておくが、、。


「煙猿の存在自体が、噂話にしか過ぎないっていう話もあるし、実際に煙猿に会った事があるっていう奴もいる。半分、伝説になりかけの男なんだが、まあそういうのに該当する人間がいるのだけは確かだろうな。」

「どんな野郎なんだ?」

「グロイストのDVDに出演した女の子だとか、その知り合いが、次々に行方不明になってるんだけどな、、、どうやらそれに煙猿がかんでるらしい。儂もそれ以上の事は分からない。」

「だったらグロイストを叩けばいいんじゃないか?煙猿をチクらせればいい。それでその後、お灸でも据えてやれよ。それぐらいのこと、あんただって、あちこちに手を回せば出来るだろう。あんたが評価する位のチームなら、それ位の事をしてやっても良いんじゃねえか?恩を売っとけば、絵も安く仕入れられるぜ。」

「それがな、グロイストの連中自体が煙猿にびびってるらしい。」


 中年男は見終わった姫子出演のDVDをカウンターの上に置いた。

「おいおい、この国は曲がりなりにも法治国家だぜ」と混ぜ返しそうになるのを俺は思いとどまった。

 そうではない実態を、俺なりに知っているからだ。

 そこら辺りの腐った世情は、俺が元いた世界も、ココも同じ事だ。

 俺は、リョウから借りていたDVDをバックに仕舞いながら、駄目元で聞いてみた。

「グロイストの頭は誰よ?どこに行けば会える?」

「嘉門だ、ウエストビルの裏路地の飲み屋でよくたむろってる、、会うような事があったら、やばい野郎とは早く手を切れって言ってやってくれ。」

「ん?今回は、えらく、お優しいんだな。嘉門って奴は、そんなに売れる映像撮るのかい?」

「、、俺の甥っ子、、なんだよ。」

「それは、どうも、、ご愁傷様で、、」




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