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The GORK オカルト探偵目川純は助手の女装高校生リョウが気になってしかたがない。  作者: Ann Noraaile ノラエイリ・アン
「沢父谷姫子の失踪」
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The GORK  12: 「カサブランカ・ダンディ」

       12: 「カサブランカ・ダンディ」


 手筈は整っていた。

 俺が羽織っている皮ジャケットの内ポケットには、神代組の末端からくすねた麻薬が1キロ入っている。

 芝居じゃない、実際に俺が売人のヤサからそれをくすねて来たのだ。

 勿論、情報は蛇喰が流してくれたのだが、このカラクリは神代組の上層部の数人しか知らない。

 神代の組員が、俺の探偵事務所へ押し込んできたのは、俺が盗みを働いたその日の夕刻だった。

 リョウが沢父谷探しで走り回っていたため、事務所に顔を出していなかったのが幸いだった。

 リョウが初めて探偵助手のバイトにやって来た時、この商売何があるか判らないからと、俺が事務所からの緊急脱出用のルートを教えてやった。

 隣接した雑居ビル同士の間に生まれた裏路地や破れフェンスを潜り抜けるという、いかにも風の脱出路だ。

 その時リョウには、甘えた声で「まじっすかぁそれ」と大いに馬鹿にされたものだが、それが今になって俺自身の役に立ったわけだ。


 今、俺は蛇喰との打ち合わせ通りに、平成十龍城内のエントランスを北に向かって走っている。

 勿論「打ち合わせ」通りに、神代組組員も俺を追って来る。

 組員が3人であり、いずれも拳銃を所持し本気なのは、「打ち合わせ」の範疇外だったが。

 今日は金曜日だ。

 平成十龍城は人でごった返している。

 その中を全速で走っでいる俺をみんなが批難の目で見る、それはそうだろう。

 で次に、そんな俺を鬼のような形相で追いかけて来る男達の様子を見て、巻き込まれるのは困ると悲鳴を飲み込んでいる。

 そんな状況の中、俺は、余程のことがない限り発砲はないだろうと微かな期待を描いていた。

 それに、お互いが走っていて、拳銃の弾を相手の脚に命中させるなんて事は、日本の暴力団員の実力では不可能な筈だ。

 勿論、相手が脚を狙っていればという条件付きだが。


 本当に裏十龍は、逃げ込み寺の本領を発揮して、俺を助けてくれるのか?

 平成十龍城の内部には、無数の目があると言われている。

 今はどう使われているのかは分からないが、昔、巨大過ぎる敷地面積を持つ店内の防犯監視の為に設置された数百のカメラの存在だ。

 それらのレンズの前で、俺と神代組の追跡劇は、もう既に10分以上は繰り広げられている筈だ。

 誰かこの様子を見てるんなら助けてくれ、もう芝居のレベルはとっくの昔に超えている。

 俺の脚は棒きれのようになり、頭は酸欠の為に何も考えられず、鈍い痛みが居座ったままだ。

 それでも俺は走り続けている。


 俺が平成十龍城の迷路の深部まで入り込んだ頃、目の前の左手の角にレコードショップ「カサブランカ」の灯りが見えた。

 その少し奥はトイレで迷路はそこで途切れている。

 右に進めば、又、別の迷路が広がっている。

 「カサブランカ」という、かって見たことのある字面の看板が俺のスピードを殺した。

 それがいけなかったのだ。

 俺は右肩辺りを殴りつけられたような衝撃を覚えてつんのめった。

 ついで耳をつんざく破裂音がする。

 撃たれたのだ。

 だが、俺も素人じゃない。

 そんな事で度肝を抜かれてパニックになったりはしない。

 少しも躊躇いも見せず俺は右の通路に向かって走りだした。

 向こうから歩いてきたアベックが驚愕の面もちで俺を見ているが、俺は一切を無視して走った。

 今この瞬間にも背中を撃ち抜かれるかも知れない。

 その恐怖が、俺に後ろを振り向かせようとしたが、そんな事をしてもなんの役にも立たない。

 例え、追っ手の姿をこの目で捕らえらても飛来する弾丸は避けられない。

 俺は右肩を押さえた。自分の手がぬるぬるする程度で収まっている事に感謝した。

 俗にいう、かすり傷だ。

 だが、裏十龍の裏の門が空かれない限り、俺が受けるダメージは今後もっと酷くなるだろう。


 なんとか自分が置かれている状況を打開しようとする俺の前に、再び二つの選択枝が現れた。

 目の前の通路が地下階に下るものと、直進するものとに分かれたのだ。

 俺は地下階への通路に向かった。

 暫く進むと、手すり付きの四角いホール階段があった。

 見下ろすと下の階に通じる踊り場が見える。

 忘れていた右肩の痛みがまたぶりかえす。

 俺は階段の手すりを握ると、それを回転の中心にして、自分の身体を何もない空間に振り出しそのまま飛び降りた。

 着地した時に足首をくじけばそれまでだ。

 しかしそうでもしない限り、追っ手からの距離が稼げない


 踊り場に着地した途端、姿勢を崩して転んだ俺は、そのまま回転し起き上がった。

 柔道の受け身みたいだったが、前の俺ではこんな芸当は出来なかっただろう。

 そのまま出口に向かって走った。

 同時に階段ホールに轟音が数度なり響く。

 俺は自分の顔に銃弾が削りとったコンクリートの破片が当たったような気がしたが、構わずに、低い姿勢で走り続ける。

 暫くすると、船で言う機関室と言うのか、空調やら水回りを賄うブロックに出た。

 有り難い事に、どうやら脚はまだまともに動くようだった。

 だが数十歩走った時点で、俺は何かに蹴躓いて再び転倒してしまった。

 今度は自ら飛び降りた踊り場ではなく「闇の中」へ。

 ・・そう、俺はもう限界だったのだ。



 俺はその闇の中で、自分の背中に暖かい他人の体温を感じた。

 誰かに脚をかけられ、転ばされたまでは覚えているのだが、前後の感覚がとぎれている。

 その際、瞬間的に気を失ったに違いない。

 今は背後から羽交い締めされているのだ。

 目の前の真っ黒な壁の向こうに、微かながらも神代組の連中の怒声が聞こえていた。

「しっ、動かないで静かにして。」

 小さいがはっきりした声が俺の耳元で囁かれる。

「向こうの声が聞こえてるでしょ。彼らはまだ追っている」

 それで充分意味は判った。

「何処に消えやがった。ちきしょう!」

 そんな声が聞こえた後に、目の前の闇が震えてガンガンという大きな音を立てた。

 怒りに任せて手近にある鉄板の壁を蹴りつけているのだろう。

 俺は今、一枚の壁を隔てて、神代組の追っている世界の反対側、つまりの念願の「裏」にいるのだ。

 数分が経過し、俺はようやく闇に慣れてきた目で周囲を見渡した。

 大小様々なパイプが壁際に走っている。

 部屋と言うよりはビル管理用の隠し通路の一部のようだった。

「あんた、、」

 俺は首をねじ曲げて後ろを見る。

「蛇喰にあなたのことを頼まれた人間よ。」

 声の主がようやく俺から身体を離す。

 壁の向こう側の気配もすでに静かになっていた。

「私はマリー」

 マリーという人物が少しだけ微笑みをもらす。

 名前からすると女性の筈なのだが、短く刈り揃えられた頭髪の下にある細面の顔は実に微妙な男女の性別のバランスの上になりたっていた。

「、、助かった、、と言っていいのかな?」

「ええ、多分、。平成十龍城はあなたを拒まない筈だわ。さあ立てる?とりあえず、傷の手当をしなけりゃ。」




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