1日目
7日間、あなたに時間を与えます。
ゆっくり考えてください。
とん、とん、と白い階段を昇る。
家と家に挟まれた狭い階段である。
狭い上に、花の鉢植えが並べてあって、とても邪魔である。
階段の白、周囲の壁の黄色、オレンジ、ピンク、赤…。
様々な色が混じり合い、目に痛い。
思わず握りしめた右手が、くしゃりと音をたてた。
大城 藍
それだけが書かれた、黄ばんだ紙。
まるでそれが大切なもののように、けれど扱いは雑に、彼女は握りしめていた。
階段を昇りきった所には、古くて大きな旅館が建っていた。
鮮やかな色合いで、中華風とも和風ともとれる不思議な外観である。
からり、と引き戸を開けて中に入ると、ひんやりとした空気が肌に触れる。
その時になって初めて、身体が火照っていたことに気づいた。
「ようこそ、おいでくださりました」
不意に声をかけられ、それまで俯きがちだった顔をあげると、綺麗な女性が立っていた。
「お客様、お名前を宿泊帳にお書きください」
開かれた分厚い記録帳と筆を渡される。が、名前を書こうにも書けない。
わからないのだ、自分の名前が。
筆を握り締めたまま動かない彼女を心配して、女将が声を掛けた。
「お客様、どうなさいました?ご不明な点が?」
気遣わしげな声だが、もしここで『名前がわからない』などと口にしたら?
馬鹿だと思われるかもしれない。宿泊を断られるかもしれない。