風に吹かれて 第十七話 『ハコブネ7/7』
ここは、深夜の墓地である。
ヒトダマの灯りを頼りに、一人の男が墓地に現れた。男は、陰陽師らしき衣装を身にまとい、肩には、スコップを担いでいた。
墓地の外れに、石を積んで、墓標とした粗末な墓があった。男は、この墓にやってきた。
男は、墓として積み上げられた石を、一個、また一個と運んでいき、取り除き、石積みの墓石を完全に取り除くと、今度は墓を掘り起こし始めた。土を掘り起こしていくと、それほど深くない場所に、小さな棺桶が姿を現した。その棺おけは、それほど傷んではおらず、棺おけの主が、納められてからそれほどのら時がたっていないことが見て取れた。
男は、棺おけを墓穴から引きずり出し、棺おけのふたをやさしくノックし始めた。
「タロウ、タロウ、そろそろ起きたらどうだ。お前が頼んだとおり、『ハコブネ』が、消えたからこうやって、起こしにかかっているんだ。タロウ、そうやっていつまでも休んでないで、サッサと起きてこい!」
すると、不思議なことに、棺おけの中から、何やら、ゴソゴソという物音が聞こえてきた。ゴソゴソという音は、大きくなり、やがて、ガタガタという音に変わった。小さな棺おけの中で、タロウが、激しく動き、釘で打ち付けられた棺おけのフタを打ち破り、外へ、出ようとしていたのだ。
――ワンワン! ワンワン!
タロウは、棺おけから、外へ飛び出してくると、再び、甦った喜びを表しているのか、あるいは、御主人の丸田肇に対して、次の行動にでることを要求しているのか、飛び跳ねながら、激しく吠えだしたのである。
丸田肇は、袋に詰め込んだ硬貨をタロウの方に突き出した。
「タロウ、随分待たせたな。これから、本当の旅の始まりだ。この金を見ろ! キッチンカーを売り払い、それと、貯金箱を壊して手に入れた金だ。予定より、随分少ない額しか貯金できなかったが、足りない分は、このデブデブで、大きな腹に変わってしまった。バチが当たったのかな? 俺も、店のラーメンを食ってばかりいたことを反省しているよ」
――ワンワン! ワンワン!
「どこへ行くか、聞いているんだな。俺は『ハコブネ』が現れたとき、タロウが棺おけに入って休みたいなんて言い出すものだから、人生に希望をなくしてしまったんだ。だから、修行は、打っちゃつて、こんなラーメン屋を始めたりもしたんだが、今度、ちょっとしたきっかけがあって、人生に光が見えてきた。俺は、その光に向かって、旅を始めることに氏ようと思う」
――ワンワン! ワンワン!
タロウは、丸田肇の言葉に反応して激しく吠えたてた。
「よし、タロウ、お前の考えているとおりだ。しかし、旅を止めて何十年というときが過ぎてしまった。そう、すっかり年を取って、思うとおりには行かなくなったんだ。だから、はじめは、旅になれるためゆっくりと進んでいくことにしようじゃないか。どうだい、俺の考えは?」
――ワンワン! ワンワン!
タロウは、丸田肇に答えるように激しく吠え続けた。




