チラシ 第四話 『神降臨』(注)
「俺、本物のヒーロー。ねぇ、神、降臨しているんだけど……」
「自分がヒーローだって証拠を何かアップ(ロード)していただけないか」
「ヒーローが自分のIDカードさらしたら、そしたら、それ以降商売できなくなるじゃないか。そんなときには、整形ってか? 残念ながら、俺の上司は俺の顔幾つも覚えてられるようにあたま良くないんだよな」
「例えば、ヒーローしか持てないような何かかっこいい武器ないか?」
「ねぇよ、そんなもん。いや、あったぞ。イタチの最後っ屁という毒ガスだ」
「ふざけてんな……」
「……」
「ヒーローって、誰が雇っているんですか。つまり、誰が給料払ってあなたを食わせているのか、それを教えていただけないか。ヒョッとしたら、ナンチャッテ系とか」
「俺の稼ぎで、家族は困った様子はないぞ。俺も金の心配はしたことない」
「出張とかあるのか、出張の手当てとか出るのか」
「出張費とか分けて、考えたことはないな。お前らの世界に行くときには、カードと幾らかの現金も持たせてくれるな。あるいは、その世界で換金性の高いもの……、余り、面白いこといえなくてすまんな。」
「お前らの世界とか、あっちの世界とか、こっちの世界とか、あんた何言ってんの……?」
「あっちとか、こっちというのは、つまり、時空を指している」
「えっ? あなたってひょっとして時空系のヒーローさんですか?」
「ちぇ、口滑らしてしまった。今のはなかったことに」
「たしかに、時空系ヒーローなら、本当にレアで受けるけど、自称時空系のヒーローっていうヤツで、本物のためしがなかったんだよな。ましてや、それを自分から晒すやつってwww」
「だから、なかなかったことに!」
「掲示板で、今なかったことにとか言っても、無意味だよ。何か、あなた本当にヒーローさんか? 何か馬鹿っぽく感じられるんだけど……」
「……」
「年は幾つ」
「十二歳かな」
「十二歳のヒーローって(藁」
「十二で悪いか? 」
「(藁」
「何から何まで一人でやれまちゅか? 坊や!」
「……」
「何だよ、もう逃げるのかよ、坊や!」
「いや、休養で君らの相手できなくなってしまった。また、近いうち降臨すっから、怒るな」
「待ってねぇけど、機会あったらよろしくな」
* *
ここは、○凸大学の『占い研究会』の部室である。中央にはテーブルが置かれ、小さな腰掛けが幾つか雑然とおかれている。部屋の片隅の机には旧式のデスクトップパソコンが事務机の上に置かれ、巨体の男がモニターの席を独占していた。彼は、モニター上にスクロールしていく文字の群れを眺めては、ときおり、何やら書き込みしていた。
机の上には、インスタントラーメンの空き袋と食べかけのインスタントラーメンの乾麺とマグカップが載っている。彼は、乾麺を手にとると、それを生のままかじり、それをかみ砕いて、それをつばと混ぜて、口の中でペースト状になるまでモグモグやった。そして、納得する頃合いで、マグカップを取り上げた。そして、中のお湯で溶いたスープをあおった。それで、胃袋に流し込もうというのだ。何から、何まで豪快なこの男、名前は、野々村一刀という。
「ハハハハ、逃げやがった。くそ野郎!! 馬鹿! 何が御降臨だ! 自分のことに敬語使うなって! なぁ、そうだろう、丸田!」
野々村一刀は、テーブルの方で、腰掛けに座っている丸田肇を見た。
(注)2chで内部告発や機密情報など、通常入手困難な書き込みをしてくれる人が出現すること。