風に吹かれて 第二話 『次郎吉、四天王を語る2/5』
次郎吉は、ネズミとしては、けっして柔なネズミ、というか『ネズミ系人間』ではない。しかし、このところの世の中の様変わりは、『一体なんだい、世の中一体どうなっちゃっているんだ?』とただただ思われる。 次郎吉が、耳にすること、目にすることは、腹立たしいというか、情けないことばかりであるのだ。そのせいか、ずっしりと、重い憂鬱が、最近、彼の心に巣くっているほどなのだ。
次郎吉は、この『すっかり狂ってしまった』世界のお陰で、オマンマにありつけているわけだから、そのことに不平不満を述べ立てるというのも、全くおかしな話である訳なのだが、しかし、この世界、次郎吉にとっては、最低、最悪そのものであった。
ことの始まりは、やはり、あの頃であるのだ。それは、あれほど効果をあげていた懐メロの『ラクリモーサ』のメロディーと復活の呪文の組み合わせ。それによって、一時は、数え切れないほどの人間たちが黄泉の世界から生還していたのが、それがある時期を境に、全く効果を上げなくなってしまったのである。それからは、この世界から人間が、みるみるうちに数を減らしていったのだ。というのも、一つには、『お城』が『時空交差点』へと膨大な数の兵士を送り込んでいたのだが、そこでの戦死者はもはや永遠に失われ、昔のように蘇ることはなくなってしまったためである。
やがてこの世界は、ヴァンパイアや動物系人間以外は、少なくともこの地域からは完全に死滅して仕舞うのではないかと、本気で心配されているのだ。
かつては、巡礼街道にあふれていた若者の巡礼者たちの姿は、今では全く見かけなくなってしまった。それというのも、ヴァンパイアによる人間狩りも頻繁に行われ、巡礼の若者たちがその標的となりがちであったので、若者たち、特に、若き娘たちは、一か所に集められ、厳重な保護の元に置かれることになっていたのだ。
そこで、町にあふれていたのは,ゼーリック・ネズミ様の子孫たちの『ネズミ系人間』と呼ばれるものたちである。彼らは、まさに、ネズミ算的増加を見せており、しかも、彼らは、何と、ヴァンパイアの血液にも免疫を有していた。だから、この世界の覇者は、ヴァンパイアであるか、『ネズミ系人間』ということになるかもしれない。
ところで、次郎吉というネズミも『ネズミ系人間』の一人である。ゼーリック・ネズミ様は、自分の子供たちのために、金を使うのが死ぬほど嫌いだったので、『ネズミ系人間』は、貧しい暮らしをしていた。そして、『ネズミ系人間』は、食料として、この世界に出没するようになった他の動物系人間、化け物、怪物の類にも狙いをつけられていた。
そういう事情であるわけなのだから、次郎吉の『鬱』というのは、全く納得のいく話なのである。