チラシ 第二十一話 ドラゴン『ピッチ・ブラック』3/3
――しまった! 罠だ!
三人は、屋敷に入ったときそう思った。しかし、既に手遅れであった。
(ピノキオの最後の報告書より)
* *
漆黒の館は煌々(こうこう)とした明かりがともっていた。
扉をノックすると、召し使いが現れた。深手を負ったドラゴンについて召し使いにたずねると、今は、舞踏会の最中なので、ここの主人は、重要な客たちとの対応で手が放せないといった。そこで、ピノキオが、時空捜査官の身分証と捜査令状を召し使いにホノグラム表示してみせた。
召し使いは、しぶしぶ主人のところに報告にいき、戻ってきた。
「客間で待っていてくれ。ドラゴンについては、手慣れた猟師が協力するように手配するので、主人も挨拶に参るので、詳しい話は主人から、直接聞いてくれ」
そして、召し使いが、客間まで、案内してくれたとき、ホールからは、華やかな舞踏会の音楽、人々の談笑が漏れ聞こえてきていた。
ホールには、シャンパンの入ったグラスがたくさん運び込まれるところであった。
乾杯のたび、シャンパングラスの奏でる音、オーケストラの奏でる悲しげなワルツは、夢のような優雅さがあった。
紳士淑女の香水の香り、アルコールの香り。
それは、それは、本格的な舞踏会であったのか。
* *
三人が、客間で待っていると、一人の酔客が、部屋を間違ったのか、入ってきた。彼は、酔っ払い、そして、同時に、非常に憤慨していた。
というのも、この酔客が言うところのとある三人の馬鹿者のせいで、舞踏会が中止になってしまったからであった。この酔客は、部屋に入ると舞踏会にはとても似付かわしくない目の前の三人の衣装に気づいた。
「ゼーリック家のペット、ドラゴン『ピッチブラック』に大けがさしたのは、おまえたちか? ゼーリック・ネズミ様はお前たちを生きてここから帰さないだろう! ざまーみろ!」
この酔客の話は、川上麗とピノキオを驚かした。
「ここが、ゼーリック・ネズミの屋敷ってやつか!」
川上麗とピノキオは、同時に声をあげたのだが、野々村一刀は、乗れなかった。野々村は、有名なゼーリック・ネズミ様とかいうやつのことを知らなかったからである。
それと気づいて、ピノキオは、野々村にゼーリック・ネズミ様のことを説明した。
「ゼーリック・ネズミ様というのは、この世界を裏切ったケチな野郎で、今も、あの世界から依頼を受けてスパイ活動をやっている。そのおかげで、巨万の富を手にいれたと言われている」
「生まれや育ちについては、詳しい情報は、得られていない。ただ、あるときゼーリックは、時の狭間に迷い込んだ。その折り、キャラバンを組ながら、時空を旅する商人たち、命を助けてもらった。その対価として、自分の人間の皮を差し出すことになったという。そして、本当の意味で丸裸にされてしまったゼーリックは、そばをたまたま通りかかった砂漠ネズミから、その生皮を剥ぎ取り、それを被って、この世界に舞い戻ってきたという。だから、ゼーリックというのは、貧相なネズミの姿をしているという話だ!」
野々村一刀は、やっと納得がいったようだ。
「思い出したぞ。ゼーリック・ネズミ様というのは、歴史に名を残している『お調子者のゼーリック』のことか」
川上麗は、そうだとうなずいた。ピノキオの目も、ピッピと点滅した。
「しかし、その世紀のマヌケ野郎にここであえるとは、夢にも思わなかったな?」
野々村一刀は、感慨深げにいった。しかし、野々村のこの言葉は酔客を怒らせてしまった。
「お前たち、ここゼーリック様のお屋敷でゼーリック・ネズミ様の悪口を言うとは、本当にけしからん奴らだ!よし、お前たちのことは、ゼーリック・ネズミ様に御忠臣してやるからな、覚えていろ」
酔客は、そういうと客間を出て行った。
間もなく、ゼーリック・ネズミ様の私兵たちが、客間に押しかけてきた。そして、三人は、捕らえられて牢獄へ入れられた。
牢獄には、『歓迎! ピノキオ御一行様』の看板がかかっていた。たしかに、それをみて、『罠であった』と、気づいても、後の祭りである。




