チラシ 第十六話『起動』
――私は、迷子の魂、ゼーリック。
――孤独な私の毎日には、両親の姿も、兄弟の姿も、友の姿も、もちろん、恋人の姿もない。
――閉ざされた私の心、それが、唯一の話し相手。
――私は、背中を丸めて、誰かが打ち捨てた巣穴の中。
――私のふるさとを捜して、誰かが打ち捨てた巣穴をめぐり、時空をさまよい歩くこともある。というのも、私のふるさとは、私を、癒やしてくれるはずだから。それが、本当の私のふるさとであるなら。
――なんだか、歌いたくなってきた。
『私は、根無し草。どこで生まれたのか、ここにたどり着いたのか、次第は私には見えないが、やかて、風が教えてくれる。私は、風と旅する根無し草……』
――そう、俺は、思い出したぞ。ほんのチョッピリの間、わすれていたこと。
――もうまもなく、時が満ち、私に、新たな生贄が捧げられるはず。私は、目は見えないが、未来は、見通せる。
――それは、人形の形をしており、しかし、人の心を持っている。
――人びとは、人形の心を邪魔に感じ、消そうとするが、人形に深く焼き付けられた心を消すことは、もはや不可能である。
――私は、人の心をたくさん食らってきたが、今は、この人形の心が届けられるのか、待ち遠しい。
* *
ここは、森の漆黒(漆黒)のトンネル。トンネルは、樹木の蔦や葉っぱによって分厚く、あみこまれできている壁せいで、日中の日差しもほとんど届くことはない。
ところで、森に響く、この密やかな、つぶやき声の主をもとむれば、それは、一個の小動物であることが知られる。
この小動物は、時おり、夢から目覚めると、聴き耳を立て、やがて訪れるであろう訪問者との距離を測る。しかし、訪問者が、まだ森には到達しておらぬことを知り、食事の時間まで、まだ暇のあることを知る。そこで、この小動物は、再び瞼を閉じる。
すると、まどろみの中、小動物の瞼の裏には、生贄の姿が見えてきた。ピノキオと呼ばれる小型ロボットが、見えてくるのであった。
* *
ちょうど、その頃のことである。
ここは、文壇★倶楽部『K』、ママさんが、渋い顔をして、一人の訪問客のことを眺めていた。それは、どう見てもこの場には、若すぎて不似合いな少年であった。
「あなたが、この宇宙で二番目に優秀な時空捜査官さんだそうだね。信頼できる時空捜査官のコバルトさんという方からの推薦で、派遣されたそうね。凄い実績をたくさん挙げた優秀な時空捜査官だと、コバルトさんから紹介を受けているけど、お年は、幾つかな?」
「間もなく、十二歳」
「そうか、十二歳か。世の中には、十二歳の実績豊富な時空捜査官と言うのが存在しているのね。うーん。十二歳には、ちょっと大変な仕事かもしれないけど、もう、他を当たっている余裕はないから、あなたにお任せするわ」
ママさんは、 あらかじめ用意してあった小さなカードをピノキオの喉元にあるスロットに差し込んだ。
ピノキオの時空捜査官モードが、起動した。