チラシ 第十三話 『戒厳令下のラーメン屋さん3/3』
警察官と、入れ替わるように、ラーメン屋に、新しい客が入ってきた。
この客は、待ち合わせをしているらしく、入り口でいったん立ち止まると、中の客を一人一人、チェックしていった。
すると、待ち合わせの相手らしい人物が、その男に、手を振って、席を取っていることを示す。彼は、例の○凹大学『占い研究会』の丸田肇であった。
肇が、手を振っていた相手は、彼の研究会の先輩である、野々村一刀であった。野々村一刀は、『お城』の『占い大会』に、エントリーしたら、思わぬ臨時収入が入ったため一文無しの肇に何かおごってあげようと思いついたので、ここのラーメン屋で待ち合わせををしたのであった。
「注文しといてくれた?」
野々村一刀は、ランチ限定の特製ラーメンを食べ損なうのを、とても恐れていた。
「もちろん、もうそろそろ用意ができるんじゃないかなぁ? しかし、俺の分は、食べてしまったよ」
思いのほか待たされたことを、肇は、言外にほのめかした。
「だったら、おごるからギョーザでも、食べればいいじゃないか」
「……」
「参加の申し込みにいったら、感謝されて、去年の俺の占いが評価され、奨励金の前渡し分が増額されていた。だから、今日は、少しばかり太っ腹なのさ」
そして、野々村一刀は、去年、参加者が行った占い、神託がまとめられて、パンフレットをカバンの中から取り出した。
二人は、パンフレットのページをめくりながら、『占い大会』の最近の傾向について話し始めた。
そんな二人の方を、じっと伺っている女子がいた。
彼女は、スポーティーなスラックス姿でありながら、全体として、ゴージャスで、セレブリティのある着こなしを身につけているようであった。しかも、一目瞭然の美しい顔かたちの持ち主であった。
野々村一刀と丸田肇は、彼女の姿を認識した。
すると、男臭い、武骨な趣のラーメン屋の店内は、魅惑の花園にたちまちにして、変貌を遂げたのであった。
彼女は、自分の丼を抱えて、図々(ずうずう)しくも、大胆にも、二人の隣の席に移動してきたのだ。
「私、川上麗、成教大学、カルト研究会の代表をやらしてもらっています。あなた方のことは、良く知っているので、あなた方の方からの自己紹介は、必要ありません」
明せきで、かつ快活な女子に、突然、話しかけられるというようなことは、肇と野々村にとっては、かってない体験であった。二人は、どぎまぎした。
彼らが、日頃話をしている女子は、占いオタクという変わった属性を、他の面でも悪い意味で、女子という超えたある意味、強者ばかりであったのだ。
ところで、川上麗は、非常に、率直な女子であるらしい。
「このラーメン屋で、どんなすばらしい王子様との出会いが待っているのかしらと期待してきたのに……。オタク丸出しのと、時代錯誤なのがいて、本当にガックリきちゃった」
川上麗は、最初から、きつい毒ガスをの賜ったのであったのだ。
本当に、遠慮という物を知らない女子である。そう悪し様な言われると、肇と野々村は、かえって、リラックスできた。
「ところで、あなたたちは、『運命』の予言を信じます」
「何それ、『運命』って?」
「私のいっている予言、それは、夜が明けかかった頃、私に起こった不思議な出来事の話。とんでもない霊感が私に降って湧いたって話だ。それは、『今日お昼過ぎに、ドコソコのラーメン屋さんに行きなさーい。そこで、そこで、あなたをホンモノの占い師、陰陽師に変える運命、出会いが、待っている』というお告げの話なのです。そこで、私は夢のお告げに従い、今、こうやってあなた方とお話ししているのです」
――川上麗とかいう女子の話は、チンプンカンプンで、訳が分からない。しかし、こんな可愛いい娘と運命共同体だなんて、素敵じゃないか!!
というふうに、つまり、この川上麗の話を聞いて、丸田肇と野々村一刀は、同じことを思った。というか、ノリノリの気分であった。
――俺たち、いや、オレの運命は、実は、実はこんなにすばらしく輝いていたのか!
* *
そんなふうに三人が盛り上がっていると、先ほど、このラーメン屋に現れた警察官が、五人の警察官を引き連れて戻ってきた。その中の先ほどの警察官が、肇ら三人に令状を差し出した。
「君たちは、川上麗、野々村一刀、丸田肇の三名だね。君たちに、この令状が出ている」
川上麗は、それを見て、『自分のクルマが駐車違反にでもなったのかしら? お店の駐車場にキチンと止めていたはずなのに』と思った。
野々村一刀は、それが一種の逮捕状であることは、認識できた。『しかし、それにしても真っ赤な逮捕状って聞いたことないな』と、思った。
丸田肇は、その令状の赤に閃く物を感じた。
――何だ何だ、この令状とやらからは、レアな匂いがプンプンしてくるぞ。何だっけな? 何だっけなー! この真っ赤な令状の正体。そうだ、わかった! こ、これは『銃殺命令書』だーぁぁ!
『えっ』と、三人は、互に顔を見合った。
そして、三人は、ワァーと絶叫すると、その場に倒れ込んでしまった。




