冬眠
自転車置き場に、あの人に手向けられた花が置いてある。
「田村、お前な。毎日ありがとうな」
「…いいえ。私、この場所が好きですから」
「そうか…ならばお礼に良いものをやろう」
先生が包みから出したのは赤いマフラーだった。
「これ、彼女が付けてたものだから…」
家に帰り、鏡で自分の姿を良く見てみる。
「今日、家庭訪問があるわよ」
母親が後ろから抱きついて来てくれた。
「私、先生に伝えたい事があるの」
「…何…?」
「あの人、甘い物は好きかしら?」
母親は台所に立ち、夕飯の支度をし始めた。
「一緒に食べない?お菓子」
「ううん。いらない」
その時、呼び鈴が鳴り先生が来たことを知らせた。
「沢山、生徒がいるから迷いそうになったよ」
母親は先生の嘘に気付かない。
「家庭訪問は初めてなので、少し緊張してます…」
「まぁ…どうぞ」
私は気が付いた、先生が何でもできる訳じゃ無いことに。
他の人に頼っているのに、どうしても隠さなければいけない過去があるから。
嫌気がさしてしまったのだな。
「では、また今度」
先生は去って行った、赤いマフラーだけ残して
「明日は晴れるかしら、今日はどうも曇り空で嫌よね」
私の彼氏であるはずの奴は、
「この花、誰がいけたのかなぁ」
「私の見立てよ」
後ろを振り向くと、田村のかーちゃんが立っていた。
「はい、寒そうね。赤いマフラーよ」