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魔法世界の奴隷と主人  作者: 小山 優
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第三章・前 腐れ縁

 夜。風と雨が窓に打ち付ける。

 ゴウゴウビュービューと、音が屋敷の外を駆けずり回っていた。

「凄い雨…」

 少女は、畳んだ洗濯物を抱えたまま、廊下で窓を見て呟く。

 彼女が奴隷として買われてから二週間が経った。

 少しずつ生活にも慣れてきており、終わった引っ越し作業は書庫の整理へと変わった。

――部屋干し嫌いだから、早く止んでほしいな…

 愚痴を思いつつ、洗濯物を魔法使いの部屋に届け、自室に戻る。

――…こっちも終わらせないと。

 書斎机に置かれていたのは、何枚かの書類。幾つも数字が並んでいる。

――いきなり、『計算して』と言われたけど…。

 そう言われて書類を渡されたのが昨日の夜。なぜ、と尋ねて返ってきた答えは、

『試験的に、ね』

 答えになってない。やっぱりバカなんじゃなかろうか。

――そこまで苦じゃないからやるけど…。

 椅子に座り、貰った計算用紙にひっ算をしていく。多くても五桁だ、難しくはない。



――リン。

 呼び鈴がなったのは、ちょうど最後の計算をし終えた頃。

 呼び鈴、と云っても、玄関に付けられたベルを引くと、屋敷中に張られた糸が連動し、その先の鈴を鳴らすような簡単なものだ。

――こんな時間、こんな天気に来客か。誰だろう。

 自室を出て玄関に向かう。

――麓の人は昼に来たし、学院からの来客にしては時間が遅いし…。

 これまでにも何人かは客が来ていた。例えば、麓の村から連絡や引っ越し祝いをしに村人が来たり、学院の研究員が「午前から講義だ早く起きろ!」と言いに来たり。

――今度は何だろ。

 そうこうしているうちに玄関にたどり着いた。

 文句じゃなきゃいいけど、と思いつつ扉を開けた。

 そこには、一人の女性が立っていた。

 薄い紫を基調としたタイトドレス。大きな胸の谷間や白くて長い足を派手に露出させているが、顔は大きな三角帽に遮られて見えない。一見すると物語に出てくる魔女のようだ。しかし、まだまだ若い背格好だし、雨で完全にずぶ濡れになっている。

 どちら様、と言いかけて、

「うわぁぁあん! 箒なくしちゃったよぉ!」

 思いっきり抱き付かれた。というより抱き締められた。

――え、何ちょっと…。

 顔が相手の胸にうずめられ、柔らかい感触が頬を伝う。

「こんな日に飛ぶんじゃなかったぁ~!」

 女性はブンブンとこちらの体を振り回す。ただし顔は依然として胸に埋めながら。

――苦じい…。

 息ができない。胸がでかいとこんなことできるのか。どこの殺し屋だ。

 助けて死ぬ、と谷間から切れ切れに呟いて、

「あれ、なんか小さい…?」

やっと気付いてくれた。



「いやあ、まさか召し使いの女の子がいるなんて思わなかったよ~」

 応接室。綿の服に着替えた、元ドレスの美女は、タオルで頭を拭きながらソファに座る。

「つけ加えるなら、クラスメイトがちっちゃい奴隷ちゃんを躾てるような変態やってるとは思わなかったな~」

「…あることないこと言ってるんじゃない」

 向かいに座った魔法使いは溜め息混じりに返答する。

「えっとあの、こちらはどなたでしょうか?」

 私は恐る恐る、といった調子で、魔法使いの後ろに控えつつ尋ねる。

「ハイルデガルド。ハイルディでいいよ」

 ハイルディ、と言った女性はニコニコと手を振る。

「俺のキャンパス時代のクラスメイトだよ。今はドイツ在住で、種族的には」

「魔女、だね。そこそこ高位だから気を付けてね~」

 魔女、という言葉に首を捻る。

「それは、職業的に大成した、魔法が使える女性、ということで宜しいのでしょうか?」

 聞くと、二人ともが唖然とする。

「…偏見の目とかで見られるのはよくあるけど、知らない奴にははじめて会ったかも、私」

 呆れたような、しかし嬉しそうな笑みをハイルディは浮かべる。

「血統的には人とエルフの間になるんだけど、それが千年ぐらい前に種族として定着して、独自進化したみたいなもの。種族の魔力は、七族よりは大きいわよ?」

 へえ、としか言いようがない。そこまでの興味はないのだし。

「――で、私たちの関係性はそれだけじゃないよねぇ?」

「…それだけだったら良かったのにな」

 ハイルディが意地悪そうな笑顔を浮かべ、彼が溜め息をつく様子にまた首を捻る。

「元クラスメイトの他にもなにかあるのですか?」

 ふふふ、と不適な笑みが魔女に浮かび、

「元カレで元カノみたいな~?」

「ッ!?」

「…」

 思わず目を剥いた。対称的に、魔法使いはまた溜め息だ。

「それはそれは熱い関係で御座いましたよねぇ?」

「お前が自然発火してただけ」

 冷たーい、とハイルディはふざけた声で言う。

――こういうのがタイプなのか。

 胸が大きくて背が高く、軽い性格でどことなく悪戯っぽい――どこまでも自分と正反対。

――なんで私を買ったんだこの人。

 やっぱりバカじゃなかろうか、と思い、少し落ち込む(・・・・)。何に? 何だろう。

 視線を二人に戻す。世話話に入っている。

 別れた相手と関係が良好、というのも珍しい話だが、どちらも根に持つ性格じゃないのだろう。

「それでは、私はこれで失礼致します」

 元々の役割だった案内とタオル渡しは済んだ、と部屋を出ようとする。これ以上落ち込む(・・・・)必要性はない。

「あ、待って。えっと、女奴隷ちゃん?」

 ハイルディに呼び止められた。

「何でしょうか?」

「私、ていうか魔女の趣味は昔からプロファイリングって決まっててね。ちょっと顔見せてくれる?」

 いいですけど、と魔女の方に向き直る。

 ソファから立った彼女は、私の前まで来て身を屈める。その動作で胸が揺れた。悔しい。

「種族は、エルフに獣人が少し…。肌は綺麗だけど、ちょっとストレス過敏?」

 ハイルディは私の顔をベタベタさわりながら独り言を呟く。端から見ると変な人だ。

「んー…魔力はぁ…」

 そこでハイルディは一度言葉を止める。

「ねぇ、召し使いちゃん。キスはしたことある? 誰? いつ?」

「なッ…!」

 いきなり何を聞いてきてるんだこの人は。

「えっと…その、五才の時に…」

「あ、家族で済ましちゃったタイプ?」

 図星だ。

「…父と、ですね」

「そ。なら良かった(・・・・)

 は?、と聞く暇もなかった。

「ん」

――唇がつけられた。


――!!??

 魔女の唇が私の唇と触れる。舌が上唇と下唇を押し分けて口内に侵入し、舌根をまさぐられた。

 唾が妖艶な音を立てて吸い取られ、思考は白く、表情は赤くなる。

「ぷ…はッ…」

 数秒の行為のあと、離れた唇の代わりに艶めかしい魔女の吐息が優しく私の鼻をくすぐった。

「キスの味はまあまあ、っと」

 何事もなく立ち上がった魔女は、早々とソファに戻っていく。

――この人は…!!

 一体全体何をしてくれてるんだ。

 目眩がするような混乱を覚えて、私は部屋を出ることしか出来なかった。

R-15指定入れました。なぜかは言わずもがな…

シロタマ以外の固有名詞キャラがようやく登場。つーかシロタマはほとんどあだ名だから、今んとこ唯一。

なんで名前があるかと言われれば、他の作品に登場しているからです。ワールドシェアリングって楽しいね。

ちなみに、獣人の耳は、頭の上に出ているタイプではなく、人間の耳の位置に獣耳がついている感じです。女奴隷さんの場合は、エルフの尖り耳の先っちょに茶色の毛が少し生えています。

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