場外乱闘③ サテライトアタックウィッチ
明け方の空に漂う人影が一つ。
「んー、竜のカップルは第一目標を完遂したっぽいね」
ハイルディは、欠伸をしつつ呟く。
「じゃあまあ、次は私の出番か」
リスティナとファフナーのコンビが竜巻の魔法を繰り出してから数分の後、ハイルディが待機していた崖左側では幾つか変化が起こっていた。
竜巻によって叩き起こされた敵の雑兵が、完全にまとまりを失って逃げてきたこと。
「ゴアアアアアァァァァァァ!!」
なんとか対応してきた盗賊団の竜兵が、中央同様空に上がってきたこと。
そして、
『――全てを打ち抜く祈りを捧げよう――』
ハイルディが魔法の詠唱を始めたこと。
ハイルディ、魔女にとっての魔法とは、自らと天上に捧ぐ讃美歌、つまり詩であり、思いだ。喜び、悲しみ、怒り、憎しみ。いつか存在した人々の思いを、旋律と歌詞に乗せて天へと届ける鎮魂歌。
箒に跨がった彼女は、静かに、口ずさむようにその歌を繋げる。
『――星降る夜に憎しみを込めて――』
旋律が生まれると同時に、ハイルディの周りに光の文字が浮かび始める。歌で生み出された魔法陣だ。
それは、かつて迫害を受けた魔女達が、神と世界に向けて歌った呪詛の歌。
『――だから、私は虐殺と暴虐を尽くそう――』
讃えてもいないし、美しくもない歌。
『――死に尽くせ愚か者共、と――』
だがしかし、それは、少なくとも魔女たちにとって救いとも取れる歌だった。
浮かんだ文字の魔法陣は、ゆっくりと円形に並び、ハイルディの周りを囲むように回っている。
『――落ちよ、星屑――』
そして、その文字の群が一瞬の内に弾け飛び、魔法が発動する。
しかし、何も起こらない。朝の藍色の空には、地上から響く盗賊達の逃げ惑う声とドラゴンの雄叫びが遠く小さく聞こえるだけ。
ハイルディはゆっくりと顔をあげ、自分よりもはるか上空、まだ暗い空を見上げた。
キラン、と朝の天空に一粒の光が現れる。
鳥か、星か。答えは――
「隕石」
ボソリ、とハイルディの唇からこぼれた。
光が、数瞬の内に大きく強くなる。
それは、直径数ミリ。衛星軌道上から落下してきた金属の塊だった。
「魔力で生み出した力の極小ベクトルを、大気圏外に浮かんでるゴミか超小惑星に付加。重力と遠心力の微妙なバランスで浮かんでいたそいつは加速度的に落下スピードを上げて地上に落ちてくる」
『お菓子の家』にあった本に載っていた、ややオーバーテクノロジーな魔法だ。本来は、たった一個の隕石ではなく、数百数千の隕石を落とし、敵国を完膚無きまでに消し去るときに使う。
逃げ惑う雑兵にはオーバースペックで、本来の用法からは物足りない魔法を選んだ理由は、
『――爆ぜろ、星屑――』
やや強引に次の歌を繋いだ。自分のオリジナルだ。
その語句が光の文字へと変化すると、数キロ先にまで迫っていた隕石が爆散した。否、正しくは、無数の光の筋に別れた。
「大気圏外からの位置エネルギーを吸収した隕石を、一度ただのエネルギーに変換。そしてそれを魔力的なエネルギー弾へと変える」
所々核分裂や核融合の技術が混じっていて危険なのは内緒だ。
何百もの光の筋――死をもたらす魔法の矢が地上へと降り注ぐ。自分の持ち場以外には落ちないようには調節した。
この魔法であれば、ただ殺戮用の魔法を使うより幾つも手間を掛けている分、魔力の消費が極端に少なく済む。そこまでして魔力を節約する理由は、
「私、明日別の戦場の予約入ってるんだよね」
幼馴染の恋と、一人の女の子の命は大事だが、それとこれとは話が別だ。次の仕事に支障が出るほど本気を出すものではない。支障が出たら怖い。魔女会の総長が怖い。
空中で分裂したエネルギー弾たちが丁度地上へと到着し、悲鳴も出させず盗賊達の命を奪う。飛んでいたドラゴンも例外ではない。
「八割壊滅ってとこかな」
エネルギー弾の直撃を受けた敵は、数センチの肉片になって離散し、その周囲数メートルにいた人間は体の三分の一程度とおさらばして息絶える。
残った者も戦力としての体を成しておらず、問題にはならない。
「粗方これで仕事は終わりかな。あと残っているのは…」
ハイルディはそう呟くと、見下ろしていた視線を平行に戻した。
「なかなか、乗り手が上手いのか、竜の育て方がいいのか」
そこには、全身が血だらけになりながらもなんとか飛行を続ける竜とその乗り手が一組。
隕石砲は、別に狙いをつけて撃った訳ではない。避けれずとも致命傷を防ぐことはできる。だが、並大抵のことではない。
「強さは、国家竜兵部隊の小隊長中隊長レベルぐらいかな」
よっこらせ、とハイルディは箒から降り、空中に立つ。別に飛行に箒が要るわけじゃない。ただの腰掛けだ。
なるほど、かなり、とまではいかずとも相手は強い。まともにやりあえば手こずる程度に。
無用になった箒を、空中に開けた異空間収納に放り込み、仁王立ちの体勢になる。
ただひとつ、決定的な要素をあげるとすれば、
「私がまともじゃない」
踵落としを食らわせた。
予備動作も、魔力光も、描写もない一撃。筋力強化により高められた蹴りが、竜の背を穿った。
超高速移動。人間の目が観測できるフレーム毎秒では認識できない速度で繰り出された一撃を受け、ドラゴンは急速落下する。
「大丈夫。君らの運と強さと執念に敬意を表して本気は出さなかった。ドラゴンともども全治数か月ぐらいの怪我で済むと思う」
ちょっと加減を間違っていたら死ぬかもしれないが、その時はそういう運命だったんだろう。あるいは自分が彼らを過大評価していたか、だ。
「さて、」
ドラゴンが地面に激突する音を聞き、次は、と崖の方にもう一度顔を向けた。
「まだ、だよね。これで戦闘が終わりだったら拍子抜けだよ」
一番魔力のでかい反応が、崖から自分の方に向かってきているのがわかる。
「妖精の子がいってた、一騎当千級の魔法使いかな」
魔力量から察するに『末裔』だろうか。
「私が、一番強い奴の相手をするのかー。奥の手とか、相手が隠してるといいんだけど」
最近雑魚ばかりを相手にしていて、歯応えのある敵と戦っていない。
「さ、メインディッシュといこうよ」
よっしゃ今回は早めに更新できたで!




