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魔法世界の奴隷と主人  作者: 小山 優
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場外乱闘① 苦労人

 それは、魔法使い達が作戦会議をしていたのとほぼ同刻の出来事だった。

「バカかてめぇはァ!!」

 盗賊団の洞窟の中。やや清潔な雰囲気を持つ金髪の男が、別の男を殴り飛ばしていた。。

「と、頭領! 俺は前の失敗を取り戻そうとしてっ…!」

「悪化させてんだよてめえは! このクズが!」

 殴られた方は、少々汚い格好をした男。茶髪のようだが、薄汚れて土埃で白く濁った髪をしていた。

 頭領と呼ばれた金髪の男は、舌打ちを何度かした後、爪を噛む。

――どうすんだこれから。

 この二人が話していたのは、つい先日攫ってきた『末裔』の少女についてだった。

 半年ほど前、盗賊団の資金援助を行っている改派領主から、ある村を襲い、子供を攫ってくることを依頼された。

 対象の戦力の不透明さ、やることの非人道的な面、領主に対する単純な嫌悪感から、頭領としては依頼を受けずにいた。

 だが、この茶髪の男。盗賊団の中で一部隊を預かる男は、金に釣られて依頼を承諾。領主が別に雇った傭兵とともに村を襲った。

 結果は、部隊の半分が死に、その傭兵がいなければ残り半分も死んでいただろうという被害の上、攫えた子供はいないという最悪のものだった。

 この時点で頭領は激怒し、部隊長に激怒した。

 しかし、この時点ではただの任務失敗であり、全体的な影響としては微々たるものであった。

 だが、この一週間。頭領が遠方の組織との会合に出向いている間に状況は様変わりしていた。

 かねてから、部隊長は汚名返上のために頼まれてもいないのに『末裔』の村の残党の行方を探っていた。だが、村民のほとんどは既に別の有力組織の保護下に入るか、完全に行方をくらませており、たかが部隊長がどうにか出来るほどのものではなかった。

 ただ、一人。たった一人だけ。どの組織の庇護下にも入らず、居場所がはっきりしている少女がいた。

 情報の仕入先は、北ドイツを縄張りとしていた人攫い兼移民斡旋業者。身体的特徴が『末裔』の継承候補者と完全に一致していた。

 バチカンの奴隷商店に移送したという情報を手に入れ、あとはその商店の小間使いが呑みに出かけたところに居合わせれば、断片的にでもいくらか情報は手に入る。最後は時間をかけるだけ。見つけるのに半年掛けたというのを長いと見るか短いと見るかは人それぞれだ。

 諸々の都合がついた一週間ほど前に何人かを率いて、少女がいるという屋敷に向かった。竜は近くの森に潜ませておいた。誰かに見られるかもしれないという心配はあったが、結果論として見られなかったのでいい。

 少女の姿は確認できたが、行動パターンや近くにいる大人の様子が掴めない。白昼堂々、公衆の面前で誘拐するわけにもいかないため、麓の村で情報収集を行った。

 集めた情報によると、その少女を買った主人というのは魔法学院のセンセーで、昼間は家にはいないらしい。他にも傭兵やら魔女やらが出入りしているようだが、どうやらここんとこはいないらしい。

 昼に突入は流石にまずいぞ、と仲間たちで話し合っていたが、見たところ、現在は少女以外に人影がない。ならば作戦決行だ。



 紆余曲折の末、なんとか少女を確保。この拠点まで移送し、そこに頭領が改派有力者との会合から相棒のドラゴンに乗って帰ってきて今に至る。

「お前は…どれだけのことをしたのかわかってんのかァ!?」

「お、俺は別に…!」

 現在、頭領が危惧していることは三つ。

 少女を買った主人の手勢による襲撃。

 バチカンやフランスといった改派の上部組織からの制裁。

 『末裔』のサロンや魔女会からの圧力。

 一つ目は言わずもがな。その主人とやらどの程度の財力・権力を持っているかは知らないが、自力で少女の捜索やこの拠点の襲撃を企てることは確かだろう。アシがどこまでついているかは知らないが、この部隊長がヘマをやって追跡させていることは十分にありえる。

 二つ目。その主人が魔法学院所属ということは、少なくとも少女という『末裔』はバチカンの陣営に近いところ、あるいはその中に組み込まれている。同じ改派とはいえ、たかが傭兵崩れの盗賊団がその大切な駒を奪っていいはずがない。大国からの何かしらの制裁が及ぶのは想像に難しくない。バチカンが関わるとなると、アフリカの竜人連合やバルカンの諸都市国家まで絡んでくることになり、恐ろしいことになる。

 三つ目。魔女会、サロンといった大きな組織は、『末裔』の移動に敏感だ。いや、この際、どこかの傭兵団――例えば最大勢力のヴァレンシュタインとか――が関与してくる可能性もある。

 そして、一番恐ろしいのは、

――…全部の組織が一緒に襲ってくること。

 魔女、ドラゴン、竜人。さらに傭兵団の一部隊と、都市国家か何かに属する国賓級の傭兵や戦士。

 一つでも敵に回すと厄介なものが、いっしょくたにやってくる。

――…ほぼ確実だ。

 まとめてくる可能性は低いが、時間差をつけて必ず全部の懸案事項が起こるだろう。

――…終わりだな。

 それに、自分の盗賊団が耐えられるわけがない。烏合の衆が好き勝手集まっただけの集団だ。


――…クソッ。

 いつから、こんなことになったのだろうか。

 この頭領は、かつて小さな騎士団の団長だった。

 ドイツ中部の、僅かな領地の小貴族。そこに仕える若き騎士の一人だった。

 税収も大して多くはなく、騎士団というよりは自警団。強くはあったが、財も何もない。

 そんな、内乱が始まる前のドイツでは至る所にあった領邦の一つだった。

 だが、内乱の発生とともに、真っ先に犠牲になったのはそのような土地だった。

 しかも悪かったことは、彼が守っていた領地には、何人かの『末裔』が暮らしていたことだった。

 『末裔』といっても、系譜でいえば端の端にあたる人間だった。戦闘訓練もほとんど受けていない。時折、近くの村に呼ばれ、作業に魔力を提供する程度であった。

 だが、その『末裔』を獲得しようと、複数勢力の軍が領地を襲い、領民のほとんどが死んだ。

 騎士団と『末裔』も、混乱の中で多くが行方知れずとなり、彼の手元に残ったのは何人かの部下と、一人生き残った『末裔』の少年だけ。

 彼らは乱世を生き残るために傭兵として行動を始めた。さすが元騎士団とあれば、そこらの傭兵とは格が違う。見る見るうちに名をあげていった。

 だが、彼らには降伏してきた者をそのまま殺す非情さはなかったし、飢えた人間を放っておく覚悟はなかった。

 降ってきた敵を受け入れ、新参者の入団を許可し、弱小傭兵団を庇護下に入れ…やがて、傭兵団として出発したはずの彼らは、盗賊団と呼ばれるようになっていた。

 頭領は優秀だったが、一個師団ほどに膨れ上がった組織を末端まで教育できるほど器用ではなかったし、カリスマでもなかった。

 彼の手の届かない末端が暴走を始めると、健全な組織運営は完全に破綻した。

 彼にできたことは、自分たちの陣営をはっきりとさせ、なんとかその暴走に一定の方向を持たせ、リスクを小さくしていくことだった。


 だが、ここにおいて彼の努力は水の泡と化した。

――…だが、これで良かったのかもしれない。

 もともといた、騎士団時代の自分の部下も、今残っているのは三人程度だ。多くは組織の在り方に嫌気がさして離れていき、何人かは戦場に散った。自分がまだ頭領をやっているのも、ここまで大きくしてしまい、暴走を止められなかった罪滅ぼしだ。それがここで崩壊するなら、十分に役目は果たしたと考える。

 ふう、と小さく息を吐く。

――逃げるか。

「と、頭領…!」

 一つの決心をした頭領へ懇願するように、部隊長が呟いた。

――まだいたのかこいつ。

 心の中で舌打ちをし、眉を歪ませて睨みを返す。

「失せろ」

「…え?」

「てめぇの顔なんざ今は見たくねぇってっつってんだ。二度と顔を見せるな」

 まだ何か言おうとした部隊長をもう一度睨むと、凄まれたように部隊長は後ずさり、洞窟の闇へと消えていった。

 洞窟の中の広間で一人になり、一瞬深呼吸。

――逃げるぞ。

 計画を頭の中で組み立てる。持ち物は、少額の金と、相棒の竜。武器は槍と剣を一本ずつ持っていけばそれでいいだろう。

「――兄貴、今話しても大丈夫?」

 思考の中に入っていたところで、頭領に話しかけるものがいた。

「おう。俺も今からそっちを探しに行く気だった」

 それは、集団の平均年齢から比べると少し幼く見える顔立ちの青年。少女が呼ぶところの『黒覆面』の男だった。

「なんかようだったか?」

「いや、一応兄貴には俺が誘拐についていった理由を伝えておこうかと思ったんだけど…」

 いわんでいい、と頭領は手を振った。

――どうせいまさら気にしてもしょうがない。

 少女を連れ去るという結果が一緒なら、迅速かつ軽損害に終わればいい、と考えた末の『黒覆面』の行動だった。一個小隊が戦闘不能にされたのは予想外だったが。

 頭領を『兄貴』と慕う『黒覆面』の正体。それはかつて頭領とともに領地を脱出した『末裔』の少年だった。脱出後、頭領の仲間たちから戦闘技術を学び、傭兵としての生き方を会得していった。今では、盗賊団の中で一番の戦力となっている。

「逃げるぞ」

 頭領が前置きなしに言ったその言葉に、『黒覆面』は一瞬の間を置いた後頷きを返した。

――いつかこうなるというのは予想していた。

 つい先ほど少女と話していたことがすぐに現実になるとは思わなかったが、頭領の提案が自分にとって『もう一つの選択』をする最後の一押しとなったのだろう。『黒覆面』は心の中で自身の決断力のなさを憂いた後、頭領と視線を合わせた。

「俺達だけ?」

「レビリアとガリアンに伝えてくれ。あいつらは情報さえあれば自力で脱出するだろう。俺らは夜明けとともに北に向かって逃げる。お前も準備しとけよ」

 四人。その、今も残っているかつての仲間たちの数に少しの憤りを覚えたが、頭領は頭を振って思考を巡らせる。

「そんなに急がないとダメかな?」

「善は急げ、だ。二、三日延期して、なんかの拍子に露見したら面倒だ。部隊長も今はしょげてるしちょうどいい」

 まあ、と頭領は薄い苦笑を浮かべ、

「――さすがに追手が今日来るなんてことはないだろうけどな」

あけましておめでとうございます。

さすがに三月までには終わらせるつもりで頑張ります。(慢心)



場外乱闘ということ敵方の模様をお送りします。

またあと二、三話は主人・奴隷コンビ以外の描写になるます。


あと、twitter始めました。更新情報とか言ったり、設定質問受け付けます。

…需要はあるのかな?

アカウント→@koyama0yu

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