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魔法世界の奴隷と主人  作者: 小山 優
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第二章・前 日常

 一組の主従が生まれ、一週間ほどが経った。

「ん…眩しい」

 従の方。少女は、屋敷の庭先でベッドのシーツを干しつつ伸びをする。

――まさか、陽の光がまた拝めるとは思ってもいなかったな…。

 上りかけの太陽を見つめる。

 奴隷、というか召し使いの朝は早い。

 六時に起き、昨日のうちに出ていた洗濯物を洗い、干す。軽い朝食を胃に入れ、午前を使って屋敷中を掃除する。

 その後は、十一時ごろに起き出す魔法使いに合わせてブランチを作り、正午、仕事に出掛ける彼を見送って少し休憩する。

 午後からは、引っ越しの片付けを行い、シラタマから屋敷の説明を受けつつ晩御飯の用意だ。

 最後に戸締まりや明かりの確認をしてから体を軽く拭いてベッドに入る。

 一週間このスケジュールをこなした少女が思うのは、

――ぬるい…。

 朝日に半目の視線を向けながら思考する。

――こんなの、普通の家の召し使いよりも楽すぎる。

 実質二人しか住んでいないとしても、あまりにもやることが少ない。故郷の農村にいた時の方がよく働いていただろう。

――これで、夜の相手を命令されるのなら納得が行くんだけど。

 一度だけ、夜の寝室に呼ばれたことがあった。

 やはりか、とそこそこ覚悟して行ったのだが。

『あ、脱げにくい服ちゃんと着てる?』

 第一声がおかしい。

『俺、寝相悪いから気を付けてね』

 第二声もおかしい。

『耳たぶ柔らかぁ〜…』

 こいつバカなんじゃないか?

 何をされたのかと言えば、寝るまでベッドで添い寝しながらひたすら耳を弄ばれた。

――エルフの耳は至高の手触りとか言われてるけど…。

 あくまで俗説であり、実際はヒトより少し柔らかいぐらいだ。獣人混じりの自分は毛の手触りもあるが。

 彼が眠りについたあとは、ただただ抱き枕として過ごした。

 とても眠れるような状況でないのに寝れたのは獣人の血の成せる技か。

 朝目覚めたあとは、そのままいつものルーチンワークに移行だ。

――私って、メスとしての価値ないのか…?

 襲われないのは良いのだが、何か女として悔しい気がする。

 うーん、と少し悩んでいたところで、

「…おはよ…」

 屋敷から出てきた魔法使いの、欠伸をする姿を見つけた。

御早う(・・・)御座います。如何されましたか? まだ御時間ではないはずですが」

「あー…今日午後から講義するから、午前に研究室行っておきたくてねぇ…」

 言った彼は眠そうに目を擦る。

「ああ、それなら…」

 思い出したように告げる。

「台所に、ブランチ用の軽食が置いてありますので、持っていってください。そう云った技術をお持ちでしたよね?」

 こんなこともあろうかと、朝に作り置きの出来るものを作っておいて正解だった。

 相手は驚いた顔をしながら、何処と無く何かを我慢しているような雰囲気を見せ、

「ありがとね」

 ワシャワシャと頭を撫でてくる。お陰で髪がくしゃくしゃになった。

 魔法使いはゆっくりと屋敷に戻ったあと、手に青い石を持って出てきた。恐らくあれが、『そう云った技術』を使うための道具なのだろう。大方、あの石の中に弁当を閉じ込めるとか封印するとかだ。

「じゃあ、行ってくるから、留守番御願いね」

「はい。御了解致しました」

 言った後、魔法使いは空中に大きな円を(文字通り)描き、その中に数字や文字を指で書いていく。

 その筆の歩みが止まった瞬間、円が光輝きだし、一度強く光った。そのすぐ後には、円は魔法使い諸とも消えてなくなっていた。

「テレポート、か…」

 ローマまで何キロもあるここから徒歩で行くのではなく、テレポートの魔法で一瞬のうちに移動する。

 生まれて始めてみた魔法が彼のこれのため、凄さはいまいちわからない。が、

――留守番なんか頼んでいいのか?

 普通、逃げたり盗んだりを警戒するものだ。こちらは強制的に奴隷をやらされている身分なんだから、いつ裏切ってもおかしくない。(もっとも、例え逃げても行く宛がないため、そんな気は微塵も持っていない)

 はあ、とため息。

――信頼されているのか、なめられているのか。

 自分の胸の平坦さに落胆しつつ、朝日を睨んでもう一度、

「…眩しい」

設定上の文化や社会や料理が、史実とかけ離れていますが触れてやらないでください。

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