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魔法世界の奴隷と主人  作者: 小山 優
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第一章・後 遅い目覚め

 知らぬ天井があった。

――どこ? ここ…。

 少女が目覚めたのは、広い部屋のベッドの上。

 どこかの屋敷の一室のようなそこ。窓はないが、魔法の光が明るく全体を照らしている。正面には大きな姿見があった。

――ベッド…ふかふか…。

 体の下のシーツをさわる。すごく、とまではいかないが、ある程度の高級品だろう。

――私、奴隷として買われた、よね…?

 魔法使いに買われた後、嫌だ嫌だと暴れた結果、何やら催眠の魔法を掛けられたようで、記憶がない。

――奴隷にこんな待遇するわけないし…。

 一体全体どうしたことだ、と悩んでいると、

「あ、も―起き――ん―」

 部屋の出入り口が開き、例の魔法使いが、腕に荷物の入った木箱を持って入ってきた。だが、訛りが自分とは違っていて、上手く聞き取れない。

「ちょっ―、待――てね」

 また何かを言った魔法使いは、木箱の中から小さい水晶のようなのついたペンダントを取り出し、こちらに投げてきた。ジェスチャーで首に付けるように言う。

 言われた通りにネックレスをつけ、留め具を掛けたその瞬間、

――ッ!?

 頭の中を、何か熱いものが駆け抜け、調べ尽くす感覚。同時に、どこかへ繋がる糸を残していったような感覚。それらが脳を刺激した。

「言葉わかる?」

 その時、魔法使いが問い掛けてきた。『こちらに通じる言葉』で!

「あ、え、はい…。わかります」

「よかったー。実験が失敗してたらどうしようかと…」

 やれやれ、と魔法使いがため息をつく。

「えっと、あの、ここはどこなんでしょうか? それにあなたは一体…」

「あーゴメンゴメン。なんにも説明してなかったね」

 言うと、魔法使いは木箱を床におき、近くの椅子に座る。

「まず、僕は、ローマの『魔法学院(アカデミー)』で研究員兼講師をしています。肩書きは一応准教授。専攻は魔法応用学」

 君は?、と聞いてきた。

「普通の農民です…今は違いますが」

 よろしく、と笑みが返ってきた。

「ここは、ハプスブルグ領シュルンス…まあ北アルプスの麓だね」

 魔法で、地図が魔法使いの手に浮き上がる。スイスの近くだ。

「えっと、あの、これは…」

 自分の首に掛かったネックレスを指す。

「ああ、それは、意思を読み取って、掛けてる人同士の会話を助ける…まあテレパシーの応用で出来た翻訳機だと思ってくれれば良いよ。まだ試作機だし、効果は掛けてる人同士、言語は方言のレベルしかカバーできないけどね」

 そういうのを開発する仕事なんだ、と魔法使いは笑う。

「で、君にしてもらう仕事なんだけど」

 言われて、身が強張った。

――何をさせられる(・・・・・)

 奴隷への扱いなんて、虫と同じかそれ以下と決まっている。早い話、今ここで押し倒されたり殺されたとしても、法律的に文句は言えない。

 反抗すれば、背中の『印』が体を痛め付けるし、主人を殺せば『印』の効果でこちらも殺される。

 嫌な汗を流した自分とは対照的に、魔法使いは何食わぬ顔で木箱から荷物を取り出した。それは、

――メイド、服?

 金持ちが娼婦や妾に着させるような、扇情的なモノではなく、ただただ実用性を重視した質素で丈夫なメイド服だ。紺の下地に白いエプロンが目立つ。

「作業着はこれ。やるのは、家事洗濯に掃除。料理はどっちでもいいや。この屋敷のいろんな雑事をこなしてもらいたいんだけど」

 はあ、と力が入らないように返答する。

 正直、

――拍子抜け…。

 そんなことなら、そこまで辛くはないし、そもそも奴隷に頼まなくても召し使いを雇えば良いだけだ。

「じゃあ、まずは着替えて。詳しい話はあとでするから」

 はい、と魔法使いはメイド服を差し出す。それを受け取ろうとして、手が触れた。それに釣られて視線が上がり、目が合った。

「あ…」

 思わず呟き、見つめた。

――綺麗な目だ。

 青い瞳を見つめると、心臓がその鼓動を激しくし、目と頬に血が集まる。

――みちゃ、ダメ!

「着替える、ので、外に出て、欲しいです…」

 目を逸らし、服を抱え込んだ。

「あ、ごめん。終わったら呼んでね」

 慌てて魔法使いが出ていき、自分は服を着替えにかかる。

 下着類も一緒に置いてあり、上下白の綿製品だ。下は履くとしても、上は着慣れないので置いておく。

 鏡の前に立ち、メイド服を着る。

 サイズはやや大きい。少し着られている感は否めないが、なかなか様になっている。

 鏡の前でクルリと一回転。止めていない背中のボタンがズレかけて、服が一瞬脱げそうになる。

「…似合ってる、かも」

 自分の境遇やら状況やらを忘れきった感想を述べたところで、

『いやはや全くその通り。ただわたくし個人の意見としては、些か胸囲がお粗末ですな』

 低く響いた紳士声。だけど内容は最悪に。果たしてその声の主は?

『いかがされましたかな? わたくしめの顔に何かついておりますかな?』

――何もついてない…。

 鏡の中で、人魂が、喋っていた。

「――キャァァァアアア――――!!??」



「どうしたの!?」

 魔法使いが血相を変えて部屋に飛び込んでくる。

「おばッ、おば…! お化けがッ!」

 腰が抜けて床に倒れ込む。思わず後ずさった。

「…ちょっとシラタマさん…。事情わかってない人に説明抜きで出てったら流石にダメでしょ…」

『いえいえ! 衝撃的な出会いこそ、良好な関係の基礎になるのですよ!』

――お化けと会話してるッ…!?

 なにやってんだこの人ら、と混乱した視線を投げると、

「えっと。この…人?は、屋敷の管理の妖精…所謂、守護精霊とか土地神みたいなものと思ってくれたら良いよ。名前はシラタマさん。この屋敷の簡単な泥棒対策や、照明類の無駄遣い防止、来客の簡単な対応なんかを担当してくれてる」

『まあ、精霊や土地神とは違い、人が魔法で産み出したものでありますが』

 魔法使いはコツコツとたしなめるように鏡のシラタマを睨みながら叩く。

「ま、家事とかしてたら否が応にでも付き合うことになるから、仲良く…」

 してね、とこっちを振り向いて呟こうとした魔法使いの目が点になる。

――何かおかしい?

 その視線は、自分の体へと向けられている。

――何がある?

 自分も視線を下にずらす。

 まず、思考を整理しておこう。

 この服は、少し大きめでゆったりとしていた。

 まだ着たばかりで、背中のボタンを止めていない。

 もしも、そんな状態で床に倒れ、かつ後ずさりなんてしたら、摩擦で服は前に、体は後ろにいく――つまり脱げる。

 そして、自分は着慣れてないから上の下着を着けていない。

 そこから導き出される答えは?

 早い話――私の上半身は、何の衣類も身に付けていなかった。

 思考停止による沈黙。

『ふむ――AAカップですな』

 シラタマの言葉で、心臓は思い出したように動悸を激しくし、顔が真っ赤に染まった。そして――

「キャァァァァァア――――!!」

「ごめん――――!」

 本日二度目の悲鳴が木霊した。



「まあ、その、なに? いろいろと…ゴメンなさい」

 一段落ついた部屋の中、魔法使いは気まずそうにあらぬ方を向く。

――全部見られた、全部見られた全部見られた!!

 一方、自分と言うと、ちゃんとメイド服に着替えたものの、完全に意気消沈してベッドの隅にうずくまっていた。

――お嫁にいけない…。

 そんな身分じゃないだろうと言う考えを持つ余裕は、当の昔になくなっていた。

――これから一緒に暮らさないといけない人に、恥ずかしい部分見られた。

 その事実を反芻してしまい、また顔が赤くなる。その時、

「――最初からいろいろあって、言いにくいんだけど、」

 魔法使いはこちらの顔を覗き込んで手を差し出す。

「これからよろしくね」

 優しい、綺麗な声と笑みが入ってきた。

 見ちゃダメだ、と視線はずらすが、つつしまやかに右手を出す。

「…よろしく、お願いします…」

 言った瞬間、魔法使いはその笑みをもっと優しいものにして、握手する。



 その温かい手に触れて、私たちの生活は始まった。

服が破れて全裸とかじゃない分、まだ自分って良心的だな



設定補足(たぶん、作中にいかされることはない世界観)


魔法の発動

魔方陣を書き、エネルギーを注入して発動、というのが基本動作です。


魔方陣は、魔法が複雑化するにつれ難解で細々としたものになり、使う人の練度や思考力が上がるにつれ簡略化されていきます。




屋敷の管理の妖精

AI積んだセコムです。性格は個体別。作成方法は、かなり複雑で、一部の金持ちの家にしかいません。作るときは専門の業者に頼みます。



魔法学院

この世界の大学に相当する教育機関です。作中のものは、特にローマにあるものを指しています。年齢制限はなし。メインは魔法に限らない、いろんな技術の研究。サブとして次世代の育成です。



世界地理

ほぼ完全に地球と一緒です。地下資源が枯渇しているところが多いですが、魔法で代替できています。



種族

伝承上の七族と、他の種族にわかれて存在しています。

分布と種類は、西ヨーロッパに人間、北欧と東欧にエルフ、バルカン半島に人狼、イスラム圏から南アフリカに竜人、インドから東アジアにかけてドワーフ、シベリアやモンゴル・チベット・ウラルにかけてオーク(ここまで七族)、南北アメリカの亜人種、ヒマラヤやスカンジナビア最北端にはハーピー。天使や悪魔と言った種族もいます。

各種族の詳しい説明はまたこんど。

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