第十六章・後① 自白
長くなりそうなので分割。
後半は週の真ん中ぐらい?
ヴェル、ヴェロニカ。彼女は、僕が生まれた時から一緒に育ってきた。
生まれはポーランドで…知らない? 北の方にあるエルフの国だと思って貰えれば良い。
浅黒い肌で、目は真ん丸。背は高くて、尖った耳には薄茶色の毛が生えていた。
種族は、ドワーフにエルフに獣人がそれぞれ三分の一ずつ。
「わかる?」
魔法使いは、自嘲的な苦笑でこちらに問い掛けた。
「三色合わせで、しかも見掛けは褐色エルフだ。まるで差別されるために産まれてきたような女の子だろう?」
ヴェルは、親にすら差別されていた。
彼女は、生まれた時に奴隷商へ売られ、僕の父が四歳の時に買うまで、「奴隷」を完全に教え込まれた子だった。
自由を求めるとか、奴隷が辛いとかじゃないんだ。あの子は「奴隷」しか知らなかった。「奴隷」が当たり前で、人に従うのが彼女自身の存在意義だった。
そうは言っても、当時の僕がそんなこと解るはずもなくて、我が儘に何でも付き合ってくれる、ぐらいの認識だったよ。父は、僕の夜伽の相手にでもしようと思ってたらしいけどね。生娘に何させるつもりだったんだろ。
僕と、ハイルディと、ヴェルと。いつもその三人で遊んでいた。いや、遊んでいたというと少し違うかな。ハイルディがはっちゃけるのに僕が便乗して、それをヴェルが追い掛ける、みたいなのだ。仮にもヴェルは歳上で、使用人だったからね。選択権なんて彼女の頭には微塵もなかったんだろうね。
「そして、十年前だ」
彼は月を見つめた。
「次年度から学院への入学が決まっていた時期で、ハイルディは血筋で特別クラスに、僕はコネと元々ある程度あった学力で通常クラスの一番良いところに入る予定だった」
落ち着くように、魔法使いは息を吐き出した。
その日も僕らは、遊びに行っていた。
ハイルディが、一日で行けるとこまでいってみよう、と提案して、それに僕が賛成した。ヴェルは頷くだけだったと思う。
集落を出て、平野を抜けて、川を渡って…気づくと夕方になっていた。持ってきていたお弁当もなくなって、最悪ハイルディの飛行で帰れると思っていたのに、何故か森から出られない…。多分、その時には『お菓子の家』の『迷子の呪い』に囚われていたんだと思う。
辺りが真っ暗になって、ハイルディがグズり始めたのを僕とヴェルが宥めて、だけど二人とも泣きたいぐらい怖くて…。
そんなときに、『お菓子の家』を見つけた。
驚いたね、やっぱり。森の中にチョコやビスケットでできた家があるんだから。
もちろん、フェルとはその時初めて会った。黒を基調にした地味目のドレスで…うんそうそう、胸なかったでしょ? 君とは違って、もう将来性がないから可哀想だね。ざまあみろ。
…話が逸れた。
僕らもいろいろご馳走してもらったよ、七面鳥にハンバーグに…。その後は地下の書庫へ連れていかれて、本を読んだ。ううん、読まされたって言った方がいいね。
君の場合は技術書だけだったけど、僕らは、特にハイルディは、いろんな本を読んだ。ヴェルは読み書きが出来なかったから、座ってるだけだったけどね。
今僕が使ってる魔法式の殆どがあそこで知ったものだと言っても過言じゃない。テレポートの基本技術が解ったのは、あそこで読んだロストテクノロジー関係の本だし、魔力波探知測距の発想はここの架空戦記小説が元だ。
けど、読んでいく中には、普通じゃないものもあった。禁書や魔書、読むと気が狂う類いのものだよ。
当然、僕らはそれを読んだ。だけど、まだ子供だったことが幸いした。何が書かれているかは解ったけど、それがどう頭のおかしなことだかは解ってなかった。ちゃんとその真意が知れたのはここ数年かな。
三日。三日間をそうして過ごした。三日も、であり、たった三日、だ。
子供とはいえ、そんな見知らぬ人間の家で三日も過ごすのは異常だ。それに違和感を抱かせなかったのが、『お菓子の家』の意地悪さだと思うよ。
そして、たかが三日で、禁じられた知識や、失われた技術を会得できるのも、また異常だろう? 学院の研究室でも、試作品が出来れば良い方な日数だ。
その三日間で、ハイルディは万人を一瞬のうちに消し飛ばせる戦いの力を手に入れ、僕は時代を数十年は先取りする技術の基礎となる知識を手に入れた。
そして、三日目。その夜だ。
フェルに、あのクソ女に! 僕らはいきなり教えられた。『あなたたちの村が盗賊に襲われている』って。
もちろん、僕らはすぐに帰ろうとした。だけど、ダメだ、と。『あなたたちにはやることがある』『あなたたちは力を得なければならない』と、そう言われた。
僕らは怒った。当然だ、自分達の家族が危ないのに、他人になんて構ってられないからね。
ハイルディは得たばかりの戦う力で、僕は技術の応用で、フェルに襲いかかった。だけど、それぞれ片手であしらわれ、ハイルディは『知識の泉』に投げ込まれた。
僕は、フェルに首根っこを掴まれ、狂ったような血走った目で睨まれた。
『あなたは私の担当じゃない』『あなたは今の世界の常識を変える人』
耳元でそう呟かれて、そこから先は記憶がない。ヴェルに聞いても、わからないと答えるだけだった。
「フェルの言葉は多分、研究者として今の常識をぶっ壊せ、っていう意味だったんだと思う。それが現実になってるから、僕としては悔しいんだけど」
苦笑した魔法使いは息継ぎをした。
「気付くと、僕らは、村が見渡せる丘の上にいた」
この屋敷がある丘の、ちょっと南に下ったところだ。そこから、夜の村が見えていた。見えていたんだ!
いつも夜になれば、灯りが消えて、真っ暗になるはずの村は、そこかしこから火の手が上がっていた。
盗賊、と聞いていた僕らは急いで村に向かった。
村に入ってすぐ、血の臭いを嗅いだ。
僕らが誰かの死体を見つけるのと、盗賊に見つかるのは殆ど同時だった。
最初に殺しをしたのはハイルディだ。
襲ってきた盗賊に、フェルの時と同じように飛び掛かった。
そしたらさ、盗賊の上半身が弾け飛んだんだ。オレンジを壁にぶつけるみたいにね。
ハイルディも、強い魔法を知ってはいたけど、戦争も戦いも知らなかった。だから、ハイルディとしては、遊びで強く人を叩いたぐらいに気持ちだった。
だけど、それで人が死んだんだよ。
繰り返すけど、僕らはまだ子供だった。『死』なんてものを受け止めるには間抜けすぎる歳の、ね。
そのあとで、周りの光景が目に入ったんだ。
死体だ、其処ら中に死体が転がっている。
村を出る前に遊んだ、雑貨屋の子供のレイ。よくパイをご馳走してくれたノーラおばさん。行商で面白い物を買ってきてくれたジャイジェ。頑固で気の強い、鍛冶屋のドレイス。美人で評判だったレイア。他にもいっぱい。
皆、死んでいた。
気付くと、自分の体から魔法光が漏れだしていた――魔力暴走。急激な精神の乱れで、魔力が垂れ流しになった。
その後は、僕らは人を殺した。
僕も、ハイルディも、半狂乱で、ただ目の前にいる人間を殺せと、自分達の大切なモノを壊した屑共を潰せと、魔法を使い続けた。
お互いに落ち着いたのは、その場に自分達以外のには誰もいなくなった時。
我に帰ったのはハイルディの方が早かった。
僕は、ハイルディに殴られて正気に戻った。
言われたよ、『周りを見ろ』ってね。それで何とか自力で魔力暴走を止められた。
問題だったのはその後だった。
僕らには生きる糧も何もない。
父や母も含め、屋敷の人間は皆行方知れずだった。大方殺されたんだろう
ハプスブルグとはいえ、神聖ローマ寄りの土地だ。その時には、神聖ローマの内戦は始まって十年ほど経っていたし、盗賊もどこかの傭兵団崩れだ。子供三人が生きていくのに、この土地は厳しすぎた。
僕の親類ですぐに頼れる人は近くにいなかったし、ハイルディはまだ魔女会との連絡の取り方を知らなかった。ヴェルは言わずもがなだ。
だから僕らは、唯一繋がりのあった魔法学院を目指した。
短距離テレポートと、ハイルディの飛行を駆使して、アルプスを越えて、バチカンに入って…。
ローマに着いたのは五日後だったかな。道中はほとんど何も食べてなかった。ハイルディが『末裔』じゃなかったら死んでたね。
到着したのは夜で、当然学院も閉まっている。寝るところもなかった僕らが思い付いたのは、例の奴隷商人だった。チビでグロテスクな顔面の…うん、君がいたところだ。
父がヴェルを買ったのがその商人だったお陰で、僕らと顔見知りだったんだ。
奴隷商人の家に転がり込んで、泊めてもらった。今思えば恐ろしく危なかったね。あのまま何処かに売り飛ばされたかも知れないんだから。成りはああだけど、あの商人、案外お人好しなんだよ?
次の日には学院に行った。受付で事情を話したら、学院長に呼び出されたよ。
学費も払えなくなったし、コネもなくなった。だから僕の入学は取り消し。ハイルディもどうなるか、という話になった。
だから、言ったんだ、『入学試験をやり直してくれ』って。
学院の入学方法なんだけど、いろんなパターンがあってね。
一つは、普通クラスに試験を受けて入学する方法。試験結果でクラスの種別が決まるんだけど、上のクラスは授業料も高い。必然的に、上位クラスは貴族の子供、下位は庶民になる。もっとも、僕らはその最下位クラスの授業料も払えなかったんだけど。
二つ目は、特別クラスの一般枠だ。王候貴族の、普通の上位クラスでも手に負えないやんごとなき生徒や、種族の部族長レベル、高位の『救世の末裔』を割高で入学させる。リスティナやファフナーはこの枠だね。キミもこれだね、学費は僕が払ってるんだけど…ああそんな畏まらなくて良いから。
そして三つ目。僕らはこの方法で入学した。
学院の幹部陣の前で、並大抵ではない技を見せ、特待生として特別クラスに入学する方法。
それを僕らは選択した。
簡単だったよ。なんてたって、『お菓子の家』で得たものを見せれば良かったんだから。
ハイルディは、『知識の泉』で手に入れた力を見せた。面接官の何人かが卒倒したそうだよ。
僕は、簡易テレポートの概念と基本式、自分で作った新しい魔法式の理論をぶちまけた。学院長の顔が驚愕に染まっていくのを見るのは楽しかったなあ。
晴れて二人は特別クラスに合格。学生寮で、ヴェルと一緒に暮らせるようになった。
生活費は、ヴェルが学院で働くことで稼ぐことができ、とりあえずの問題は回避できた。
そこからは、至って普通。僕とハイルディは学校で勉強、ヴェルは学院の雑事をこなして、休日は三人でのんびり過ごす。あの時が一番幸せだったかな。
けど、そのうち、ヴェルの様子がおかしくなった。僕らが勉強で、休日もあまりヴェルと一緒にいられなくなったころだ。
ヴェルは、誰かに従ってなければ、自分が保てなくなる子だった。それが、僕たちが自立していくにつれ、自分の存在意義を失っていった。
休日は何もせずにいることが多くなり、会話も徐々に成り立たなくなってきた。
これじゃダメだ、とハイルディと相談して、何とかしようという話になった。
まずは、二人でヴェルに抱きついて、耳元で呟いた。『ありがとう』『あなたがいてくれるお陰で、私たちは生きていられる』
そうすると、笑顔になってくれたんだ。綺麗な褐色の肌で、薄い唇が、優しく微笑むんだ。嬉しかったよ。
だけど、それでも彼女は戻ってくれなかった。
もっと虐げてくれ、蔑んでくれ、と僕らに要求してきた。
そして、僕らは――一線を越えた。
最初は、ベッドに横になって、じゃれあうように話しているだけだった。けど、夜毎ごとに関係はエスカレートした。
ハイルディが彼女の胸に顔を埋めて、悔しいと思った僕が彼女の唇を奪った。負けじとハイルディは自分の恥部を彼女のと合わせて、なら僕も…。
彼女の処女を奪ったのは、確かハイルディだった。…あ、うわ、ごめん。変な話をしたね。えっと、魔女は、男女どっちの性器も付いてるっていうか…何言ってんだろ俺。
その夜は、三人で気が済むまで交じりあった。もう、その時には、彼女を慰めようとかは思ってなくて、ただ自分達がしたいことを求めていた。
おかしいと思うかい? 狂っている?
だけど、あの頃の僕たちは子供で、思春期で、そして狂っていた。
お互いを思って、けど自分の欲望に正直で、グチャグチャと狂気の沼に沈んでいく。
その日からは、完全にタガが外れた。
休日になれば、男と女の匂いがする部屋で、一日中交じりあった。優しさと欲望に溺れて、体をいろんなもので汚しながらね。連休になれば三日三晩、お互いを求め合い、慰め合い、溶け合った。
あれは、愛なんて大層なものじゃなかった。
僕らは何も考えずに甘えさせてくれる保護者が欲しかった。あの子は、自分の拠り所として、自分を従える『御主人様』を欲しがっていた。
依存。どっちもがどっちもに依存していた。
けど、そんな爛れた生活をしていれば、当然起こることがある。
ヴェルが身籠った。
ちょくちょく伏線回収できてっかな?
思春期男子の性欲って怖いよね。
てか、これでbanくらうとかないよね?大丈夫だよね?




