第十一章・後 動物虐待
木漏れ日が森のそこかしこに降り注ぎ、吹いた涼しい風が葉を揺すって音を鳴らした。
「――よし、出来た」
少女は木と蔦で作った手製の弓を持ち、立ち上がる。
広葉樹が生い茂った木々の間の、少し開たところには、炭化した薪などの野営をした跡がある。昨日まで自分が使っていたものだ。
「今日は、もっと奥の方まで行ってみようかな」
枝を削った矢と、燻製させた保存肉を持ち、少女は立ち上がる。服装は、食費の余ったお金を貯めて買った革の服だ。
魔法使いが学院の指令で戦争だか紛争だかに出掛けて三日が経った。
大型連休で授業が休みになったのは少女も変わらない。
『一週間はいなくなると思うから、その間は好きにしてていいよ』
魔法使いがいなければ、する家事も生まれない。よって、少女は暇をもて余すこととなる。そこで思い付いたのは、
――一週間、裏山サバイバル?かな。
付近の探検、自分の腕試しを兼ねた、近くの山でのサバイバルである。
ここは、屋敷からそう遠くない山の中。ややスイスよりの位置になる。
最小限の荷物――ナイフと携帯食糧、水と手製の弓――を持ち、森の中を歩いていく。食糧集めだ。
――今日の朝御飯は何にしようか。
携帯食糧を持っているとはいえ、それは予備にしか過ぎない。だから保存が効く燻製肉を持ってきている。
無難にキノコか木の実でも採るか、と思っていたところに、
――…ッ!
大きなモノが、草を踏み分ける気配。
反射的に地面に伏せ、息を殺した。
気配のした方向、すぐ左を見れば、
――熊、か。
二メートルは優に超える体長の、毛深い大きな熊が、のそのそと木々の間を前屈みの二足歩行で歩いていた。重さは、音から判断するに二百キロあるかないかぐらいだろう。
――冬眠から覚めた若い雄、か。
いや、と笑って弓を握る。
――今日のご飯だ…!
弓に背中の矢をつがえ、中腰になる。
――相手が見ているのは向こう側、こちらには気付いてない。
『狩り』の手順を頭が素早く組み立てていく。
――障害物は無視できる。木があっちとこっちにあって、あとは…。
弦を絞り、狙いを定めた。
――撃つッ!
ぴ、と弦に音を鳴らさせて、矢を放った。
即席の短弓から放たれた木の矢は、しかし真っ直ぐに熊の頭部へと向かった。
「グァッ!?」
矢は、耳に直撃した。突然の死角からの攻撃に、熊はビクリと怯んだ。だが、倒れない。
――…ま、当たり前だけどね。
人よりも大きな動物が、たかが女子供の放った矢でダメージを負うわけがない。目にでも当てれば別だが、正面にまわるリスクとは釣り合わない。
ならどうしてわざわざ矢を放ったのか。
――いまなら、行ける!
怯んだ熊は警戒しつつも怯み、集中が乱れている。
そこに、荷物を捨て、身一つで突っ込んだ。距離は二メートル。
すぐ目の前、地面に丸出しになっていた木の根を足場とし、高くジャンプする。敵の背後はガラアキだ。
跳んだ勢いで体を時計回りに回転させる。回りながら右の足を踵落としに振りかぶり、踵が狙ったのは熊の首の根元。
――喰らえ!
足を横に落とす。
足を目一杯の力を込めて放つが、熊の重厚な毛皮に阻まれて有効打にはならない。しかし、衝撃は確かに首の骨へと伝わり、熊の体をよろけさせた。
蹴りをし終わると同時に熊の背中を下方向に蹴りだし、加速をつけて落下する。
「ク、ガァッ!」
その、自分が一瞬前までいた場所を、振り返り様に熊が放った右の爪が俊敏に凪ぎ払った。風圧が頬を撫でる。
――中ったら、即死だな。
熊とは元来、臆病だが凶暴な生き物である。未知のモノ、初めてのモノを恐れるが、強さの知れたもの、味を知ったものには率先して襲い掛かる。
自分の経験から言えば、この熊は、
――人の味を知っている熊、だ。
いきなり奇襲され、首もとに蹴りを入れられたのに反撃するのは、こちらの限界を知っているからだろう。
そうなると、この熊狩りは非常に難しい。
――怯えることはないし、こっちを食いにくる。
熊は強靭である。ちょっとやそっとの傷では疲れすら見せないし、急所をついても防御を捨てて攻撃してくる。父から聞いた話では、頭が半分なくなっても襲ってきたらしい。
地面に着地してすぐ、左手を地につき、そこを軸にし、横に受け身を取って回転する。足をついた先は、後ろを攻撃して体を捻った熊の顔からもっとも離れた位置だ。
故郷では、時折畑や村に侵入してくる熊に、常には多人数で囲って武器でタコ殴りに、一対一・丸腰なら立ち回りで時間を稼いでいた。
――一人でも狩れないことはないけど無駄な危険負う必要はないし、わざわざ狩る必要もない。
狩猟の費用対効果なら、ウサギやイノシシを狩った方がいい。そもそも畑を耕しているんだから狩りなんてしなくてもいい。
低い姿勢から、左手を軸にした右の回し蹴りを繰り出す。狙ったのは熊の左脚の関節の裏。
相手の足から、グギリと変な音が響いた。足を伝わったのは、固いものを粉々に砕いた感触。骨か皿かを割ったな。
「ガァァアア!!??」
視角外から与えられた激痛に、熊は苦悶の叫びをあげる。
「マァアッ!!」
敵意を持って振り返ろうとした熊。だが、逆にこちらその懐に入り込む。
関節を裏から蹴られ、前に出ていた熊の膝を足場として踏んで、熊の眼前に跳び上がる。途中、反時計回りに下を向き、左足を下に引いた。
熊の右手が攻撃準備に入ったのを最後に、自分が見えるのは地面だけ。ここで攻撃されたら一貫の終わりだ。だが、
――左足を思いっきり引き上げる!!
視界にないまま、左足をまっすぐ上げた。
下から上への踵落とし。それが中ったのは、
「グギャァァ!!??」
熊の顎へと踵はクリーンヒット。その回転まま、今度は上を向き、勢いで右の回し蹴りを打った。熊の側頭部を的確に捉え、
横に押し出した。
そのあとは重力にまかせて自然落下。土を踏むなり全力で走りだし、熊から距離を取った。
四、五メートル離れた所で振り向いた。
熊は、顎と脚の骨を砕かれ、片耳が損傷している。それだけ聞くと満身創痍のように思えるが、変わらず敵意の視線と威圧を
掛けてくる。強さもさして変わっていないだろう。
――いくら攻撃しても倒れない、か。
傷を与え続ければ倒すことが出来るだろうが、いつか体力の切れたこちらが葬られることになるだろう。
このままでは殺される。だけどそれは、
――少し前の私の話!
ガ、と自分の周りの地面に素早く足で円を描いた。やや形が悪いが、認識できないこともない。
そこにするのは、
――魔力注入!
集中を、円へと注ぎ込んだ。
円が金色に光りだし、ついでその光が足へと伝染する。そして、
――脚力強化!
地面を蹴って走り出した。
それを合図としたように、円に宿っていた金色の光が離散。その代わりに、自分の足へ具体的な力と光になって力が生まれる。
生まれた速度は数十倍。高速で熊へと接近し、距離が二メートルとなったところでジャンプした。
何も足場のない跳躍。だけど先程よりも高い場所へ跳び上がった。
空中で、態勢安定のためにクルクルと何回も時計回転。少し開いて回った、光る両足が作ったのは光陣であり、
――追加強化!
それを円として、身体強化を追加する。さらに、
――爆発効果、追加!
足が、光の残滓で作る円。一回転する度にそれが生まれ、そしてその都度『爆発』と『脚力強化』を交互に重ねる。
都合、十二回。円を消費したあと、右足を振りかぶる。
ぼう、と何事かと熊は見つめている。足をやられたので動けずにいるのだろう。向こうの思惑は、不用意に近付いたこちらを叩く気なのだろう。
――甘い。
口角が緩むのを我慢できない。
放物線を描いた跳躍が、ゆっくりと熊に、近付く。
右足が狙ったのは熊の頭蓋。逆に、つぶらな瞳がこちらを見つめている。つけるモノローグは『おいしそう』か。
――喰・ら・え!!
蹴った。
回し蹴りは真上から熊の頭蓋を穿った。そして、足が骨に中った瞬間、
――ボンッ!!!
下方向への爆発が、六回。熊の脳を襲った。
六倍の蹴りの衝撃。そして六回の爆発の衝撃。
人としてありえない強さの蹴りと熱に、熊の目は白濁し、鼻と口から血を吹き出した。
効果を全て使いきった足は、熊の体を蹴ってゆっくりと着地する。
蹴りを喰らった熊は、こちらが隙だらけであるのに何もしてこない。
「…蹴りが直角すぎたかな?」
独り言を呟いて、熊の体を人差し指で押した。ちょん、と触った毛皮の感触はふかふかとしていて気持ちよかった。
ぐらあ…。
二メートルの巨体がゆらゆらとぐらついたあと、仰向けに…
どしん。
倒れた。
「…死んでる?」
念のため、と脈を確認すると、確かに止まっていた。
――…疲れた。
よっこらせ、と仕留めた熊の上に座った。
――…魔法って便利だなー。
腰から出した燻製肉をかじった。
使ったのは、この二週間で魔法使いから習った「身体強化」と「爆発」の魔法。前者は基本的な魔法の一つで、後者は「火をつける」魔法の応用だ。
一週間で基礎的な魔法を教わり、もう一週間で基本魔方陣を十分に使えるようになった。魔法使いに言わせると「ありえないぐらいセンスがいい」らしい。
習えば習うほど、やればやるほど次の魔法が、技術が見えてくる。可能なことが増える。あれもしたい、これもしたい。
好奇心からくる興奮を覚えて、溜め息をついた。
――でも、私はただの農民で、奴隷。
椅子になっている熊の毛皮を撫でた。肉は食用にしても余るから、燻製にするか近所に配るか。毛皮はなめしてどこかに飾ろう。骨は…。
――どうせ、私は何も成さずに生きるだけなのに、こんなことを学んで何になるのか。
きっと、ただ今のままを繰り返し、ただ今があるだけで、ずっと彼の元で暮らして生きるだけ。
溜め息をつこうとして、
――…ん?
何だか、不思議な違和感に包まれた。
――溜め息をつくほどのものじゃない、とか、それでもいいんじゃないか、とか…。
言葉で説明しろ、と言われても無理だ。近い感覚で言うなら、まどろみに浸っていたいとか、深い海の中に沈んでいたい、みたいな…。
うーん、と悩んでも答えはでない。それより実務だ。
「シラタマさん? 出てきてもらいます?」
『はいはい私、只今参上ですぞ!』
紳士声が聞こえてきたのは、自分の首元に掛けられた魔法石ネックレスだ。
以前は青い石が一つ付いていただけだったが、今は透明と藍の石が付いている。使用限界とかで、翻訳用の青のものが藍に替わった。透明なものはシラタマの呼び出し用だ。
「食料庫って、どれくらいのスペースが空いていますか? あと、獣の骨の良い活用法ってありますか?」
ふむ、とシラタマは少し悩んだ後、
『食料庫は問題なく空いてますな。どちらかと言えば不足が目立つ方で。…活用法で御座いますか。そうですな、削って槍か矢尻に使うというのはどうでしょうか。頭蓋ならアンティークとして飾っても売っても良いと思いますが』
「あー、頭蓋骨は確実に割ったので無理ですね。まあ、頭は剥製にして、他の骨は武器にでもします」
それが良いですな、とシラタマは言う。
「屋敷の方はどうですか? 三日開けていますが、問題はありましたか?」
『特には。カラスが窓にぶつかった位ですな。虫も湧いておりません』
さすがに熊を一匹仕留めてサバイバルはできないので、屋敷に戻って肉の処理と掃除をしようか。
「死体…いえ、荷物を持って帰るので、着くのは昼ごろになります。処理も考えると、終わるのは夕方かと」
『死体、処理…?』
何か勘違いされている気がするが、まあいいだろう。
捨て置いた水の瓶とナイフを拾い、熊を見下ろした。
――どうやって運ぼうか。
思いながらも、ほとんど答えは決まっている。
仰向けに倒れた熊を俯せに直し、その下に自分の体を入れ込ませた。
指で地面に基本魔法陣を書き、『脚力強化』を発動する。
「よっ…こらしょ」
熊を下からおんぶして立ち上がる。自分の体重の四倍はあるが、魔法と力の使い方でカバーしている。だが、
――重い…。
家まで、約二時間。
――これはちょっと、重労働、かな。
ゆっくりと歩きだす自分に、森の陽光が獣道を照らしていた。
「よし、これで下ごしらえ完了、と」
屋敷の使っていない一室で呟いた。
時間は夕方一歩手前、外はすっかり黄昏時だが、まだ陽は沈んでいない。
『いやはや、見る間に熊が解体されていく様子はなんともグロテスクもとい興味深かったですな…』
正面に置いてあった姿見のシラタマがクルクルと鏡の中を回る。
とうの熊(だったもの)は、皮と肉と骨を解体され、皮は「なめし」の初期工程を終え、肉は適度なサイズに切って塩漬けや燻製用、今日のご飯用、お裾分け用にそれぞれ分けた。骨は洗って保存だ。最終的に残ったのは熊の頭だけである。板間に熊の生首が鎮座している姿はなんとも異様だ。
『最初、家の前に熊が立っていた時には驚きましたが…』
どうも、熊を担いだせいでこちらの姿が全て隠れてしまっていたらしい。帰る途中で「なめし」用の薬品を麓の雑貨店に買いに行ったのだが、店主にも驚かれ、斧で斬られかけた。チビで悪かったな。
『このあとはどうしますかな?』
「そうですね。雑貨店の店主にお詫びを兼ねて肉を持って行って、他にも何人かお世話になっている人たちに。あとは、「なめし」液に皮を漬けて、ご飯の用意でもしますか」
朝・昼と、燻製肉とパンしか食べていないのでお腹が減った。ガッツリといきたい。
――バタンッ! ゴロゴロ、ガッ!
不自然で大きな物音が聞こえたのは、一連の作業を終え、解体作業の掃除をしていた、日没すぐあと。お腹の中には熊の肉が詰まっている。丸焼きは久しぶりに食べたがおいしかった。
「シラタマさん! 何の音ですか!?」
一番初めに思いついたのは泥棒。次が野犬で最後は火事。
『いえ、ご主人がテレポートで帰ってきただけで御座います。…だけなのですが、いや、これは、少し…』
「早い帰りですね、予定はまだのはず…」
言い淀んだシラタマに場所を聞く。台所だ。
灯りを持って台所へと向かう。ランタンだ。
「クソッ…。今、誰か研究室に…あ? お前だけ? いいからその間抜け面しゃきっとさせて聞けッ!!」
廊下で聞こえたのは、怒ったような、焦ったような彼の声。まるで彼のものではないような声だ。誰かと「ねっとわーく」経由のテレパシーで話しているのだろう。恐らく相手は「間抜け面」の人だ。
「バチカンのホットラインに繋げ!! 権限? 知るかバカ、ルーシーに話通せ! 警備主任でも良い!」
恐る恐る、台所の中へと入る。
「神聖ローマ派遣部隊が奇襲にあった! 違う、攻撃中の本隊じゃない! 後方で待機してる役に立ってんのか立ってないんだかわからない奴らだ! いや、ハイルディとドラコ先輩だけ緊急のテレパシー使って呼び戻した。クソッ、後陣の役に立つ奴は前陣に格上げされた直後だぞ!?」
言っている内容はよくわからない。ただ、戦争をしている、ということだけはわかった。
「あの、どうされましたか? 予定では、まだ帰りの時間では…それに、こんな時間に…」
真っ暗な台所にランタンをかざした。
「うわっ、ちょっと、もう寝てると思ったのに! 待って待って!」
浮かび上がった魔法使いの姿は、いつもの魔法使いのローブだが、泥か何かに汚れている。ただ、それが何なのかはわからない。表情からは疲れと焦燥が読み取れた。
「――だから、王立の魔法使い師団をすぐにゲッティンゲンまで送って! 俺のテレポートの理論流してもいいから! 特許!? 知るか、あんなの変魔機に比べたら端金だ!」
王族と領主のボンボンがバタバタ死ぬぞ、と脅すように言った魔法使いは、クルリとこちらを振り向いた。テレパシーも使い終わったのだろう。
「ゴメン。なにか食べる物ある? 一瞬で食えて、高カロリーな奴!」
いきなり言われた質問に頭の中をかっさらった。燻製肉はほとんどなくて、確かパンが…。
「パンが、戸棚に何切れか。あと乾物が幾らかと…」
「肉! 肉ないの!?」
「生ですけど、熊の肉が…」
「それで良いから! ありったけ!」
ひゃい! と、自分でも間抜けな返事をして解体部屋に走った。塩漬けにしたばかりの生肉を取って台所に戻る。
「何で後陣でまともに戦えるのが俺しかいなかったんだよッ! こちとらちゃんとした訓練受けたのはたったの二日だぞ!?」
よくわからない愚痴が聞こえた。雰囲気で、いろいろと不利なのだろうということは感じた。
「はい、どうぞ。塩漬けにしましたけど、ほとんど生ですが…」
「焼くから大丈夫」
生肉を一切れ渡すと、魔法使いは手に持っただけで肉に火をつけ、やや焦げた熊肉を自分の口に放り込んだ。胃に悪そうだが大丈夫だろうか。
「――ああ! 腹に何か入れたら落ち着いた! すぐ戻るから、もう寝てていいよ」
口元の汚れを魔法使いは拭い、伸びをした。
「えと、でも…」
何?、と魔法使いはやや固い笑顔で笑った。
「あの、何かお困りでしたら、私もご一緒して、手伝えることが…」
「――ダメだッ!!」
顔を強張らせた魔法使いのいきなりの怒号に背中を怯ませた。それに気づいたらしい魔法使いは慌てて表情を緩ませる。
「ああもうゴメン、言い過ぎた。でも、今は君が来てもしょうがない。君が来ちゃいけないんだ。良いね? もう、シラタマと寝て…」
そこまで聞いて、頭のどこかでスイッチが入った。
――来てもしょうがない…?
戦争に行く相手は当然「戦い」の中にいるのだろうし、自分は武人だ。その自分に「しょうがない」とは…。
――こっちは、あんたよか、戦闘慣れしてるのに…。暴漢に襲われたのも、奇襲じゃなかったら私一人で対処できたし、何より魔法を覚えた今なら…!
こっちを完全に舐め切って、上から下に見下された気分。いや実際、身長は相手の方が遥かに高いのだが。
だが、実際自分はその、「戦い」というものがどういうものなのか理解していない。昼間の熊を狩った時のように、殺すべきものを殺して、有用に使うだけの作業であるかのように、そう思っている。
「行きます! 行かせてください! 迷惑は掛けませんし、役に立ちます! 援護もします!」
幾つかの文言には「あなたよりは」という言葉が前に付く。あの暴漢に魔法使いが何をしたかは知らないが、どうせ隙をついた攻撃に決まっている。早さも技術も負けているつもりはない。
「だから! ダメなの!! 第一、連れてく気も余裕もないから!」
もう寝なさい、と魔法使いは空中に円を書いて魔法を発動させようとする。
「嫌ですッ! 行きますッ! 無理でも付いてきますッ!」
魔法陣に触りかけた魔法使いの腰に飛びついた。
「あ!? ちょっと何掴まってんの!?」
「離しません! 連れて行ってください!!」
腰を振ってこちらの手を解こうとする魔法使いの体が、ゆっくりと光に包まれていく。こちらが掴まった所為で魔法の発動が遅れているのだろう。
「ああもう!」
「あっ――痛ッ…」
魔法使いが開いていた、魔法陣に触れていなかった方の手でこちらを振りほどいた。勢いで床に転がり、少しの痛みを呟きにして発する。
「えっと、ああクソッ! 大丈夫? ケガない!?」
光に包まれ、今にもテレポートしそうな魔法使いだか、それでも心配の声を掛けてくる。――そこに、油断を見つけた。
「――隙ありィッ!!」
「なッ!?」
その光に包まれた体に後ろから飛びついた。まさかと思っていた魔法使いを、開いた手ごと抱きついて動きを封じた。ちょうど、何か掴みやすい取手のようなものがあって…。
「うわッ!? ちょっとドコ触って、痛いッ!!! 離して!! もげるもげるもげる!!」
「離しません! 連れて行ってもらいます! 離しませんからッ!!」
ぐにょりと柔らかい感触を感じた後、魔法使いと一緒にテレポートの光に包まれた。
「離して――――!!」
「離しません――――!!」
重力と光と音が暴走し始めたのを感じて、視界がブラックアウトした。
たかだかクマvs少女になんで話の半分も割いてんだ俺。訳わかんね…
ネタバレかどうか知らないけど、少女のモデルは「森のクマさん」です。クマと女の子が真面目に対峙したらどうなるのかな~、と少年漫画ちっくに妄想したらこうなりました。
奴隷ちゃんが野性児過ぎて困る。狩ったクマを肉骨皮に解体するヒロインってなんだよ。あれか、噂の森ガールって奴か。どうにかなりませんかねぇ。




