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魔法世界の奴隷と主人  作者: 小山 優
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第七章・後 弱い彼の強さ

「――で、これを基本に魔法式を書き換えると、簡単に流体イメージ補助ができるわけだ――」

 黒板に改造した魔法陣を描き、魔法使いは教室を見渡した。

 ほとんどの生徒はノートを取り、あるいは授業を聞いている。もっとも、

『授業中に僕を郵便係にしないでください。全員年上とはいえ怒りますよ』

――頭の中は別のこと考えてるみたいだけど。

 重要語句を小声で言ったやろうかと思うがやめておく。そこまで鬼畜ではない。

 何をどうやって聞いていたのかは簡単な話だ。テレパシーを傍受して盗聴していた。

――言っちゃ悪いけど、青二才が作った、防壁(ファイアウォール)も用意できてない小規模ネットワークなんて、ちょっと魔力波長変えるだけで簡単に傍受も割り込みもできるんだよね。

 授業を受けているのなら問題はなく、技術を生活に活かしているのは魔法応用学としては良い傾向だ。進度についていけなくても知らないが。

 内容と発信源から、リットとリスティナ、ファフナーが参加しているのがわかる。そして、

――あの子も、か。

 一瞬緩みそうになった口角をなんとかこらえる。

――友達も出来てるみたいで良かった。

 自分の手から離れていく寂しさはあるが、逆にそれが嬉しくもある。

『「ラッセル」で集合だ。わかったな』

 口調からしてリスティナだ。店名は魔法学院の近くのカフェテリア。いかにも年頃の若者が行きそうなところである。

「――発動妨害も防ぎたいから、パラケルススの防護式も入れておくと便利だね」

――俺らの時はそんなのなかったし、行く暇なかったのにな。

 いつの時代も若者が羨ましいと言うが、自分はもうそんな歳だろうか。まだまだ若いと信じたい。

 その時、授業終わりのチャイムがなる。なんとか切りの良い所までいけただろう。

「今日はここまで。来週からは実技も始まるから、予復習はしっかりね〜」

 言いつつ少女の方を見た。

 授業には慣れ、これからのお出掛けに少し楽しみにしているような顔つきだ。どうせ自覚できてないんだろうが。

――ああいう顔をもっとしてくれたら可愛いのに。



「またダメか…」

 研究室でそう呟いたのは、例の『まぬけ面』。

「? 実験結果は概ね良好だったでしょ?」

 時間は、授業が終わって一時間ほど後。レポートに目を通していた頃だった。

「あ、いえ、こっちの話です。博士号認定試験の結果です」

 言って、『まぬけ面』が見せたのは学院の公的文書。真ん中にでかでかと『不合格』と書かれている。

「…なんかもっとオブラートに包んで通知してほしいよね、これ」

「ええ…開ける前から裏から透けてましたもん」

 あーあ、とその書類が机の上に投げられる。

「これで三回目なんですよね、自分。博士号取って、もっと権限欲しいんですけど」

 学院では、博士号は役職ではなく権限として与えられる。研究室は室長や学長といった単位で与えられており、博士だからといってどうなるわけではない。

「研究ラインもう少し増やしたいからね〜」

 何が得られるのかというと、研究設備の使用許可等は博士号持ちしか出せないため、そのための頭数である。無論、別の研究室を立ち上げることもできるが、少なくとも今より予算や人員の条件は悪くなる。

「うちの研究室のためにもがんばってよ。俺も、十五のときに三回落ちて受かったから、大丈夫だって」

「あんたの場合は年齢が異常なんスよ!」

 これだから天才は、と『まぬけ面』は机に突っ伏す。

「何がダメだったの? 筆記は大丈夫だろうし、部内評価は一番良い点上げたはずだけど」

「レポートと実技がちょっとずつ悪いんです」

 それは自分にはどうにもできない。実技はセンス次第で、レポートは努力の産物だ。がんばれとしか言えないだろう。

「受かったら何か一個、欲しいものおごってあげるから、がんばりなよ」

「あ、じゃあハイルディさんから建築系の秘本もらいたいです。魔女の技術も勉強したいんで」

 ハイハイと二つ返事。どうせ使わないいんだ、気軽に寄越してくれるだろう。

「じゃ、俺、そろそろ帰るから、片付けとかよろしく」

「了解でーす」

 あの子によろしく、と言ったまぬけ面を小突いた。

「お前があの子とよろしくするのは千年早い」

「本当ひでぇなこの人」

 荷物を持って研究室を出る。人通りがまばらなのを確認して、

――そろそろ連絡入れるかな。

『リット。今どこにいる?』

『…いきなりテレパシー使わないでくださいよ…』

 学院の廊下を出口に向かって歩きながら、その場にはいないリットに話しかけた。

『…何メートル離れたところから、どうやってローカルネットワークに割り込んでくるんですか…?』

『そんな不思議なら、俺に破られないぐらいちゃんとした防壁(ファイアウォール)を作ってね〜』

 聞こえなくともため息をついて落ち込んでいる姿が想像できた。

『で、うちの子は何処で何してるの? 一緒にいるんでしょ? そろそろ迎えに行きたいんだけど』

『なんで知って…!』

 驚愕とも絶望とも取れる呻きのあと、リットは続ける。

『今は西通りの専門店街で立ち読み…ああ、他の三人は服屋で遊んでますね』

 聞こえた報告に顔がにやけた。

――皆と仲良くできてるみたいで良かった。

 気分は、娘に友達が出来たことを喜ぶ父親そのものだ。二十歳の父親とはやや若すぎる気もするが。

『ん? じゃあリットは本屋でひとりぼっちに立ち読み?』

『そうなりますね。僕には服屋(あんなとこ)の何が面白いのかわかりません』

 服なんてローブか礼服があれば他はどうでもいい、と六歳児は言う。

『リットくぅん? そんなんじゃ女の子にモテないぞー?』

『別に、モテてどうするんですか』

――トラウマがなければ、そこそこ楽しいのにな〜。

 もっとも、六歳児として異性に対する普通の反応だし、第一乳離れの方が成人より近いガキに何を求めるのかという話だが。

『本屋にいるんなら、ジル・ドレの「堕天の書」を買ってきてくれない? 明日お駄賃と一緒に代金も払うから』

『…わかりました――あ、三人が店から出て…』

 何かに気付いたように、リットは黙った。

『何? 変なものでも見たの?』

『変というか呆気に取られたというか…いえ、会ったときのお楽しみ、ということにしておきましょう』

 言っている意味が少しわからないが、彼女が店を出たというのはわかった。

『西通りだったね。適当に迎えに行くから、何処かに居るように言っておいて』

『はい。あ、でも…走ってどっか行きましたよ? あの方向は、確か一度迂回して西区に向かうルートだったと…』

 面倒臭いことになったなぁ、と内心ため息をついた。

『りょーかい。センセーが頑張って探すから、好きにしてて良いよ』

 はい、とややなげやりな返事が聞こえて、テレパシーを切る。

――西区、か。あそこ治安悪いから苦手なんだよな。

 行くか、と魔方陣を書き始める。

――あの子を守れなくて、ご主人様なんてやってけないしね。




 重力の回る感覚から抜け出す。

――やっぱり魔法って便利だね。

 西区の比較的大きな通りにテレポートして、辺りを見渡た。

 露店や人通りはあるのだが、どうにも暗い雰囲気や犯罪の匂いが漂う。レンガの町並みも、どこか汚れたものに見えた。

 ローマ西区。もともとは中心街であったが、王宮や内閣府の東への移動により、一気に旧都に、そして観光や小売りの衰退から貧困層が絶賛拡大中だ。しかも地価の安い都市の外縁なので、人口流入が激しいのもこの地区。結果として最悪の犯罪率と貧困層の拡大を招いていた。

 つまるところ、王都ローマ最大の汚点はこの地区である。あの奴隷商店があるのもここだ。

――探すの自体は簡単なんだけど…。

 自分の懐から取り出しのは、少女にあげた翻訳ネックレスによく似た淡く光る石、魔法石である。

――特別製のこれに波長を当てて…。

 その石に魔法の波をあてる。すると、その波が増幅されて周囲に広がっていき、

――名付けるなら、探知魔法(サーチ)…いや、古代語的に魔力波探知測距(メイダー)とか、レーダーとかか。

 周囲の地図の概形、人の動きをこちらの頭の中に情報としてこちらに送りこんできた。

――まだ開発中だから、本当は使っちゃだめなんだけど。

 現在、自分の研究室で開発中の新技術だ。魔力の波長を、イルカが音波を放つように使い、周囲の状況を把握する。しかし、開発中であるから不具合・粗が多く、かつ相手が手練れなら、自分の位置も相手に知られるので、戦争はもとより生活にも使えない。

 ゆえに、今回は特定の魔力以外には反応せず、設定した対象以外はあまり認識しないようになっている。今回対象に設定したのは少女にあげた翻訳ネックレスの放つ魔力だ。

 送られてくる地形のイメージと自分の記憶を照合していき、そして、

――いた。

 ネックレスの魔力と一緒に、膨大な魔力を持った存在が動いている。さすがに対象にしなくとも、『末裔』並みの魔力を持っているとレーダーに割り込んでくるらしい。横で微弱な魔力が動いている。迷子でも連れているのだろうか。

――レーダーの誤差があるから、テレポートは怖いしな。

 まだまだ粗悪なレーダーだ。そこだと思って跳んだ先が壁の中なら一大事だ。

――しょうがない、歩くか。



 迷った。

――あの子、出鱈目に歩きすぎだろ!

 正しくは、少女が歩き回りすぎてついていけてない、だ。

 また動き始めたレーダー上の少女に合わせて歩き始める。

 途中までは直線距離で学院を目指していたようだが、ローマ旧市街の整理されてない区画でそれは愚策だ。それがわかったらしく、もと来た道を帰るようにしたようだが、一つ道を曲がるのが早かった。

 二人の距離は徐々に縮まっているのだが、心配事は他にもある。

――着々と貧民街(スラム)に近づいてきているんだよな…。

 どんな国のどんな街でも、貧困層の人口流入があり、それに伴って貧民街(スラム)が発生するのは避けられない。ローマの場合はこの西区に生まれていた。

――チンピラに絡まれるぐらいなら良いけど、人拐いやマフィアの抗争に巻き込まれたらイヤだな…。

 念のため、護身用の魔法をすぐ発動できるように仕込んでおく。

――で、もういつあの子と会ってもおかしくはないんだけど…。

 そうこうしているうちに、誤差の範囲内ではどこにいてもおかしくないエリアに入る。レーダーによれば、今の自分の百メートル圏内にいるはずだ。

――どこにいる?

 自分がいるのは少し大きな通り。わざわざ裏路地に入っていくことはないだろうと思っていたが、見つからない辺り、その可能性は高い。

――早く見つかってくれよ。

 願いながら、横の路地に入ろうとして、

「――あなたがそこにいられると邪魔なんです。早く逃げてください」

――白…?

 少女を見つけた。



 はじめ、それは花びらが舞っているのかと思っていた。

 暗い路地の奥。そこで、純白に彩られた花が踊っている。三人の男たちを相手に、まるでダンスをするように花弁が舞う。足が優雅に敵を打ち、ひらりひらりと避ける度に服の飾りが光に煌めいた。

――きれい…。

 頭は真っ白に、その美しさに気圧(けお)されてなにもすることができない。

 少女の美しさに触れることなく、みすぼらしい男達は地に倒れ伏す。

 沈黙、そして決着。何も出来ることはなかったしする必要もなかった。

 茫然自失。だが、その虚無感と安心感を一気に打ち消したのは、

――後ろからもう一人…!

 突然横の小路から出てきた大男が、少女を横から棒で殴打したこと。

 その現象は一瞬で自分を我に返し対策を練らせる。

――早く! 速く! 彼女を助けるためには!

 もともと用意してあった護身用の魔法に、脚力強化と腕力強化を重ね掛け。魔法の発動ができると同時に走り出した。

――距離は二十メートル。行けるか…!?

 少女は今まさに地面へと押し倒され、襲われようとしている。大男の背中に覆われ、小さい体は見えなくなる。

――誰がさせるかそんなことッ! その子はうちの子で、俺のもの(・・)だ!

 あと十五メートル。右手を振り上げ、魔力の籠ったパンチを用意した、その時。

「――すんません…兄貴。こいつに、元々目ぇつけてた奴を邪魔されまして…」

 倒れてい男が、こちらと大男の間によろよろと立ち上がった。

――バカ、こんなタイミングで立ち上がるな…!

 自分は文化系で、戦闘技能なんて真面目にやってないし、この身体強化も誰もが学ぶ基礎の基礎だ。体はある程度鍛えているとはいえ、加減は出来ないし、あと十メートルもない距離で方向の微調整なんてとてもじゃないが無理だ。

「――でもそいつ、十六らしいですぜ。自分で言ってたから間違いありやせん」

 男がその言葉を言い終わってすぐあと、男の後頭部にこちらの右手がクリーンヒットした。

 上か下に振り落とされた拳骨は男の頭と体を的確に地面へと押しやる。だが、

――止まれない…!

 はなから止まる気もなく大男を吹き飛ばそうとして掛けたメチャクチャな身体強化。小男を一度殴っただけで効果を全て失うはずがない。このまま行っても、中途半端に大男にぶつかって返り討ちだ。

――止まらなきゃ!

 男を後ろから蹴り、足の勢いを殺す。打ち所がおかしいらしく、蹴った足が逆に痛い。

 一回では止まれない。体が立ったまま回転した相手の顔に、腹に、足に、計五回の蹴りを入れてやっと止まる。

――だけど、どうするッ!?

 目の前には襲われかけている少女。自分の身の丈二倍はあるかという大男。

「まあいい。たまにゃあこういう趣向もいいだろ。チビの方がイイっつー話も聞くからな」

 大男はまだこちらに気づいていない。そいつの気を惹き付ける程度に彼女が魅力的で良かったと思うべきか、そもそもの原因がそれなことを嘆くべきか。

 身体強化をする暇はない。いや、自分の身体強化などで倒せる体重や筋力なのか?

 時間はない。焦る。戸惑う。

 肉体攻撃がダメ。なら? 衝撃波で吹き飛ばすか? バカ言えそんな魔力量持ってないぞ。精神に、脳があれで…、痛覚が、こうでそうでああなって――行ける。だけど、だから、えっと――?

 頭は高速に思考を完結させていく。答えにはあともう少しで…

――…たどり着けた。

「――十六なら結婚できるだろ? ツカッた後は、薬でグチョグチョにして、どっか変態の金持ちんとこに売らせるから安心しな! どうせその頃にゃなんもわかんねぇようになってるぜ!」

 大男の手が少女に掛かる。

――時間はない。すぐに動け。俺に迷う暇はない。

 だから、

「ギリギリ法律的にセーフかなー。だけど、今やってる行為そのものがあらゆる面でアウトだと思うんだ、センセー」

 声をあげた。


 まず大男が体を振り向かせ、ついでその体の向こうから少女の、怯えきった、だけどほんの少し安堵した顔が見えた。

――まだそんな目で見ないで。ちゃんとできるか不安でしょうがないんだから。

 時間を稼げ。注意を彼女から逸らさせろ。彼女が助かればあとはどうにかなる。

「ああ、あと俺。いまめちゃくちゃ怒ってるから」

 嘘こけ。怒る余裕なんてないくせに。

――相手の体格は二メートル弱。脊髄がああなってて、感覚神経が…。

 脳は勢いよく情報を処理していく。所々あやふやなのは、時短というより切羽詰まった結果だ。

「てめぇ! 何をッ!?」

 足元でノビている子分だか弟分だかに気付いた大男は、少女を横に放り出し、臨戦態勢を調える。

「あー、今ので怒り度合が完全に振り切れたわ。何人か人殺したい気分かも」

 良かった。これで少なくとも負けてすぐに犯されているのを見る、なんて事態はなくなる。

――電気作用の魔法式を…ああくそ、この調子なら一発は攻撃を食らう。動体視力の強化を入れて…。

「モヤシ野郎、こんなところで何してやがる」

「やっぱり、俺ってどっちかって言うとモヤシの分類に入るのかな。よく筋トレしているつもりなんだけど」

 話を長引かせろ。一瞬でも多く俺に計算する時間をくれ。

――V=IR、IとRがああだからVがこうなって、視神経に魔力波はこうでそうで…。

「答えろよ! てめぇ一体手下どもに何をして――!」

「答えるわけないだろこのクズ。人でない奴にやる言葉なんてないだろ。あー、今、会話しちゃった。すぐに家帰って脳味噌から石鹸で洗いたい」

 バカ、なんで挑発した。思った言葉をそのまま言うな、悪態なんぞ考える暇があったら計算しろ。

――神経の、YがこうでXに代入して…。

「このクソ野郎がッ!」

 もう少し、もう少しだ。

――神経細胞モデルの連結点の破壊、情報処理と精神耐久の相互性が、で? よって、つまり…。

 大男が拳を振り上げた。

「語彙力が少ないと悪口考えるにも苦労してるみたいだね」

 喧嘩相手との会話を長引かせる語彙力が欲しい!

 大男は巨体を鋭敏に動かして突進してくる。恐ろしい。だが、

――Y=X^2+1=0。X=I、魔法の次元的不可逆。

 あと二秒欲しい。

 大男の拳がこちらの顔を狙う。動体視力の強化で動きは捉えられている。が、体の動きはついていけるか微妙だ。避けられるか?――避けるんだよ。

 体を捻る。顔面スレスレのところを岩石大の浅黒い手が通り抜けた。自分は捻った体のまま、相手の脇へと入り込む。拳と入れ違いに自分の手を相手の額の前に持っていき、そして、

――よってV=10,5!

 魔方陣が発動した。

 思考の中で繰り広げられていた計算が黄色い魔方陣の中に出現し、基本魔方陣の空白を塗りつぶしていく。

 全ての等式と証明が綴られたあと、魔方陣は、

――バチンッ!

 音を立て、青白い光を放って四散した。

――せい、こう、した…!

 途端に、大男は呻きもあげずに倒れてうずくまる。

「これだからクズは嫌いなんだ。好きでもおかしいけど」

 苦し紛れに悪態だ。精神的には胃がどろどろになってもおかしくない気がする。

「死にはしないよ。まあそれより悪いかもしれないけど」

 言った言葉がこの大男に届いているかはわからない。いや届いていない方がいいだろう。

――痛覚制御の暴走アンド悪用。我ながら恐ろしいことするよ。

 人間の体の至るところに痛みを感じる器官があり、それは感覚神経で結ばれている。ではもし、他の、味覚や嗅覚と言った感覚器官が送る信号を、痛覚として脳に送ればどうなるか。

 今、うずくまっているこの男の中では、服が肌と擦れる感覚、唾の味、鼻息が鼻毛を揺らした振動まで、痛みとなって脳を襲っていることだろう。

――即席でよくこんなことやったな、俺。

 以前、学院の会報で医学部のページをちらと見ただけだ。魔法で電気を生み出し、それで以て感覚・運動神経に干渉する。本来は半身不随の患者や義手のテストに使うらしい。

――俺が天才で良かった。

 念のため、周りの倒れたチンピラ達には気絶用の電撃を浴びせておく。時間さえあればどうとでもできる、難しい魔法じゃない。

「…どうし、て…?」

 壁にもたれていたらしい少女が細々と呻きの声をあげる。

「ああもう喋らない。何回も殴られたんだから」

 今は質問に答える気力もやる気もない。

 彼女のすぐそばに行き、頭を動かし、膝枕をする。

 自分の真下にきた彼女の顔。目があった。

 不安に怯えていたのに安心して、優しさと気高さと、そして愛しさを持った目。ずっと、いつまでも、見続けていたいような、綺麗な瞳。それへの思いは、きっと保護欲や父性愛ではなくて…。

――…俺はこの子にそんな感情を抱く権利はない。持ってちゃダメ。持てばきっと、自分が愛しいままにこの子を無茶苦茶にする。

 そこで、彼女の肩に殴られた傷があるのを見つける。

「左肩、ちょっと切れてるね。待ってね、と」

 その肩に魔方陣を書き、発動する。

「治療の前の、鎮痛用魔法だ。麻酔も兼ねてるから、ちょっと眠く…ああもう寝そうだね」

 少女はなにか言いたそうに口を動かしかけて、魔法の眠気に負けて気を失った。

「おやすみ、お姫様」

 可愛いらしい寝顔を触り、柔らかい肌を撫でる。

――こんなに綺麗な服着て、リットが言ってたのはこの事か。

 白のワンピースに、毛糸で編まれたオシャレ用のエプロン。見立てはファフナーか。リスティナは服ではなくその中身にしか興味がない。靴にも拘れと言いたいが、拘ってたらまともに応戦できてなかったろうから許そう。

――連絡、いれないと。

『誰か、今、ローマにいる? すぐ返事して』

 テレパシーを使った先は、研究室のローカルサーバー。自分の部下達に届くようになっている。

『はーい、室長。どうしました?』

『西区で婦女暴行未遂、四人チンピラがノビてる。場所は大通りから一本中入ったところ。警備部に連絡お願い』

 出てきた女性研究員に捲し立てた。どう言うことだと聞いてる声を無視して回線を切る。質問に答える元気はない。

 はぁ、とため息をついて一服。

――いろんなことをし過ぎた。家に帰って甘いものが食べたい。

 膝枕をしながら空を見上げた。建物と建物の間から見えた空では、夕焼けの中に一番星が見えてていた。

「…きれいだ」

疲れた…

新学期の慌たしさに忙殺されつつ七章終わり。ストーリー的には半分来たかな?ってぐらい


いろいろ設定とか話したかったはずなんだけど、なんも浮かばねぇぇ

とりあえず相思相愛みたいなもんなんだから早くくっ付けよこいつら。誰か壁殴り代行呼んでこい。


思い出した

設定


リット

人間とエルフとドワーフの混血。あとはバカみたいな天才。その他はいたって普通の六歳児。ちょっと大人びてるぐらい


ファフナー

ドラゴン(黒竜)の子供。十四歳。この年でほぼ完璧な人化ができるのは異例なので、学院に入学できている。竜繋がりでリスティナとは幼なじみ

(チラ裏 心は女、体は男な性同一性障害だったり)


リスティナ

竜人の族長家系。十七歳。救世の末裔の血が少し入ってる。思春期で盛り時。服は嫌い。竜繋がりでファフナーとは幼なじみ

(チラ裏 心は男、体は女な性同一性障害だったり)


この二人は、小さい頃から男女の性格が御互いおかしいことには気づいていて、人前でそれを隠すのもなれた感じ。だからこそ人に言えない悩みを互いに打ち明けあって、そこから一線を越えてきゃっきゃうふふペロペロな関係。人外×人外っていいね。攻めは勿論リスティナ。ドラゴン(を)姦って需要あるのか?


リットは別の話の登場人物。そのうちアップ予定

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