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魔法世界の奴隷と主人  作者: 小山 優
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第五章・後 知るが故の

「まず、魔法式と魔方陣の違いを説明するね」

――さすがに、ドラゴンと竜人を一気にはじめて見るとか、理解のキャパシティ超えるよなー。

 魔法使いは授業をしつつも、少女の顔を思い出す。完全に状況についていけなくなった顔だ。

――面白いと言うか可愛いと言うか、良い顔してたなー。

 昔から人の驚いた顔を見るのは大好きだ。それが可愛い子なら尚更。

「魔法式とは、魔法を発動するためにかかれる文字や記号、場合によっては数式や絵のことを指している。ようは発動のための理論と命令のこと。大抵は石灰とかで書いてるね」

――それにしても、まさかあいつがあの子を授業に連れてくるとはな…。

 教室に入るなり、一番後ろの端という、下からみたら一番目立つ場所に居た女性研究員を見つけた。その次に少女だ。

『なにやってんだお前』

 生徒に号令を掛けさせる前、思念を魔法で伝播させる――つまりテレパシーで、女性研究員に問い掛けた。

『これで先週のことはチャラに!』

 そういう魂胆か、と内心溜め息をついた。『許す』それで許した自分も大概だが。

「その魔法式を組合せ、円で囲ったものが魔方陣。つまり魔方陣の一部が魔法式なわけだ」

 黒板に『陣>式』と板書する。

「皆が何気無く使っている魔法は、魔法式で理論付けされ、魔方陣で平面に固定して、そこに魔力を注入することで発動する」

 質問ある?

 聞くと、当然チラホラと手が上がる。当たり前だ、疑問が出るように授業をしている。ファフナーをあてた。

「はい――それだったら、さっきの、先生が壁を直したみたいな自分で魔方陣を光で産み出したりするのはどうしてるんですか? それに、僕が姿を変えるときにそんなこと意識したことないし、リスが飛ぶのも一応魔法のはずなのに魔方陣なんか出てきてませんでした」

――ちゃんと全部気付いたか、偉い偉い。評価に少しプラスしておこう。

「それらには全部同じ答えで答えられるね」

 ビシリとファフナーを指差し、

「慣れ、だ」

 はあ?、と生徒の何人かが怪訝な顔をする。良い顔だ。

「俺らが歩くとき、誰も、関節をどう曲げて重心をどこにおいて足をいつ出すか、なんて考えない。それと一緒で、わざわざいつも使っている解りきった理論、魔法式は省くことができる」

 つまり、

「解っているなら言わなくて良い。慣れてくれば、大抵の魔法はただ対象を固定するための円を書くだけで発動できる。簡略化の最終形態は、無呪文・無魔法式・無魔方陣の、思っただけで発動させることだ」

 その一般例として、ドラゴンや竜人がいる。

「魔力を持った獣であり、人型を捨てた竜人でもあるドラゴンはヒトとケモノの境界が曖昧で、息をするように変化の魔法を使える。魔力量が他の種族と比べて格段に多い竜人は、日頃から魔力波を翼から持続的に出して飛んでいる」

 じゃあ次、と黒板の文字を消した。

「次はその魔法式の内容を説明していくね」

 テキストの巻末付録を開けて、と促した。

「魔法式は、いわば何をするか、どうやってするかを細かに設定したもの。その組合せによって何の魔法が発動するかが決まる。基本は古語――五百年くらい前の文語が使われるんだけど、現代語でも簡単なものならできるし、超古代の口語を使った、洒落にならないぐらい強力な魔法を作れる奴もある」

 まずは古語の基本魔法式から、と自分も巻末を開けた。

「そこに載っているのが、魔法式を魔方陣に書き込むときの文法だ。言葉を円形に書くオーソドックスなものから、一面が楽譜やら絵やらで埋め尽くされたものもある。奇抜なやつって言ったら…」

 ミサとか歌う人いる?、と聞くと一人二人手をあげる。

「聖歌の歌詞で魔法式を空中に生み出して発動するのとかもある。国家規模で結界型魔法を発動するための、地球の大きさから考える魔法式もあったかな」

 自分に合う奴を見つけてね、と言うて、何人かが必死になってページを捲り始めた。俺もああいうのやったな、と思い出した日々は少し古い記憶だ。

「で、魔法式を書く、と言っても一概じゃなくて、例えば『火をつける』という動作をするとき、現代語で『火をつける』という意味の魔法式を書き込んでも火はつけられる。だけど、『自分の前方にある七面鳥を焼くために』『肉の内側から』『強火で』火をつける、なんて長くて複雑な魔法式の文法は、古語じゃないと表現がしにくい。これが、まだ現代語で簡単な魔法しかできない理由だ。逆に超古代語なら、口語だから複雑な式でも簡単に表現できるわけだ」

――数式や絵だとまた別の制約があるけど、まあまた今度で良いか。

 次に黒板に書いたのは、三つの円。うち二つは中に細々と文字が書きたくられている。

「まず、何も書いてない奴。これが基本魔方陣と呼ばれるもの。効果は、ただ単に魔力を貯めるだけ。一定量貯まっても起こるのは爆発や暴発だけで、ほとんど意味は持たないと言っていい。だけど、書くのがが簡単だから鉱山なんかで削岩用に使われてるし、戦争じゃ緊急対処用の爆発魔法として使われてるね。慣れて魔法式を省く場合に使うのもこの魔方陣だ」

 自分の場合は、基本魔方陣(ここ)に貯めた魔力を、頭の中の魔法式に当てはめて使っている。

「次は、一般的な『火をつける』魔方陣。古語は、まあ大学部来る奴は大抵読んだことも書いたこともあるだろうし、竜人とかエルフなら初めから読めると思うけど、読めない奴は勉強しといてね。助詞とか活用語尾が違うぐらいだからすぐ憶えられるよ」

――俺は大学部時代に必死こいて憶えた派だなー。

「書いてあるのは古語の文語体だけど、基本的な形式は現代語でも数式でも変わらない。絵は俺の専門外で軽々しく教えられないから、美術科の先生のとこ行ってね」

 もっとも、そんな奇抜な魔方陣を書くなら違う学問を学べよという話だが。

「で、最後。みんなは絶対に使わないけど、絶対にお世話になってる魔方陣だ」

 三つ目の魔方陣。そこに書かれた言葉は、二つ目に書かれた古語とも、現代語とも違う。否、比べればそれは記号か絵だろうと言われるほどに異なったもの。違う文化圏の文字のようだ。

「これは超古代語。千年は昔に使われていた言葉で、そのころからして失われた言語だったらしい。成立は云万年前。文明が一つ二つ変わるぐらい昔のものだ。当然、魔法学院(ココ)で教えてる授業も学科もない。使われているのは、昔からある宗教関係の魔法や、古代建築の基礎。かくいう魔法学院(ココ)のチャイムを鳴らしているのもこの魔方陣だし、『救世の末裔』が出張ってくるぐらいの大戦争ならしょっちゅう見る」

 読める奴、いる?

 手は上がらない。

――今年はいないか〜。

 そもそも読める必要などない文字だが、二期に一人か二人、読める者が入学してくる場合もある。大抵は『救世の末裔』で、その中でも由緒ある家系や魔力量が極端に多いものだ。

――読めたら花持たせられたのにな〜…。

 自分の授業の方針は、できる奴をとことん誉める、だ。解説の出来る奴に喋らせればその子自身の能力や自信の向上にも繋がるし、集団の中で誇れるという優越感も与えられる。それでもっと勉強してくれればいいし、周りの奴も負けじと努力してくれれば尚良い。

――『特別』クラスに来るぐらいの子なら、なにかしら一芸は持ってるし、成績不振者には俺が意地でも解説できるぐらい補習してやるし。

 読めないなら仕方ない、と授業を再開しようとした。だが、

「――彼方へと行くもの、この音に誘われん…?」

 小さく、自信なさげな声だった。しかし聞き逃さなかったのは、その声があまりにも予想外で、聞き慣れていたから。

――どうして、読める…?

 その声は教室の一番後ろから聞こえていて、

「我が手に汝の未来を…あの、申し訳ありません。私、いらないこと言いましたか?」

 それは、紛れもない、自分の奴隷である少女の声だった。



「…君、読めるの?」

 仮にもう一人の自分が今の己を見たら、実に良い顔が見れるだろう。

「はい。小さい頃に習いましたので」

――有り得ない…。

 黒板に超古代語の文を書き殴る。複数構文を複雑に組み合わせた難解な文章。

「読める?」

 聞くと、少女は小さく頷き、

「――水の化身たるウンディーネの住まう場所に入ることは犯されざる禁忌とされている。なぜなら、侵入した者達はすべからず彼らの怒りに触れ、二度と日を見ることはないのだろうから」

 完璧な訳文だった。わざと普通は知らない固有名詞を使ったのに、だ。

「発音はできる?」

「ええ、はい」

 長ったらしい原文が、きれいな発音で読み上げられる。

――この子は…!

『この魔力量、おかしい――多すぎるんだよね』

『ドイツ北部出身』

『普通の農民です…今は違いますが』

――いったい、何者だ?

奴隷ちゃんに古代語を読ませるがために無駄な授業を積み重ねる…、費用対効果が合ってないよなーと思いつつ世界観を喋るのは楽しくてやめられない



固有名詞キャラが一杯出てきましたが、基本他の物語のキャラです。楽しいねワールドシェアリング

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