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魔法世界の奴隷と主人  作者: 小山 優
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第四章・後 これからの課題

 少女は何かがおかしいと思っていた。

「ああもう本当可愛い!」

 最初に会った女性研究員が、その頬をこちらの髪に擦り付けてくる。髪型がぐしゃぐしゃになるからやめてもらいたい。

 溜まった書類の一日分を午前で消化して、午後からもう一日分、と思って入った昼休み。

――あの人がこっちをほっぽりだした時は少し戸惑ったけど…。

 見知らぬ事務所でいきなり一人にされたのだ。戸惑わないわけがない。

 もっとも、そう言うことにはもう慣れたし、「間抜け面」の人の補助もあって問題なく業務は進んだ。だが、

「奴隷ちゃんの触り心地、スゴく良い!」

――この待遇は奴隷として間違っている!

 昼休みに入るなり、研究員数名に囲まれ、質問責めに遭い、頭を撫で回された。今も何人かが話しかけてきている。

 小さいだの柔らかいだの可愛いだの呼ばれる――悪い気はしないが――奴隷がこの世にいるのか。ここにいる。なんでいるんだ。ワケわからない。

 一般常識的な話をして、奴隷と云うのは虐げられる存在であるし、そうするのが普通だ。可愛い可愛いと愛玩することには、「性的に」という副詞が付くはずだ。纏う空気は、こんな子供を可愛がるような――実家を訪れた姪っ子を親戚連中がチヤホヤするような――雰囲気ではない。

――奴隷っていうのは、もっと惨めで暗くてつらい身分のはずでしょ!?

 奴隷の自分がそんなことを思うのも変な話だ。

「…なんで皆さん、そんな態度なんですか…?」

 浮かぶ疑問に耐えきれず、その質問をすると、周りの皆がキョトンとする。

「なんか俺ら、変なこと言った?」

「私がこれでもか、ってぐらい頭を撫でたこと?」

 それだ、それだな、と他の研究員達が言う。じゃあ、と女性研究員は、

「あまりにも可愛くて興奮しすぎました。すいませ――」

「違います!」

 叫んで否定する。科学者という人間は皆こうなのか?

「なんで、奴隷の私に、そんな好意的に接してくれるんですか? 普通、もっと差別されたり、蔑まれたりする身分じゃないですか」

 言われた研究員達は、うーん、と悩み、

「俺ら、って限らないんだけど、魔法学院(ここ)で働いてる人らって、そういうのに慣れちゃってるんだよね」

 例えば、と視線を動かしたその男性研究員は、集まっていた数人の中から褐色肌の同僚を見つける。

「あいつ、肌の黒い兄さんいるじゃん? 種族的には純血エルフに四分の一だけドワーフが混ざってるんだけど…」

「そうすると、褐色エルフ。所謂、エルフの伝承に登場するダークエルフにそっくりになるんだよ」

 男性研究員の言葉を褐色肌の研究員が引き継ぐ。

「で、魔法の技能は、エルフの高い魔力量とドワーフの器用さが混じって、かなり高い水準を持ってる。だけど、エルフの中じゃかなり差別される人種なんだ」

 他にも、と声を上げたのはこちらの頭に頬をつけたままの女性研究員。

「私は解放奴隷の子孫だし、脱走農奴の友達もいるよ。そんな中で、身分で差別しようとか考えてたら、誰とも話せなくなっちゃう」

――え、でもじゃあなんで…

「皆さんは普通に生活できてるんですか…?」

――身分が低いなら、受けられる教育も自然と低レベル化するはずなのに。

 言ってから、かなり失礼じゃないかと思ったが、研究員達は笑顔で答える。

魔法学院(うち)の入学・採用規定は『学と勇と心のあらざる者の入学を禁ず』。逆に言えば、才能さえあれば、幾つの歳でどんな身分で何の種族の奴でも入れるんだよ。今年の大学部の入学者で一番小さい奴は、たしか六歳だったかな」

「だから、私達みたいな人でも、能力さえあれば上に行けるんだよ。ここでは」

 それに、と男性研究員は、遠くで「間抜け面」の人と話していた魔法使いを見た。

「俺らの中で一番ヤバい経歴持ってるのは、室長だと思うよ」

 え、と思わず呟きが漏れた。

「あの人、今二十歳なんだぜ? 普通だったら研究員の下積み時代に室長に抜擢されるぐらい優秀なのに、後ろ楯にどっかの貴族がいるとかいう話も聞かない。王族とかの親類でもない」

「しかも、詳しいことはなんにも話してくんないんだよな。奴隷程度のスキャンダルならありふれてるここで言えない経歴なんて、臭いこと間違いなし。『あの』ハイルディさんともなんか関係あるらしいし」

――いつも一緒に生活してる分には、少しバカな普通の人だけど。

 彼は、その内に何を抱えているのだろうか。

「室長の、学生時代の多重股伝説とか、超修羅場事件とか、話してあげようか?」

「それは…」

――ちょっと興味あるかも。

 女性研究員に聞こうとして、昼休み終了のチャイムがなる。全員が慌てて持ち場に戻っていった。自分もそそくさとデスクに戻る。

 魔法使いの方も、授業をするために事務室を出ていく。その途中、こちらに気付いて笑顔で手を振ってきた。無視する。

 その姿が部屋から消え、急に心細いような感覚を得る。

――…私の主人が一番ヤバい、か。

 彼について自分が知っていることはないに等しい。大学教授だとか、朝が弱いとか、エロい元恋人がいるとかだけだ――やっぱりバカなんじゃないか?

 彼が高名な魔法使いだということもここで初めて知った。人に言えない過去を持っていそうと聞いたのもさっき。

――…どうして私を買ったんだろう。

 優秀なら、もっと質の良い奴隷や召し使いを買うこともできたはずだ。なぜわざわざ、檻の中で暴れていた自分を買ったのか。過去に暗いものを抱えているなら、静かに暮らしたいか、その過去を慰めてくれるものが必要じゃないのか。

――…本当多いなこの書類。

 思案に更ける自分の前にあったのは紙の山。

――早く片付けないと。

 山の中から一枚を取り、処理にかかる。

「問題はまだまだ山積みだ」

終盤まで山場がない。

これだったら最後までただの会話劇でおわっちまうじゃねーか!


ということで解決策を考え中



テスト期間が終わったので執筆速度があがる予定。ああ、文芸の原稿も書かなくちゃ…

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